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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
1946/2685

戦争と平和、その483~滅びの予言⑨~

***


 ヘードネカとドラグレオの戦いは熾烈を極めた。互いの攻撃は地を割り、山を砕き、わずかに残った銀の一族の里を完全に崩壊させてしまった。

 戦いの最中、二人は実に楽しそうだった。ヘードネカにしてみれば、戦いで全力を出したのはプラテカ以来初めてのことだった。どれほど攻撃力のある舞で吹き飛ばそうとも、全速力で駆け戻ってきて反撃しようとするドラグレオ。格闘術こそ稚拙で腕を振り回すだけだが、一撃が即死級の威力。避けるたびに風圧で風が巻き起こるドラグレオの拳圧を接近戦で躱し続けるのはかなりの緊張感を強いられた。

 それにドラグレオは魔術も多岐に渡る。補助、防御、攻撃。それらの精霊魔術をほとんど全ての属性において使い分ける。この筋肉ダルマのどこが大賢者なのかと思っていたが、成程、素晴らしい魔術士だった。詠唱をする時もあれば、『なんとなく』で魔術を使ってしまう時もある。ドラグレオが使ってきた、【なんとなく――オラァ!】で、大岩も削る圧搾大気ディーププレスが発動した時は戦いの最中に笑ってしまった。陽炎も背後で笑いをこらえていたように思う。

 余程精霊との親和性が高いのだろう。普段から精霊との交信を密にとっていなければできない芸当のはずだ。そして極め付けが、時に放つ銀色のブレスである。どの程度が全開なのかはわからないが、防御無視のブレスは小山を一つ簡単に消滅させていた。

 これらの多様な攻撃を天性の感性と反射速度で躱しながら、ヘードネカは反撃をしていた。あるいはここで死ぬことも考慮しながら、ドラグレオに反撃を刻んでいった。既に体に付けていた重し代わりの装束は全て脱ぎ去り、特殊な方法で編まれた戦姫の舞に耐えうる黒の肌着のみである。全身を黒で覆い、体のラインが全て出るほどにぴたりとした姿で戦うことは、戦姫が全力を出す証である。

 そして決着の時が近づく――


「ふんがぁああああ! 潰れろぉオオオ!」


 ドラグレオが一軒家をゆうに上回る巨岩を投げつけ、そして拳でそれを砕いた。加えて、


【補え、集え、強かに貫け! 其は祝福を受けし真銀なり!】

真銀合金ミスリルプレート


 砕いた岩の礫が一瞬でミスリル製となり、ドラグレオの拳圧を受けて弾丸のように発射される。それに対して、ヘードネカは静かに、優雅に舞った。


「地舞の14形、地魂鎮ちだましずめ


 ドラグレオの攻撃が全て地に沈み、無効化されていく。決めるつもりだったドラグレオの表情が呆気にとられる。


「んだとぉ!?」

「並びに、風舞の最終形――青龍交閃!」


 ヘードネカが両手の手刀を交差させて空間を斬ると、その部分が裂けたように空気の流れが変わる。そして真空となった十字の空間の丁度真ん中を、ヘードネカが回し後ろ蹴りで蹴った。

 すると巨大な風の壁が突如動いたかのように、ヘードネカの前面の空間が大幅に削り取られ、ドラグレオごと吹き飛ばしていく。ドラグレオはそれを受け止めようとして、


「ぬぐぐ・・・ぬおおお・・・ちきしょう! おぼえてやがれぇぇぇぇぇ・・・」


 叫びながら遥か彼方に飛んでいった。ここまでの戦いに要した時間はほぼ一刻半。さしものヘードネカも疲労したのか、ドラグレオがすぐに帰ってこないことを確認し、膝に手を当てて一息ついた。


「おじさん、強すぎぃ。ようやく飛んでった・・・あ」


 そこまで自分で言ってヘードネカは気付いた。人に向けて撃ったのは初めてだから忘れていたが、普通なら地面ごと削れて終わりの衝撃波なのだ。遥か彼方に飛んでいくなんてありえない。

 つまり、ドラグレオはやられた振りをしてヘードネカの技を利用して逃げたのだ。ここまで狂ったように突っかかっておきながら、なんて冷静な判断かとヘードネカは感心した。もしかすればこのまま戦っていればドラグレオの勝利だったのかもしれないのに。後に控えた陽炎との戦いを考慮し、ヘードネカを利用して逃げたのだ。

 ヘードネカは追いかけようとしたが、陽炎がその肩を叩いて首を横に振った。どうやら既に追いかけられる範囲にはいないらしい。ヘードネカの移動速度をもっても、全力で走るドラグレオに追いつくのは困難だと。追いつくには真竜の中でもかなり早い個体の協力がいるそうだ。

 ヘードネカが呆れた。


「本当に人間なのかしら、それ。でもごめんなさい、倒せなかったの」


 しょんぼりとするヘードネカを慰めたあと、陽炎はドラグレオの逃げた方に向けて手をかざした。その手に、魔力が収束する。



続く

次回投稿は、2/24(月)14:00です。

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