戦争と平和、その480~滅びの予言⑥~
若返り、全盛期の反応速度を得ても追いつかぬ速度、虚を突いた予備動作のない一撃。致命傷であること悟った老婆は、血を吐きながら刀を握り込んだ。
「ヘードネカ、貴様、裏切るかぁああ~」
「ごめんね、おばーちゃんたち。あそこにいる人が私の番みたいなんだぁ。だから、私行かなきゃ」
刀を無理矢理引き抜いて、長老を蹴飛ばすヘードネカ。返り血に濡れる顔で、嗤う。
「それに裏切るって何さ。銀の一族は永く生きてこの大陸を守り、その敵を排除するのが使命でしょ? そして気に入った男と番を作り、役目を次世代に託す。ソールカ姫様は唯一無二の存在だったから番を作るようなことをせず、プラテカ姉さまは逆に自分の力が衰えてなくなるまで人間を愛した。プラテカ姉さまの影響が強くて皆忘れたかもしれないけど、人間だって必要なら殲滅対象だよ?
別に私が人間を滅ぼしたって、いいよね? 差し当たって、あの筋肉ダルマをやっちゃおうか?」
「舐めるなよ、ヘードネカ! 我々はそれぞれの時代で頂点に近い戦士だった者だ! 訓練をサボってばかりの貴様が相手になると思うのか!
風舞の七形、風貫弾!」
「炎舞の八形、炎槍雨」
「地舞の六形、獣爪礫」
若返った長老たちが使う舞がヘードネカに襲い掛かる。そのどれもが銀の一族で頂点に近い形の舞。鋭く伸びた風の弾、炎の槍の雨、地面から湧き出て飛来する鋭い大地の爪。襲い来る攻撃を、ヘードネカは悠然と待ち受け、そして刀を添わせて逸らし、互いにぶつけ合わせ、ほとんど動くことなく躱していた。
その鮮やかな手並みに、呆然とする長老たち。
「なんじゃそれは・・・」
「そんな躱し方が」
「戦姫育成計画ってさ、堅苦しすぎるんだよねぇ。こういった攻撃にはやれこうしろ、ああしろってさ。最初の戦姫たちの経験を基に作ったって言ってたけど、あれが全ての正解ってわけじゃないでしょ?」
「じゃが、初代の戦姫たちじゃぞ? 魔人や古竜とも渡りあった戦姫たちの経験則を上回るなぞ――」
「だから、それが全てじゃないんだって。どうして最初の戦姫たちが最強で、後の世代は劣化品だって思っているのかなぁ? 別に最初の戦姫たちより私の方が強くてもいいでしょ?
事実、プラテカ姉様だって生まれこそソールカ姫様と少ししか違わないけど、起きたのは魔人たちとの戦いが終わってからなんだしさ」
ヘードネカの圧に、じりじりと下がる長老たち。そしてヘードネカがぽぉんと、その場で軽やかに飛んだ。
「じゃあおばーちゃんたち、私はもう行くね? 邪魔するなら、死んで?」
「いかん! せめて足止めだけでもしてくれるわ!」
「できるかなぁ? 私、本気で戦うのは初めてだけど、強いよ? えーと、風舞の十一形、風吼打ち――だったかな?」
ヘードネカがぱんと手を合わせて円を描くと、旋空の渦ができてその中に向かおうとした長老たちを取り込んだ。その中で風の咢が長老たちを食い破る。
「ば、馬鹿な! 十形以上の舞を使うだと!?」
「それは初代戦姫の中でも、各舞手最強の使い手だけが使ったものじゃ!」
「初代戦姫以降、誰一人使い手がいなかったものを、貴様、なんとして――」
「えー、だって使えるものは使えるしぃ。それより、私の戦姫としての特徴覚えているよねぇ?」
「・・・まさか」
長老の一人が思い出す。ヘードネカはあらゆる舞を得意とせず、固有の舞いも持たなかった。しかしその代わりの基本の舞は全て使うことができたはず。
それでもヘードネカが戦姫たちの中でも一目置かれたのは、基本体術と武技に非常に優れたことと、舞の形が最も美しかったこと、ゆえに定期的に行われる鎮魂や奉納の舞手には、覚醒してさえいれば必ずヘードネカが選ばれた。
だがもし、基本の舞を全て使える上で、わざと複雑な舞を使えないふりをしていたのだとしたら――長老たちが怖気に震えた時、すぐにその恐怖は形を成した。
「水舞の12形、大蛟狂、ならびに、炎舞の13形、不死鳥葬!」
巨大な水の蛇と炎の鳥が、風の中に狂い踊りながら襲い掛かってきた。
「ヘードネカァアアア!」
「舐めるなぁああ!」
激しい衝撃の後、ヘードネカはくるりと宙を待って衝撃波を受け流した。まとめて葬った手ごたえはあったが、その直後再度風の槍が飛んできてヘードネカの頬を割いた。
何が起こったかをヘードネカは察した。長老たちは一番前にいた仲間の背を蹴って、舞にぶつけて相殺したのだ。一切の躊躇ない選択。当然、前にいた長老も承知の上だろう。これこそが元来の戦姫の戦い方。首一つになっても相手の喉笛に食らいつくと言われた、殺戮機械の本領発揮である。
ヘードネカは下たる血を舌で舐めとりながら、外套を脱ぎ捨てた。地に落ちた外套が、重みで融けた大地を砕いた。
「そうこなくっちゃあ。私、今が人生で一番楽しいかも」
ヘードネカは再度燃える地面を蹴って、長老たちに向かって行った。
続く
次回投稿は、2/18(火)15:00です。連日投稿になります。