戦争と平和、その490~廃棄遺跡⑱~
「シュテルヴェーゼ様、ウッコについて知っていることがあれば伺いたいのですが」
「うん? そうか、お前たちは知らないのか」
「ええ、その時には生まれてもいませんから」
「そうか。ついレイキと同様に考えてしまうが、レイキほど年経ていないのだったな。そもそもレイキは妾よりも年上だったか。いかんな、永らく生きていると時間の感覚が曖昧になる」
「シュテルヴェーゼ様が六千歳くらいでしたけっか。俺らは三千歳にもならねぇもんな。レイキの爺さんが何歳だっけ?」
ジャバウォックの言葉にシュテルヴェーゼが渋い顔をする。
「貴様、そのあたりに配慮に欠ける部分がミリアザールに嫌われる原因ぞ?」
「ええっ!? 俺変なこと言ったかぁ?」
「シュテルヴェーゼ様、馬鹿は放っておいて話を進めましょう」
「それもそうだな」
「おいぃ!」
ジャバウォックの不満は無視された。シュテルヴェーゼは語る。
「レイキは確か古竜の長たちとそれほど変わらぬはずだ。一万年は生きているかな。亀は万年、というのはレイキが語源だしの」
「では神話の時代の、さらにその前を知っているではないですか」
「同じくらいの年かさを経ているのは、草原竜イグナージくらいか。じゃがレイキは多くを語らぬ。語ってはいけないとも言ったことがある。妾も知らず、古竜の長たちもついには教えてくれなんだ。新しい世代には必要のないことだとか申してな。決めるのは今を生きる者だろうに」
「じゃあウッコとアッカもそのくらいの時代に生きていたってことかぁ?」
ジャバウォックの言葉に再度シュテルヴェーゼが渋い顔になった。ジャバウォックは慌てて取り繕う。
「またまずいことを言ったか、俺?」
「いや、それがわからぬのだ。レイキもかつて、あれらの存在を知らぬと言っておった。それは魔人も同じだったろう。だからこそ魔人、古竜、銀の一族が一時的にでも手を組み戦ったのだ。
だが犠牲は大きすぎた。数千いた古竜は八割以上を失った。魔人もかつては万を数えたのに、千もおらぬほどになった。銀の一族も、ソールカ以外の力ある戦士をほとんど失った」
「たった二体の魔獣がそこまでの戦力を屠ったと? ありえない」
「本当に二体・・・だったのかな」
シュテルヴェーゼがぼそりと呟いた疑念は、二人には聞き取れなかった。
「とにかく、二体の魔獣には攻撃が一切通らなかった。単純な防御力の問題か、結界の問題だったのか。戦局を決めたのは、白銀公の一撃だった。白銀公の一撃がアッカに届き、その隙にソールカが最大の一撃を叩きこんだ。崩れたところに魔人と古竜の総攻撃でアッカは沈んだ。
防御の面ではエンデロードが天の火を受け止め、イグナージが巨体を生かして盾となってくれた。あの二体がおらねば、それこそ魔人も真竜もあの戦いで全滅していただろう。ウッコとアッカの攻撃を受け止めることができたのは、あの二体だけだった」
「イグナージの旦那、そんなことを語ってくれたことは一回もなかったな」
「イグナージは穏やかな気性だからな。むしろイグナージの気性が荒ければ、それだけでこの大陸は滅びている。あの巨体が全力で暴れたら、誰も止められんさ。このアルネリアなど、奴の鼻息一つで吹き飛ぶだろう」
「それはしかり。ただそれは、レイキ殿や私、ジャバウォックでも同じでしょうが」
「まぁなぁ」
ジャバウォックもそれは同意したが、その彼らを従えながら、やはりシュテルヴェーゼは不安を抱えるのだ。
「ウッコの力は雷、アッカは炎だった。天の火は奴ら二体が共同して放つ最大の一撃。大陸最大の火山であるグレーストーンが大噴火をしたときの威力に匹敵する一撃を、乱発するのだ。とても防げるものではない」
「二体はどんな姿形なのです?」
「アッカは女形の炎の巨人だった。三本の人の手の様な尻尾と、四枚の翼を持つ巨人だった。体躯はサーペントにも迫る巨大さだ。
対してウッコは毛並み豊かな獣だ。七色に光る羽毛と、長い首。そして人間のような顔。芸術的な体躯に、歪んだ人間の顔という何とも醜い生物だった。だが二体は番だったようだな」
「へぇ。まるで超強い、今の魔王みたいだな」
ジャバウォックが何となく発した言葉に、二人が黙り込んだ。またしてもジャバウォックが焦る。
「な、なんだよぅ。俺、もう喋らない方がいい?」
「いや、逆だジャビー。お主、たまに良いことを言う」
「だからうるさいくせに、完全に黙らせるのはもったいないと思ってしまうのだ」
「何が? 何が?」
ジャバウォックは自分の発言の意味を理解していなかったが、シュテルヴェーゼはそうかと思い至ることがあった。ロックルーフはそれほど理解してはいなかったが、おそらくはシュテルヴェーゼの心中を察しているだろう。
シュテルヴェーゼの頭が高速で回転する。この考えをまとめるには、ミリアザールとも話し合ってみたいと思う。こういうことに関しては、自分よりもミリアザールの方が頭が回ると思うのだ。あるいはあの傭兵の娘――アルフィリースにも意見を聞いてみたいと思うシュテルヴェーゼだった。
だが黙りこくった二人の隣で、ジャバウォックは一人間が持たずに焦っていた。
「(レイキの爺さん、こんな時に留守番かよぉ。こっちに来てくれなきゃ、間が持たねぇよ)」
そんな泣き言を心の中で呟いていたのである。
続く
次回投稿は、3/8(日)14:00です。