戦争と平和、その479~滅びの予言⑤~
わめきたいのをこらえたミコトを先に行かせてから、ドラグレオは改めて陽炎に対峙する。
「待ってくれるなんて、優しいじゃねぇの?」
「――」
「んー、お前もあまり望んだ状況じゃねぇってことか。俺らがやり合ってもキリのねぇ戦いになるかもしれねぇが」
「――」
「それならそれでいいってか? 面白れぇ奴だ、以前どこかで会ったことがあるかよ?」
「――」
「ふぅん、まぁいいさ。でも始める前に一ついいか?」
「?」
「仕える主はそれでいいのかよ?」
ドラグレオの言葉に、陽炎がとても寂しそうに笑ったように思えた。ドラグレオはその笑いで全てを理解していた。
「――そうかい、そうかい。お前さんとはすっきり喧嘩してぇんだがな」
「――?」
「なんだ、つまんねぇ奴だな。せっかく俺より強い奴に会えたと思ったのによぅ。そんなに生きるのがつまんねぇなら、俺が面白くしてやるぜ!」
ドラグレオは盛大な咆哮と共に、陽炎に向かって全力で蹴りだしていた。
その周囲では、なんとか生き残った長老たち、その他数名の生き残りが少しずつ集まっていた。
「生きとるか?」
「まさに紙一重じゃがの」
「おぬし、その腹」
「ふん、長くはなかろうな。血が止まらんわい」
それぞれ満身創痍である。脚がないもの、腕がないもの、腹が抉れたもの、頭から血を流す者。無事な者は一人としておらず、生き残りは10人に満たなかった。
「里は壊滅じゃ。滅びの予言は真であったか」
「滅びの御子が来たりて里が滅ぶ――しかし、滅びの御子が直接滅ぼすのではなく、滅びの御子が来た時に別の者が手を下すなど、誰が予想できるというのか」
「そもそも予言自体も曖昧じゃった。かつての戦姫が今際の際に残したもの――その予言を本気で信じていた者が、どれだけ我々の中にいたのか。ソールカ姫様だけがその時の生き残りじゃが、姫様自信が覚醒しておる時がほとんどなかったのじゃ。信憑性も薄れようというもの」
「議論はよい、今はどうするかじゃ。大賢者が食い止めておる間に離脱するべきか否か。アルネリアの遺跡で戦っておるソールカ姫様にこの事実を伝えねばならぬ。
先程の一撃、記録が正しければウッコとアッカが放った天の火そのものであろう。じゃがウッコもアッカもここにはおらぬ。つまり、かつてウッコとアッカを従えて天の火を放った者がいたということ。それこそが我々銀の一族の真の敵じゃと。その敵が来たのじゃ、もはや一刻の猶予もない」
長老の一人が発言したことに、各人が頷いた。だが一人だけ――そう、酒をドラグレオに勧めていた一人だけが、崩れかけた若い戦姫の亡骸を膝に抱えて呟いた。
「この阿呆どもめ、こんな時に自分たちでなくこのババアを守りよった。残すべきは我々ではなく、若い世代の者だろうに――そうは思わんか、皆の衆」
「何が言いたい?」
「残す者を考えよということじゃ。我々の代わりはソールカ姫様がいれば十分。それより若い戦姫、そして大賢者と滅びの御子こそ残すべき存在じゃろうて。
そもそも、なぜここに天の火が降った? 滅びの御子が戦姫と対立するのではなく、和解したからではないのか? そして大賢者もまとめて徒党を組もうとしたことを、その敵が恐れたからではないか? つまり、残すべきはソールカ姫様とその戦姫たち、そして大賢者、滅びの御子よ。彼らが生きて居る限り、我々の希望はつながる」
「――つまり、我々に捨て石になれと?」
「おうとも」
老婆が立ち上がって何かの実を口に含んだ。すると、しわがれていたその体に急激に瑞々しさが戻り、急激に若返っていく。そして結い上げていた髪がほどけると、老婆は若かりし頃の戦姫の姿を取り戻していたのである。
「幻夢の実か!」
「ここが我々の死に場所よ! 続け、大賢者を援護するのじゃ! 少なくとも逃げ道くらいは作るぞ!」
「――承知した!」
渡された幻夢の実を含み、長老たちが続こうとする。そしてふとその場に現れたのは、ヘードネカである。長老たちはヘードネカを見ると、彼女にも参戦を促した。
「ヘードネカ、無事じゃったか!」
「丁度よいところに! 手を貸せ、お主がおれば勝つこともできよう!」
だがヘードネカの反応は希薄で、その視線は陽炎の方にこそ注がれていた。その瞳孔が急速に開き、視線が陽炎に釘付けになるのをヘードネカは感じていた。
「――見つけた」
「うん? 何を見つけたのじゃ?」
「そっか――私もやっぱり銀の一族かぁ。本能には抗えないんだねぇ――ちょっとばかり壊れているかもしれないけど」
「ヘードネカ、何を――」
ヘードネカに近寄ろうとして、その腹に深々とヘードネカの刀が突き刺さったのを老婆は見た。
続く
次回投稿は、2/15(土)15:00です。