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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その477~滅びの予言③~

「わからん!」


 その堂々たる言いっぷりに一同ががっくりと肩を落とし、ミコトが頭を抱えた。


「この男に聞いたワシが馬鹿じゃったのか」

「お、おじさーん。この場面でそれはないよぅ」

「だってよぉ、仲良くできるかどうかなんて、話合ってみねぇとわからねぇだろ? 会う前からそんなことがわかるかよ」

「いや、まぁもっともじゃな。一度話合ってみることか、そうか」


 長老たちはドラグレオの言葉になぜか納得していた。考えてもみれば、今まで出会えば戦うことばかり考えていたが、そもそも話し合ってみればよいではないのか。運命だとか予言などに従って、和する機会をフイにするのはあまりに惜しいのではないか。そう考える者が長老たちにも出てきていた。

 言われてみれば簡単なことである。長老たちが酒を大盃に注いでドラグレオに勧めた。


「大賢者よ、一献受けてくれんかね。親睦と感謝の証じゃ」

「そりゃいいが、これじゃ足りねぇぞ?」

「おじさん、空気読んで?」

「やなこった!」

「ほっほっほ、ならばさらに樽を用意させよう」

「それならいいぜ」


 ドラグレオがかっかっかと笑い、ミコトが呆れ、長老たちが笑った。中には苦笑いもあったかもしれないが、決して悪くはない――壊れた社のように因習も打破され、周囲にいた者たちも新しい時代の流れの到来を予感したその時である。


――ソンナコトハ、ユルサレナイ――


 静かで重い声が一帯に鳴り響いた。誰もが周囲を見渡す中、ドラグレオがもっとも早く声の出所に気付いた。


「上だ!」

「なんじゃ、あれは――」


 全員が見たのは、分厚い雲に覆われたのはずの空が金色に輝く光景。荘厳で美しいと思わず見とれそうになる光景だったが、ミコトがいち早くその異常さに気付いた。


「――いけない、おじさん!」

「結界、最大出力じゃー!」

「ミコト!!」


 長老が叫んだ瞬間、分厚い雲を突き破って光が降り注いだ。その光は全てを飲み込み、山間にあった銀の一族の里を一飲みにしたのである。


***


「ふーむ、これからどうしよっかなー」


 ヘードネカはソールカとの手合せを終えると、ぶらりと里を後にしていた。元々銀の一族としての自覚に欠けるヘードネカである。

 幼い頃、育成計画と呼ばれる地獄の訓練計画もヘードネカは難なくこなし、長老たちを驚かせた。次世代の担い手よと呼ばれながらも、ヘードネカは一定の年齢に成長するとさらなる力を得ることに興味を失ってしまった。

 長老たちの命令に表立って背いたことはないし、任務があれば淡々とこなして失敗したこともない。だがふらりと連絡が取れなくなることがあり、そのため多くの任務をこなしたことはない。ゆえに、まだ6番手なのである。

 ヘードネカは銀の一族である自分のことを嫌いだと思ったことはない。だがどうして銀の一族なんだろうとは思う。定期的に休眠し、新しく変わった世界を眺めることは興味深い。目覚めた後しばらく何も考えずに、険峻な山の頂上から眺める世界はいつも美しい。

 だが男子禁制の里、いつも変わらぬ面子、定期的に番を取って子を産み、力がなくなればその存在を供物として捧げるか、あるいは長老たちのような指導側に回るか。それしかない人生は全く面白くない。どうして絵描きになってはいけないのか、どうして吟遊詩人になってはいけないのか、どうして屈強な男しか番に選んではだめなのか、どうして舞ではなくただの踊りを踊ってはいけないのか。ヘードネカにはそれが不思議でならない。

 戦姫たちも同じである。どんな屈強な男をひれ伏させ、番にしたかを競い合う。別に詩人や絵描き、ただの村人を番にしてもいいだろうにと、ヘードネカは思うのだ。


「要は、価値観の相違ってやつ?」


 長老たちの苦悩もわかる、一族の使命も理解できる、それでも自分の性に合わないと思ってしまう。プラテカが生きている時は時々相談に乗ってもらったが、そのプラテカも死んでしまった。指導に回ることもなく、供物になることもなく、産む必要のない子供を産んで死んでしまった。

 里の者達は理解に苦しんだが、ヘードネカはなんとなくプラテカの考えがわかる気がした。


「あーあ、プラテカ様と話したいなぁ・・・」


 ヘードネカが口をとがらせながら路の小石を蹴飛ばすと、突然背後で光が溢れた。見れば、里の位置に大量の光が降り注いでいた。

 しかもそれだけではなく、轟音と共に山を削り取るほどの衝撃波が襲ってきた。空を飛ぶ鳥が風を受け流すことなく、羽をへし折られて飛んでいった。牛の倍ほどもある四足の魔獣が、衝撃波に吹き飛ばされて空高く消えていった。


「何? 何、何!? あれ、雷なの? ありえないっしょ!」


 ヘードネカは思わず叫びながら、防御の舞を全開にした。襲い来る巨岩を蹴飛ばし、崩れた山の上を駆け上って飛んだ。衝撃波が過ぎた後もまだ暴風が吹いていたが、一気に吹き飛んだ空気が真空をつくり出し、暴風が今度は逆流することをヘードネカは初めて知った。ヘードネカならば風の流れに乗ることも可能だが、それでも上位の戦姫でもなければ衝撃波だけでも死ぬほどの威力。 

 はたして、その目に映ったのはとんでもない光景だった。


「・・・里がないじゃんか」


 ヘードネカの目に映ったのは、既に地形を変えてしまった里の周囲。あったはずの山がなく、小さくも美麗で整然と佇んでいた自らの里が、跡形もなくなった光景だった。



続く

次回投稿は2/11(火)15:00です。


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