戦争と平和、その484~滅びの予言⑩~
《追跡光弾》
「え?」
ヘードネカが驚く暇もないまま、陽炎から光の矢が放たれた。それがどういう結末をもたらすかは定かではないし、ドラグレオを仕留めるためにはもっと大規模の魔術が必要かと思われたが、放たれた矢は一本のみだった。
だがヘードネカにはもっと差し迫った問題があったのだ。
「あの、お時間いいですか?」
「・・・?」
「私と、お茶していただけませんか?」
「?」
「な、なんでって言われても・・・」
ヘードネカは顔を真っ赤にして口ごもった。ここまで恋も戦闘も遊び半分にしか考えたことがなく、どれもそつなくこなしてきたが、まさかここまで自分が言い澱むとは考えていなかったのだ。
そして意を決して口にしたが、
「あなたに一目惚れしました、付き合ってくだしゃい!」
盛大に噛んだ。ヘードネカの人生における最大の失敗であり、穴があったら入りたいほど落ち込んだ。そして実際にヘードネカは舞で山に大穴を空けて入ろうとしていた。
陽炎はしばしぽかんとした後、腹を抱えて笑った。そして穴の中で膝をかかえて落ち込むヘードネカに声をかけた。
「――?」
「え――ついて行ってもよいと? じゃあ、付き合っていただける?」
「――」
「今は無理だけど、考えてくれるって・・・わかりました。私、待ちます!」
初恋の少女のように顔を輝かせて返答するヘードネカの頭を陽炎は撫でると、二人はともに転移の魔法陣で姿を消した。だがその直前、灰燼と帰した周囲の光景を見て、陽炎はとんでもないことになったものだとあらためて感じていたのである。
***
その頃、ドラグレオは人間では不可能なほどの速度で脱兎ごとく逃げ出していた。健脚に多重の魔術を重ね掛けし、しかも百獣王としての能力も最大限に活用している。その速度は地上を走りながら、飛竜を置いて行くほどの速度だった。普通なら一歩で足が壊れるほどの衝撃を、ドラグレオはただ常人離れした回復力と、我慢強さだけで進んでいる。今のドラグレオの行く手を遮るものはなんであれ、木っ端微塵になって突き飛ばされるだろう。
そのドラグレオは走りながら考える。
「(上手く行ったぜ・・・あの銀の一族のねーちゃんが全力での戦い慣れをしていなくて、助かったとしか言いようがねぇ。二度は出来ねぇ方法だし、相当削られちまった。しっかし、あの陽炎の奴にはなんだか親近感を覚えたな。もしかすると・・・いや、もしかするのか。あれともちゃんと一度話さなきゃならねぇな。邪魔者がいない時にしたいが、それもしばらくは無理か。
銀の一族のばーさんたちには悪いことしたな。それが役目とはいえ、あんな終わり方はよぅ。だが肝心なことを聞きそびれちまった。天の火をくらっても出てこなかったところをみると、結局、レーヴァンティンを保管していたのは銀の一族じゃないってことなんだよなぁ。じゃあ真竜と魔人の戦いの後、レーヴァンティンを保管したのはどこの誰だ? ソールカはいないようだったし、話を聞かなきゃいけねぇじゃねぇか。
おっかしいな、ソールカが目覚めるのはもう少し後のはずだったから余裕を持って訪れたのによぅ。ソールカの奴は冗談抜きで光の速さで動くから、一度動かれると追いつけねえんだよな。ミコトを回収したら、すぐにでも――)」
ドラグレオがそんなことを考えながら走っている最中である。ドラグレオは背後から迫る魔力に気付いた。この状態の自分に追いつける者があるとすれば、それは魔術だと予想はしていた。
続く
次回投稿は、2/25(火)14:00です。