戦争と平和、その493~イェーガー内、深夜③~
「ゆ、揺れていますわ! 誰か!?」
「なんだこの揺れは?」
「これは――魔術? いえ、衝撃波?」
マイアの言葉を受けて、ミラがいち早く動いた。簡単な火の魔術で灯りを発しながら、部屋に飛び込んだのだ。
「ウィラニア殿下、御免つかまつる!」
「あなたは?」
「話は後で! ここは危険にございます、陣にお戻りを!」
ミラがウィラニアを抱え上げると、窓の外に飛竜が姿を現す。最悪、突入と脱出の用意をしていたのだろう。部下が外から窓を突き破ると、ミラはウィラニアを抱えたまま飛竜に飛び乗った。
ウィラニアは寝起きで抱えあげられて何が何だかといった表情だったが、まだすやすやと寝ているイルマタルの方に向けて思わず叫んだ。
「イル! 助けて!」
ミラの顔を見たことがなかったせいか、それともまだローマンズランドには帰りたくなかったのか。思わず口をついて出たその言葉が、イルマタルを一瞬で覚醒させた。
イルマタルががばりと飛び起きると、外に飛び出るところのウィラニアを見つける。
「ウィラニア!」
イルマタルが部屋から飛び出そうとして、他の騎竜がイルマタルに向けて威嚇を行う。だがイルマタルがぎらりと睨むと、それらの騎竜は本能からか、一瞬で怯えて引っ込んでしまった。
「おい、どうした!」
「なぜこの小娘に怯える!?」
竜騎士たちはわけがわからずバランスを崩した騎竜を慌てて立て直すが、竜としての格からすれば当然の出来事である。幼くともイルマタルは真竜、騎竜が本能的に怯えるのも無理はない。
だがその一瞬でミラは滑空から勢いをつけて急上昇しており、離脱しようとしていた。イルマタルはそのまま竜に姿を変えて空に飛びだそうとしたところで、マイアにしがみつかれる。
「イルマタル! 自重なさい!」
「放して! ウィラニアがさらわれちゃう!」
「元の場所に戻るだけよ」
「でも、ウィラニアの意志じゃない!」
そう言ってもがくイルマタルの力は、マイアでもてこずるほどだった。どこにこんな力が――それに、ウィラニアのことをそれほど気にかけるなど、アルフィリース並みの扱いではないかとマイアが思った矢先である。
マイアもまた、ウィラニア方から不思議な力を感じた。マイアもまた、ふらりとウィラニアを助けに行かねば――そんな気持ちを感じたのだ。
マイアは頭を振って、その感情を否定した。
「これは――そうか、ローマンズランドの血筋の力ね。その王家の血筋を手に抱きながら、なおかつ騎竜の操縦をこなすあの女竜騎士、見事だわ。今は若くとも、さぞかし名のある騎士になるに違いない。
だけど今の衝撃波は一体――何か一大事が起こっているのであれば、確かにローマンズランドに一度彼女を返す方が無難かもしれないわね」
「マイア殿、これでよかったのですか?」
「ええ、おそらくは」
「先程の揺れは一体・・・?」
「それはなんとも。ですが、団内の警戒態勢を一段階上げた方がよいかもしれませんね」
「もちろんそのつもりですが、アルフィリースは無事でしょうか・・・?」
エクラのその問いかけに答えるすべをマイアはもたなかった。同時に、マイアもまた同じ焦燥に駆られるのだが、かといって何も出来ることはなく、ただ衝撃の原因を想像することしかできなかったのだ。
「(今の衝撃は、おそらく魔術によるもの。ここまで伝わる魔力反応が、しかも複数あった。どんな魔術合戦を行っているのか・・・その中には魔力反応を伴わないものがあった。何がこの都市で行われているの? グウェンドルフ、あなたは今どこで何をしているの?)」
マイアは姿を見せない真竜の長である兄のことを思い、思わず手を祈るように組んでいた。
続く
次回投稿は、3/14(土)13:00です。




