戦争と平和、その473~銀の一族の里③~
「(これこれぇ、久しぶりに感じるわぁ)」
「(全く衰えていない。流石)」
「里の戦姫たちの運用をお前たちに任せた結果がこれだわ。必要なこともわかるが、もはや醜態の極み。銀の一族の長として命じます。いますぐ休眠状態の戦士を全て覚醒させ、戦に備えなさい」
「し、しかしそれでは来たるべき滅びの運命に備えての準備が――」
「その程度で滅びるようならそれまでの運命。予言は予言、動くのは常に今生きている者である。時代は変わった、我々は今この大陸に生きている者の運命を見極める必要がある」
その言葉に、現在里にいた戦士たちが一斉に姿を現し、膝をついて戦士の礼をとった。全員がソールカに従うという意思表示である。そうでないという者もいたかもしれないが、そのような者は既にこの場にいなかった。
そして里の時は動き出した。ソールカの指示の下、休眠状態にあった戦士を全て起こすべく動き始めた。ソールカはヴァイカに命令を下す。
「私は少し体を動かしてから現地に向かいます。ヴァイカ、あなたは先行して状況を把握して頂戴」
「かしこまり。必要とあれば、チャスカの首も取る?」
「いえ、あれも私の一族の者。可能であれば生かす道を取りたい。それに近くには他の戦士の反応もある。下手をすれば周囲の者が盾にされるでしょう。それは避けたい」
「わかった、じゃあ斥候に徹する。他の邪魔者は排除する?」
「それは任せます」
「なら早速」
ヴァイカは背中の大刀を抜くと、それを宙に放り上げてそれに乗った。まるで河で独り用の筏に乗るように、宙に浮いた大刀の上でバランスを取っていた。
「現地まで二刻」
「真竜より速いかしらね?」
「旋空竜と互角」
「現地では注意なさい」
「?」
「私の姪――あなたの妹がいるわ」
その言葉に、無表情なヴァイカの瞳が見開かれた。余程意外だったのだろう。ソールカは続けた。
「プラテカの忘れ形見かしらね。一族以外の場所で育ったのだわ」
「なるほど――里の外から報告があったけど、そのうちの一人がそうか」
「大事になさいな。妹としても、戦士としても」
「もちろん、ひょっとすると母の能力を継いだかも。じゃあ、行くね」
ヴァイカが音の数倍の速さで飛んでいくと、社は衝撃で砕けてしまった。もう関係ないと思ったのか、自分を縛ってきたものへの意趣返しなのか。吹き飛んだ屋根から見えた青空を見上げながら、ソールカは清々しい気分に浸っていた。
「ヘードネカ、あなたはどうする?」
「私は里を出るわぁ」
「私たちの容姿は目立つわ。外の世界で生きることは難しいかも」
「この大陸は狭くても、人の世は広いわぁ。プラテカ様がその可能性を示してくれましたもの。私を受け入れてくれる人も、きっとどこかにいるでしょう。まだ番も見つけてませんし」
「なるほど、それもそうね。私も戦いがおわったら、旦那探しでもしましょうかしらね」
「ソールカ様ぁ、それ人の世では『死亡フラグ』っていうらしいですよ?」
「なにその言葉? また妙な言葉が流行っているのね」
ソールカが柔軟運動を一通り終えると、光を集めて棒を二つ作り出した。そして一本をぽいっとヘードネカに渡すと、構えを取ったのである。
「去る前にちょっと付き合いなさいな」
「えぇ~、姫様は容赦ないからなぁ」
「私の手合せについてこれる者が少ないのが悪いわ。あなたも昔は積極的に相手してくれたじゃない」
「それこそ、若かったんですよぅ」
ヘードネカはため息をつきながらも少し楽しそうに笑い、ソールカと手合せを始めたのである。
続く
次回投稿は、2/3(月)16:00です。