戦争と平和、その467~廃棄遺跡⑧~
「場違いだぞ、貴様。疾く去ね」
「そうは言われましても、どうにも殺気立った御方ばかりのご様子。なればこの道化師ハンスヴルが一つ、余興でも披露してみせるが本分というもの」
「アヤシイヤツ。オウサマ、ヤッテイイ?」
「・・・」
問い詰めるエルリッチ、無言で警戒するドルトムント、殺気立つブランシェ。オーランゼブルは無視を決め込んでいたが、ライフレスは嫌な予感を隠しきれなかった。かつて仲間にいた、誰かに似ている。そう感じたのだ。
「ドルトムント、誰かに似ていないか?」
「そう思われますか? 吟遊詩人だったスカァルドに似ています」
「・・・誰だか思い出せぬ」
「吟遊詩人のくせに、常に戦場まで王に付いて回った酔狂な男ですよ。普段は酒と女と歌だけでしたが、王の親衛隊も兼ねていました。私と武芸で渡り合うことができた、数少ない仲間でした」
ドルトムントの言葉に、場の緊張感に納得がいったライフレス。
「貴様と互角にか? 中々奇天烈な経歴の詩人だな」
「声はともかく、詩の才能はどうにもイマイチでしたが。あ奴と雰囲気がそっくりです」
「ならば、かなり『やる』な?」
「かなりどころか――ブランシェ、伏せろ!」
全くの予備動作なしから、円月輪が全員に向けて発射された。ドルトムント、ライフレスは武器で弾き、ブランシェは手甲で防いだ。オーランゼブルとエルリッチは魔術で防いだが、オーランゼブルの魔術にはさらに数発の衝撃があった。
オーランゼブルが見れば、そこには回転する独楽が防御魔術の周りを廻っているではないか。
「独楽だと?」
「今、揺れましたね?」
ハンスヴルの言葉と共に、オーランゼブルの防御魔術に向けて錨が数本放たれた。それがに刺さると、そこからひび割れてオーランゼブルの防御魔術がいともたやすく破られたのだ。
「何っ!?」
「どんなに優れた魔術だろうが、金属だろうが、急所のないものはございません。衝撃を与えれば全てが揺れる。揺れれば弱い部分も見える。揺れて、破れて、砕け散る。
人の世の真理と同じにございますれば・・・いやー! ハーッ!」
慇懃な態度から一転、奇声を上げてハンスヴルが襲い掛かってきた。対していち早くエルリッチがゴーレムを襲い掛からせ、その影からドルトムントとブランシェが迫る。
だがそのブランシェの左脚と左腕が突然すとんと落ちた。痛みもなく、感覚すらない腕と足にめり込むは、指先程の金属球。それが回転しながらブランシェの左脚と左腕に数発めり込んでいた。
「『鍼灸』なるものをご存じですかな? 東方の医者は針で麻酔をかけて腹を割くとか。見よう見まねですが、似たようなことならできましてな」
「それを習得にするのに、何人犠牲にした、貴様ぁ!」
珍しくエルリッチが激昂した。医者という言葉に反応したのか、自らも魔術を放つために詠唱を始めようとして、声が出ないことに気付いた。
「(声が出ない? いや、声が伝わらないのか?)」
「同じく、少しばかり空気を揺らして音の伝導を遮断することも可能。魔術士の魔術を封じるに、小難しい手段は不要にござりますれば」
エルリッチの足元で大きめの球が回転していた。原理まではわからないが、これでは魔術そのものを使えない可能性がある。五人のうち、三人が魔術士。これは一気に形勢不利かと思われた場面で、ドルトムントが猛然と前に出た。
「ならば、単純に打ち破るのみ」
「これは脅威。さて、お手並み拝見」
ドルトムントが影から作り出した剣を構え突撃し、ハンスヴルは懐から何かを取りだした。だが取り出したものを見て、自分でも驚いた表情になった。
「なんと、マラカス! これは失敗、ちょっと懐の整理整頓を怠りました!」
「ふざけろ!」
「道化師はふざけるのが仕事ですが、これは危うい!」
ハンスヴルはドルトムントの大剣に対して、二つのマラカスで応戦したが、さすがに防戦一方となった。ただの数合でも凌ぐのが凄まじいが、さすがに一気に不利になったと見たのか、ハンスヴルが後ろに飛び跳ねながら距離を取った。
「これは失敗、勝負は後日!」
「逃げるか!」
「何、すぐに出会いますよ。どうせ目的は同じでしょう?」
ハンスヴルはそう告げると、正面を向いたまま後ろに大跳躍して闇に姿を消した。追おうとしたドルトムントだが、闇から金属球が複数飛んできたのを弾くと、もうその先は追わなかった。
各自が武器をしまい、戦闘態勢を解く。
続く
次回投稿は、1/22(水)16:00です。