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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
1955/2685

戦争と平和、その492~イェーガー内、深夜②~

 マイアは悪い夢を見たのだと、再度二人を寝かしつけようとする。


「大丈夫、レイキおじいさんは無事だわ。きっとどこかで休んでいるのよ」

「そうかなぁ・・・」

「さ、寝なさい。まだ夜更けよ。良い子は寝る時間だわ。朝起きればママもいますし、元通りですからね」

「うん・・・そうする」


 イルマタルはまだ疲れて眠いのか、すぐに寝息を立て始めた。だがウィラニアは眠そうにしながらも、まだ不安そうにマイアの方を見た。


「ねぇ、レイキおじいさんを探した方良いと思いますわ」

「どうして?」

「だって・・・巨大な陽炎がレイキおじいさんを鷲掴みして連れて行ったのよ? レイキおじいさんはもがいて逃げようとして、扉に手をかけたけど、力及ばず連れて行かれた様子だったわ。それで無事なんて、そんなことがあるのかしら?」


 再び三人が顔を見合わせた。だがマイアは努めてウィラニアを安心させようとした。


「このイェーガーの団内の警備は深緑宮なみの厳戒態勢で守られているわ。物理的にも、魔術的にもちょっとした要塞よ? ここに気付かれずに侵入して人を攫うなんて、ちょっと難しいわ。それがわかっているから、あなたのお供も強引にはせずに引き返したでしょう?」

「もちろんそれはわかっていますけども・・・心配なの」

「優しいのね。大丈夫、きちんと調べておくから、お休みなさいな」

「わかったわ。そうさせてもらいます」


 そこまで聞いて、ようやくウィラニアは寝始めた。だがウィラニアの寝息を聞いてから、フォスティナがそっと扉の部分を調べると、たしかにレイキのものと考えられる握り跡で、扉の一部が潰されているのが発見されたのである。


「これは――」

「――レイキ殿の捜索をしましょう。万一なんて、ないと信じたいけど」

「何が起こっているの? このイェーガーで、そしてアルネリアで」


 三人はいいようもない不安に襲われたが、その時にさらに来訪する者がいた。夜警の傭兵から報告を受けたエクラがやってくる。


「マイア殿こちらにいらっしゃいますか? 少し相談すべきことが」

「夜更けに何事です?」

「ローマンズランドの武装集団が乗り込んでまいりました。ウィラニア殿下をただちに寄越せと」

「なんと。それで、団長代行はいかがなさる?」


 アルフィリース不在の時はエクラが団長代行として指示を下す。こういう時のエクラは適切な判断を下すので、マイアを初めとして誰も不満はない。その隣にはコーウェンもいた。


「夜更けかつ非常識極まりないですが、相手も剣呑な雰囲気で乗り込んできました~。騎竜は普段夜間は動かしません~、目測を誤って墜落する可能性があるからです~。それが集団で乗り込んでくる当り、相当な要件と察しました~。事情はもちろん言いませんが、渡すつもりです~」

「イェーガーとしてもローマンズランドとは揉めたくありません。正直、団長不在のこの時にウィラニア殿下が本物なら頭痛の種にしかなりません。帰っていただくのがもっとも妥当かと」

「とはいえ、今再度寝付いたところなのよ。朝ではだめなの?」

「無論、駄目です」


 すぐ背後に肌のやや浅黒く厳しい目つきの女性将校が立っていた。鎧姿に身を包み、正式の軍装である。兜は脱いでいるが、遠慮などは不要とばかりに差し止めようとする傭兵を振り払って一人で入ってきたのだ。


「ちょっと? ここは寝所ですよ?」

「関係ない。これはローマンズランドの軍命であり、傭兵ごときに物申す権限はない。それとも、そなたたちはローマンズランドに歯向かうとでも?」

「歯向かいはしません。ですがここは正式な我々の所有地であり、許可がない以上あなたたちの行為は侵略と取られても言い訳できませんよ?」

「それにそれに~、傭兵ですから、ローマンズランドの命令に従う義務もないというか~」

「もし仮にウィラニア殿下が本物であるなら、貴様らの行為は王族の誘拐、国際法違反となる可能性もあるが?」


 女性将校の言い分もまた正当であるため、ラキアはだまり、コーウェンもお手上げのポーズをとった。

 ならばと、フォスティナが静かにするように促した。


「仮にあの娘があなたがたの王族であるとして、寝所に強引に侵入すればそれはそれで不敬に当たるでしょう」

「それは――確かに」

「まずは静かに本物かどうかを検分するのはいかがでしょうか。その上でどうするかを決めては? もちろん我々も立ち会います」

「よかろう」


 そして女性将校が確認すると、ほっとした様子で一瞬だけ表情を緩め、頷いていた。一度全員が外に出て、打ち合わせる。


「確かに。ウィラニア=ツォルト=ローマンズランド第四皇女殿下だ。無事を確認した」

「その可能性は指摘されていましたが、本当にそうだったのですか・・・」

「皇女は安らかに眠っていらっしゃるようだ、保護を感謝する。申し遅れたが、私はミラ=ナイトルー=ハイランダーだ。ローマンズランド特命将校である、爵位は準子爵だ」

「これはご丁寧にどうも。イーディオド公爵家が一子、エクラ=ツォルト=リントリウムです。光栄かつ偶然ではございますが、殿下と同じミドルネームでございますね」

「なんと、イーディオドの公爵家令嬢でございましたか。それは失礼をば」


 ミラがかしこまった。下手をすれば国際問題になると考えたのだろう。エクラは身分を便利に使うことを嫌がる傾向にあるが、高圧的な程度の相手には使うことを躊躇いはしない。


「ここではただのエクラですので、そう畏まらずに。一応、団長代行ではありますが。さて、殿下であることが判明した以上、引き渡しはやぶさかではありません。ですが夜半の受け渡しともなれば急です。明け方にされてはいかがでしょうか? 何なら、あなたがたもイェーガー内で休憩いただいて結構ですので」

「せっかくの申し出ですし、それが理にかなっていることもわかりますが、王命は絶対でございます。即刻奪還してまいれとのこと。それを現場の都合で曲げるわけにはいきません」

「それはそうかもしれませんが、ローマンズランドにそれほど急ぐ理由が?」

「それは――」


 ミラもまた理由までは聞いていないが、原因は推測できる。スウェンドルが脅威を感じ取った。下手をすると、このアルネリアを脱出しなければならないほどの。

 ミラにも、この館がちょっとした要塞なのはわかる。目の前の者たちが自分よりも遥かに実力に秀でることも。だがそれでも、軍命を曲げるわけにはいかないのだ。まして王直々の初任務。失望させれば、どのようなお咎めがあるかも定かではない。

 その時、館が揺れた。眠りに落ちていたウィラニアが再度起きるほどの揺れである。



続く

次回投稿は、3/12(木)14:00です。

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