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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
1934/2685

戦争と平和、その471~銀の一族の里①~

***


――その少し前、ある場所で――


「馬鹿な、誰が封印を解いたのじゃ!?」

「まだ姫がお目覚めになるには早すぎる!」

「誰か! ありたけの結界師を呼んでまいれ! 再びお眠りになっていただくぞ!」


 いつもは鳥の鳴き声一つ、虫の鳴き音一つない神殿内が喧騒に包まれていた。腰の曲がりかけた白髪の老婆たちが右往左往し、その命令を一つ一つ聞くべく巫女たちがあたふたと走り回る。老婆たちの指令はまさに朝令暮改といった様子でめいめい勝手に意見を述べるものだから、手足となるべき巫女たちは一つの命令を聞くために動き出すと、その数瞬後に新たな命令を下されるといった形で、まるで命令が実行されている様子がなかった。

 この喧々囂々(けんけんごうごう)たる様を、冷ややかに見守る一団がいた。それぞれが銀の髪をたなびかせ、冷めた表情と視線を彼らに送っていた。


「老いたわねぇ、婆たちも」

「あれでもかつては統率力のある我らの先達だったわけだが」

「戦士として戦えなくなった時点で、自決すべきだったのよ」

「この里も先が見えたわね」

「時代に取り残された一族の末路なんて、こんなものじゃないの?」

「やはり姫の言う通り、野に出て人に混じるべきだったのだわ。新たな血と空気を取り込まないと、どれほどの清流でも澱んでいくのよ」

「だがこれではっきりするだろう。婆たちにつくのか、姫の側につくのか。あるいはそのどちらでもないのか」

「そんなの決まっているじゃない。我々が従うべきは、最も強い者よ」


 一同が同時に頷いた。だがその中で最も冷静な様子の銀髪の戦士がこう呟いた。


「2、4、5、7、8、9は確実にこちらだ。6は自由過ぎるが、3は何も考えていない可能性がある」

「あー、チャスカか。あの子、元から破滅願望があるものね」

「あの子のせいじゃなくない? 与えられた力が強すぎるて制御できていないのよ。だって、戦士としての力を制御できていないのに、あの位置にいるのよ? 信じられないわ」

「かつて姫様もその存在を脅威だとおっしゃった。だけど、慈しみある姫様はチャスカを処分なさらなかった。どんな子にも、慈愛を持って接すべきと。だが婆どもはその姫様の慈悲を理解せず、チャスカに過酷な運命を課した。チャスカが暴走するのは当然だ」


 一同が頷いた。だが一人が指をぴんと立てて意見を述べた。


「でも、チャスカがこの里を逃げ出した時、何もしないのは愚策だったわ」

「言うな、あとの祭りだ。それにヴァイカが里を空けていた時点で、誰にもどうしようもなかったさ」

「で、ヴァイカが聞いた途端これだものね。久々に見たわ、あの子のキレたところ。にしても、大人しそーな顔してるくせに、暴れ始めたら手が付けられないんだから」

「いつだったかしらね。戦争を裏から操って拡大させている一団に気付いて、ぶっ潰したの。あそこに、ヴァイカの種違いの妹がいたのよね。完全に下界で育てられていたし、まともな戦闘力なんて持っていなかったのだけど」

「ヴァイカの姉妹は皆戦闘訓練で死んじゃったからね。血のつながりが欲しかったのかしら」

「何があったかをヴァイカは決して語らないけど、あの子を暴れさせれば国が壊れる。音を超える速度で動き回り、あらゆる防御も魔術も突き破るほどの攻撃力。並の武器ではかすり傷一つつかず、眠る時は空の雲の上で眠るあの子を、誰も殺すことなどできはしない。

 そのヴァイカですら姫様を起こす始末。アルネリアの方から漂ってくる強大な気配といい、想像以上にまずいことになっているのかもね」


 そうして銀の一団が会話をするなか、当のヴァイカは目の前に立ちはだかろうとする結界師たちの結界を、手刀一撃で薙ぎ払う。結界が硝子のように砕け、手刀の余波で柱が数本斬れて崩れた。屋根の一部が崩落して小さくない損害を与え、女官と巫女たちが右往左往する中をヴァイカが進んでいく。

 そして人では開けることのできないほど大きな扉の前に来ると、ヴァイカの前に老婆たちが立ちはだかった。


「やめよ、ヴァイカ! まだ姫様を起こすでない!」

「姫様の御力は、まだ来たるべき時のために蓄えておくべきもの! このような些事に使ってよいものではないのだ!」

「予言にある滅びの御子、それに抗しうる唯一の存在。それが銀の一族最強の戦姫、ソールカ姫様なるぞ! このようなことは予定にない!」

「・・・うるさい」


 ヴァイカがくん、と手を押す真似をすると、空気の塊が扉を打った。ドォン! と盛大な音が響き、老婆たちが尻もちをつく。


「ひいっ!」

「ヴァ、ヴァイカ! 我々に手を上げるのかえ!?」

「扉を叩いただけ。姫様、寝坊助だから。このくらいしないと起きない」

「そ、そんな起こし方があるか! 姫様を起こすには祝詞をあげて、舞を七日七晩捧げ――」「面倒。どいて」


 ヴァイカが連発で空気を押した、その度に盛大な音が響き、社が揺れた。天井からぱらぱらと落ちる埃と、建材の一部が崩落したことで老婆たちはヴァイカの前に立ちはだかる度胸などなく、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。


「駄目じゃ! 誰かこの鬼子を止めておくれ!」

「上位の戦姫たちを集結させよ! ヴァイカを止めねば!」

「えー、ムリムリー」


 その場に現れたのは、地に届くほどの豊かな髪をした戦姫。正装を身に纏い大刀を携えたヴァイカとは対照的に、軽装で手ぶらだった。殺気立つヴァイカに対して、のほほんとした表情。似ているのは、髪の長さだけだった。



続く

次回投稿は、1/30(木)16:00です。

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