戦争と平和、その472~銀の一族の里②~
「ヘードネカ! 何をしている、この愚か者を止めよ!」
「だから無理だってばぁ、おばあちゃんたち。そもそも私が6番手で、ヴァイカが2番手だよ? それも歴代最強の2番手って言われているのに、自分たちが現役でも戦いたくないでしょ?」
「むぅ、だがしかし。お主が真面目に戦姫として活動してさえいれば、ヴァイカよりもお主の方が――」
「時代の流れだよ。この里だけいつまでもこのままじゃあいられない、外の世界は時間が流れていているんだから。私たちも外に出てその世界を知らなきゃあ」
「貴様の場合、単に戦姫の役割に飽きただけだろう?」
「きゃはっ、ばれた?」
ヘードネカは軽やかに笑って認めたが、老婆たちはより真っ青になってあたふたとするだけだった。そうする間にも扉が開かないので、ヴァイカはさらに強く扉を叩くべく、空気の塊を作って脚で蹴るべく回し蹴りの体勢を取った。
「きゃー、ヴァイカちゃん脚線美ー!」
「茶化さないで」
「やめよ、社が壊れる!」
ヴァイカが蹴りを放った瞬間、扉が開いた。巨大さに見合わず普通の扉のように開いたその隙間から、光が溢れた。その中にうっすらと見える人影に向かって、今までの倍以上の大きさの空気の塊が放たれた。
「あ」
「姫様!」
ヴァイカの呆然とした表情と、さらに慌てる老婆たち。だが光の中の人物が指先をちょいと回すと、空気の塊は爆ぜて消えた。震える空気の振動で、ヴァイカとヘードネカの髪が揺れ、治まると同時に二人は片膝をついて平伏した。
「ご機嫌麗しゅう、姫様」
「久しぶりぃ、姫様」
姫様と呼ばれた女性は裸のまま二人の前に進み出ると、女官たちが慌てて衣服をもって駆け寄ってくる。だが女性は女官たちが集まる前に、指をすっと動かして光を自分の周りに集めた。そして光が帯のようになり発光が止まったかと思うと、いつの間にか女性は二人と同じ戦姫としての装束に身を纏っていたのである。
溢れる光を背景に穏やかな表情は見せる姫様と呼ばれた女性は神々しいことこの上なかったが、二人よりもさらに長く地面に流れる光り輝く黄金の髪を結いあげると、盛大に大あくびをしたのだった。
「ふあ~あ、久しぶりね二人とも。大きくなったわねぇ、何年ぶりかしら?」
「私は16年ぶり」
「私は35年かなぁ。目覚めている期間は、その間数年経っちゃったけど」
「そうかぁ、そりゃあ成長もするわよね。私は半覚醒をうとうとしながら繰り返していたから、体を動かすのは200年以上ぶりかしら。肩が凝っちゃって凝っちゃって」
姫様と呼ばれた女性は首をコキコキと鳴らしながら、背伸びをした。そして服を持ったまま呆然とする女官たちにしっしと手で追い払う仕草をすると、女官たちは平伏して下がっていった。
「こんなに体が鈍っているのに、あんな堅苦しい服着れないわよ。ちょっとは体を動かさないとね」
「ソールカ姉さま、相談したいことある」
「わかっているわ。まだ目覚めるまでに数年あったはずなのに、こんな起こされ方をするんだからただ事じゃないわよね。説明は不要よ、ちょっと探るわ」
ソールカはセンサーのようにソナーを飛ばした。そのソナーが光のような速度で大陸を巡ると、ソールカは少し残念そうな表情をした。
「そっかぁ・・・妹は死んだのね」
「うん、病だった。力も失くなって。普通の人間みたいに死んだ」
「それがあの子の選択でしょう。それでも私を起こさなかったのだから、きっと労苦も選択のうちだと思ったのだわ。誰のせいでもない。私も予測していたことだし」
「その言葉で母も満足」
ヴァイカは頭を垂れた。そして次にソールカはやや険しい顔になる。
「で、ウッコが起きたのね。こちらが本題かしら?」
「うん、南で強大な気配を察知した。数刻前のこと。やったのはチャスカのはず」
「だからもう少しあの子に優しくしなさいと言ったのに・・・戦姫育成計画だかなんだか知らないけど、教育ってのは個別に応じた指針を用意しないと、誰もが厳しいやり方で伸びるわけじゃないのにね。まぁそれを今言っても仕方がないでしょう」
老婆たちの方をじろりとソールカが睨むと、老婆たちは額を地面にこすりつけて平伏した。その姿がガタガタと震えている。
ソールカがため息をついた。
「生き汚いのも考えものね。元がどんなに素晴らしい戦士で人格者でも、徐々におかしくなっていく。それを察した妹が結局、正しかったか」
「心中お察し」
「今の若い戦士は姫様に同調する者がほとんどみたいよ。プラテカ様の影響でしょうね」
「そうなの。喧嘩ばかりせず、もうちょっと仲良くしておけばよかったわ。さて、ウッコが目覚めた以上仕留めるのが筋ね。やっぱりアッカだけじゃなく、あの時もう少し無理をしてでもウッコも仕留めておくべきだったわ。だからこんな面倒なことになる」
「し、しかし当時さらに戦っておれば銀の一族は維持できませんでしたじゃ。我々はこの大陸で与えられた役割を全うするために――」
「お黙り」
長老たちの言い訳に対し、ソールカの怒気を含んだ一言で空気が震えた。頭をあげかけた老婆たちは押し付ける圧力にて強制的に平服させられ、片膝をつくヴァイカとヘードネカもじわりと汗をかいていた。
続く
次回投稿は、2/1(土)16:00です。