戦争と平和、その500~廃棄遺跡⑲~
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「はぁ、はぁ・・・死ぬかと思った」
「軟弱な奴め。それでも黒い鷹の副隊長か」
「なんでこんな急角度の氷の滑り台を、5回連続で頭から滑らないといけないんですかねぇ? しかも最後のやつなんて、20数えてもまだ着きやしないほど長いし!」
「死ななかったんだからよいだろう?」
「よくねぇっす! 最後、クローゼスちゃんが気付かなかったら俺だけ滑り台からはみ出て死ぬところだったんすよ!?」
「私をちゃん付けで呼ぶな、なれなれしい男め」
クローゼスに尻を凍らされて悲鳴を上げるレクサス。どうやら最深部に到着したのか、台座は今までのものよりかなり広く、そして広い道へと人工の橋がかかっていた。全員が降りて来るのを待っていたということもあるが、誰もがその先へと行こうとしない。それはこの道の先にある強大な気配を感じているからであり、一歩踏み出すことを躊躇っていたのだ。
だがアルフィリースだけは冷静にそこでもう一度地面から光の文字を呼び出すと、現在の場所を確認していた。
「ふむ、ここが15層なのね。となると、実質はここが底ね。狙い通りここまで最短経路で来れたわ。あとは準備を整えて乗り込むだけかしら」
「ここが最深部? かなりの距離を降りましたが、穴はまだ下に続いていますよ?」
「ああ、気にしなくていいわ。ここから下は管理者だったシモーラですら立ち入れない、禁足地。存在はするけど、立ち入ってはならない領域とされているわ。精霊もここから下には存在せず、下に行けば帰ってくることは不可能だわ」
「管理者――遺跡の番人のようなものですか? まるで面識があるかのような口ぶりですね」
リサの言葉に小さくアルフィリースは頷いた。そして先頭に立って歩き始めると、少し事情を説明し始めたのだ。そのことが気にかかる面子が続き、つられて全員が動き始めた。
「私が何者か直接語ることはできませんが、おおよその推測が立っている者はいるでしょう。それはアルフィリースも含め、ね。多くは語れませんが、私の知っていることでよければウッコの元につくまでに語りましょう」
「――気になるところです」
真っ先に返事をしたのはラーナである。アルフィリースと共にいる者が何者なのか、最も気がかりなのがラーナなのかもしれない。
アルフィリースである何者かが謳うように語った。
――かつて七つの遺跡と、七体の強き者、七つの力ある種族あり。それはすなわち浄化、知識、戦、再生、探求、進化、回帰。そしてダレンロキア、イグナージ、エンデロード、ダルダリアン、バロール、ユルルング、メリージェーン。今では古竜と呼ばれる新竜、人と魔物の新たな可能性と呼ばれた魔人、魔の海を突破する力を持った天翼族、千年先を見通す見識をもった賢人族、力と生命力に優れた古巨人、闇を司る闇人、戦いに特化した戦神の銀の一族。
彼らは力を合わせ支え合い、かつて何もなかったこの大地で生命を育み、新たな種族を育てた。それが竜であり、人間であり、獣人であり、巨人であり、ハイエルフだった――
「え? ハイエルフは力ある種族に入らない?」
「彼らが自分たちのことをどう思っているかは知っていますが、ハイエルフは力ある種族には加えられませんでした。別に力ある種族というのは彼らが決めているのではなく、ただ『最初に在った』というだけです。個体差は常にありますし、単純な力でどれがどう優れているというのはありませんが――強いて言うなら、ハイエルフは寿命が長くまた次の世代を産むことがほとんどないため、種として硬直化していると判断されました。
かつては自然も他の種族も同様に愛していたのに、いつの間にか偏愛と妄執、傲慢の塊になってしまった。だからこそ7つの力ある種族は彼らを肝心な話し合いに参加させなかった。結局そのことが、余計に彼らの暴走を招いたのかもしれませんが」
「・・・このことを知っていて、現在生きているのは?」
「ダレンロキア、イグナージ、エンデロードくらいでしょう。バロールは寿命を迎え、ダルダリアンは海に出て行って行方不明。同じくユルルングは天に消え、メリージェーンは狂う前に闇に溶けていち早く自我を失くすことを望んだ。オーランゼブルは若かったから知らないかもしれませんね。
新竜――真竜と魔人が戦い始めたことで、7つの種族は大きくその数を減らしました。古巨人はブロンセルを除いて全滅、賢人族もドラグレオを除いて滅びました。銀の一族も最初の世代はほとんど死に絶え、肝心の知識と志が継承されなかった。天翼族はおおよそが戦いを嫌ってこの大地を後にし、残った者は人と交わり有翼族と呼ばれました。闇人はいつの間にか姿を見せなくなり、魔人はもはやブラディマリアのみ。真竜のみが生き残りましたが――真竜だけでどうなるものでもありません」
「え? ドラグレオが賢人族? えぇ?」
何名かが素っ頓狂な声を上げたが、アルフィリースである何かは構わず話し続けた。
「私がかつて出会ったのは、この遺跡の管理者であるシモーラ。この遺跡はかつて、浄化の遺跡と呼ばれました。その機能が一部残存しているがゆえに、この一帯は清浄なのです。清浄がゆえに、人間の反抗拠点として大戦期で最前線となったのは何とも皮肉ですね。
遺跡の管理者は原則自らの遺跡を離れることはできませんでしたが、シモーラはやがて遺跡すら機能停止する未来のことを考え、制約の範囲内で積極的に動き回っていました。彼女は7体の魔獣に知恵を授け、7つの種族を大きく成長させました。私は定期的にその手伝いをしていたのですが――」
「ですが?」
「私の顕現は不安定でした。その理由は今は話せませんが――周期的に休眠し、活動する永き時の間に、遺跡のいくつかが原因不明の機能停止をしました。シモーラもその一つ。シモーラ自体はあと1万年は活動できるはずだと言っていたのに、どこにもその姿が見えなくなっていたのです」
「心当たりは?」
「あるにはあります。この遺跡のさらに下――不可侵の『中層部』です」
「中層部? 最深部じゃなくてか?」
ラインの言葉に、アルフィリースが頷いた。そして彼女の言葉が衝撃をもたらした。
「シモーラは上層の管理者だと言っていました。中層以降は、自分でも知ることができないと。何があるかは想像がつくが、決して開けてはならないものだと言われていました。それが開く時は、この大陸が何度滅びても足りないほどの力が溢れうるとまで言われたのです。
おそらくは、ウッコとアッカは中層以下の魔獣。それらが何らかの拍子に開き、外に出てしまったのだと考えています」
「おいおい、なんだそりゃあ? なんでそんな化け物を閉じ込めた遺跡が、こんなところにありやがる? 誰がそんなものを、何のために作ったんだ?」
ベッツの疑問に、アルフィリースは考え込んだ。そしてディオーレが、彼女に似つかわしくない突拍子もないことを言いだした。
続く
次回投稿は、3/28(土)13:00です。