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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
1966/2685

戦争と平和、その502~廃棄遺跡㉑~

 ティタニアがどのような表情をしているかは不明だったが、手には炎のように赤く輝く宝玉をはめ込んだ剣が握られている。

 ティタニアはそれを少し掲げると、一瞬微笑んだような気がした。そしてよろめいたのか飛びこんだのか――ティタニアがぽっかりと開いた穴にその身を躍らせたのだ。


「ああっ!?」

「自殺・・・?」

「あれしきで剣帝が死ぬタマですか? 下に逃げたのですよ!」

「今のが――本物のレーヴァンティン?」

「く・・・こんな形で中層に突入することになるとは。クローゼス、先導なさい。我々も下に向かいます!」

「わかりました」


 クローゼスは、アルフィリースに代わっている何者かの命令を拒否するそぶりすら見せない。それはミュスカデも同じだが、ラーナだけが強固な意志を持ってその命令をはねつけようとしている。

 魔女に対する絶対的な命令権――それが何を意味し、彼女の正体についてラーナは薄々と感じつつあったが、口にするのはいまだに憚られていた。正体を明かしてしまえばアルフィリースごと消えなかねない。そんな気がしていたのだ。

 そしてリサはすっぽりと開いた穴の下にセンサーを走らせると、その下の様子をおぼろげながら掴み始めていた。


「剣帝ティタニアが下に逃げた・・・? いや、下に何かを追っていったのか。まだ下にはウッコとおぼしき化け物、それに他にも何人かがいるような気配が――ち、センサー妨害の魔術でも敷いてあるのか、鉱石が未知のもののせいか、思うように探れない。じれったいですね!」


 リサはその気配が誰かを探る暇もなく、彼女もまたアルフィリースたちと共にさらに深くへと潜ることになるのである。


***


――アルフィリースたちがウッコの部屋に前に来る少し前のこと――


「ルナ、いける?」

「問題ない、この遺跡は真の闇ではなく、うっすらと壁が光っている。これくらいなら松明はなくても歩ける」

「僕も支障はないよ。どんな素材でできているのだろうね。灯りを置いたり差し込むところもないし、この遺跡を作った人はこの暗がりでも普通に歩けたのかな?」

「さあ」


 ルナティカはいつになく饒舌なレイヤーの投げかける疑問を適当に流しながら、ティタニアを追っていた。アルフィリースの命令でレイヤーとともにティタニアの追跡に出たのだが、ティタニアが脱走したという部屋の割と近くにティタニアの痕跡が残っていたのは幸いだった。

 普通の人間にはわからずとも、ルナティカはごく微量でも一度嗅いだ相手の血の匂いは忘れない。ティタニアの処置をした包帯などからティタニアの血のにおいを覚え、そこから少しずつ残るティタニアの痕跡を追ってこの遺跡にやってきた。時にティタニアの匂いがふいに途切れることがあったが、そんな時はレイヤーが補佐をして痕跡を見つけていた。

 どうやらティタニアは短距離転移のような魔術を使って移動しているようだが、レイヤーの直感はティタニアを逃さない。ルナティカの追跡は技術と能力によるものだが、レイヤーの追跡は直感によるところが大きい。ティタニアがさほど長距離を跳んでいないのが幸いしているが、それにしてもレイヤーの追跡が正確なので、ほどなく痕跡を発見できていた。

 レイヤー曰く、ティタニアが跳んだ跡なるものは『揺らぎ』として感じられるのだそうだ。ルナティカには全くわからない気配であるため、この二人でなければアルマスの腕利きでも、センサーでもティタニアの追跡は困難だろう。

 だからアルネリアの案内もなく、先んじてこの遺跡にまで二人は追跡できたのである。遺跡に入って間もなく、ティタニアの移動を把握できる距離に差を詰めた二人。ティタニアが万全であるなら二人の追跡にも気付いたかもしれないが、もはやティタニアにもそれほどの余裕はないようだった。片足を引き摺っているかのように、地面の血の跡が妙な間隔を置いている。


「傷は浅くないね」

「わからない。体力を温存しているだけかも。少しずつ、血の跡の間隔が長くなっている」

「回復してる? この短時間で?」

「相手は黒の魔術士。常識がどこまで通用するか」


 ルナティカが地面の血の跡を見ながら、やや不安そうにつぶやいた。だがレイヤーは強気に答える。


「早く仕掛けた方がいいのかな?」

「冗談。剣帝相手になんとかできるわけがない」

「そうかな? 今なら、拘束くらいはできるかもしれないけど」

「自信過剰?」

「いや、確信みたいなもの。この遺跡に入ってから、なんだか調子が上がっているみたいだ。感覚も研ぎ澄まされているし、緊張もしていない。とても良い状態なんだ。まるで――うん、自分の部屋でくつろいでいるみたいに。いや、それ以上かな」

「・・・」


 レイヤーの実力が上がっているにしても、剣帝に届くとは思えないルナティカ。だが、レイヤーは根拠のない妄言を吐く人間ではない。本当に自信が芽生えるほどに絶好調なのだろう。それにしても自分の部屋とは、変な比喩だとは思ったが。

 そうするうちにレイヤーに変化があった。急に早足になったのだ。



続く

次回投稿は、4/1(水)13:00です。

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