戦争と平和、その466~廃棄遺跡⑦~
「(突然召喚されたわけだが、これはどういう状況だ?)」
「(俺が聞きたい。今回は統一武術大会に出るから、様々な役目は免除されていたはずだったのだ。考えられるのは、オーランゼブルが直接命令を下したということだ)」
「(やはり精神束縛――洗脳を強硬に使用したのか)」
「(そう考えるのが妥当だろうな)」
ドルトムントは常々自らの主が洗脳されていることを苦々しく思っているのだが、本格的な魔術士でない自分がどのように事態を打開できようというのか、いつも疑問に思っていた。
そもそもが、肉の身を捨てた時にグラハムは記憶の大半を欠如しているのだ。その姿消滅するまで仕えようと決めていたものの、何をもって忠誠とするべきか、ドルトムントは悩み始めていたのだ。
どうやらエルリッチはそれなりに信頼できそうだと考え始めていたが、そこまでの相談をできないでいる。ドルトムントが難しい顔をしていると、エルリッチが再び文字を刻んだ。
「(で、貴様としてはやはり王のこの状況は我慢ならんということか?)」
「(当然だ。主が操られていて面白い部下はおるまい)」
「(それは貴様が忠義の騎士で、ライフレスが尊敬に値する主だからだが――私としても面白くはないな。そうなると洗脳を解くのが一番なわけだが)」
「(方法があるのか?)」
「(一番簡単な方法は、洗脳した当人を殺すことだ)」
エルリッチの文字に、ドルトムントが一瞬の動揺と殺意を覚えた。が、当人が近くにいることに気付き、すぐにその殺気を抑え込む。
気付かれていないことをそっと確認すると、エルリッチが安堵のため息をついた。
「(機会を待て、今はまずい)」
「(もちろんわかってはいる。わかってはいるが)」
「(焦るな。まだ上からの襲撃は続くはずだ)」
「(? なぜそう思う?)」
「(誰が上にいると思う? この魔物の襲撃は偶然か? 廃棄されたとはいえ遺跡の内部に魔物が集団で突撃するなど、あり得ると思うか?)」
エルリッチの指摘に、ドルトムントははっとした。そう、そもそも遺跡に限らず洞穴などでも魔物や魔獣は棲み分けをする。縄張り意識が彼らにもあるのだ。まして遺跡――本物の遺跡なら、中に棲んでいる魔物は別格のはずだ。外の魔獣が中に入ってくることなどありえない。
つまり、外にはこの襲撃を指揮している者がいることになる。エルリッチはその事実にすぐ気付いたのだ。
「(そんなことはオーランゼブルもわかっていると思うが、外に構う余裕すらないようだ。中の何かがそれほど大事なのか、もっとも凄まじい魔力が漂ってきているのは馬鹿でもわかるだろうから、あれを何とかするつもりなのだろうが。
そうなると困ったものだ。まずは巨大な魔力の源をなんとかし、それからオーランゼブルをどうにかすることを考えた方がよいだろうな)」
「(下にいる奴はそれほどか)」
「(大魔王を直接知っている私が感じるのだ、桁違いもよいところの何かがいる。正直、逃げてよいならすぐに逃げたいところだ)」
エルリッチがそう言ったところで魔法陣を描き終え、ドルトムントは一度離れた。これ以上の接触は不信感を招きかねない。
そうしていると、服を羽織ったブランシェが戻ってきたのだ。大きくスリットの入ったドレスのような格好に、両腕に手甲と爪をつけていた。元が獣とはいえ、ドレスアップすればそれなりに見栄えする白一色の姿に思わず視線が集まる。
ブランシェは長い髪をかきあげながらライフレスの隣に並んだ。
「オウサマ、コレデイイ?」
「ああ、いいだろう」
「デ、ナニをシタライイの?」
「エルリッチがこれから道を調べる。お前は罠を感知して破る役目だ」
「シタのオオキイケモノがモクテキ?」
「そうだ」
「アイツはイイの?」
「あいつ?」
ブランシェが爪で指した先に、小男が立っていた。男は剣や斧でお手玉をしながら、何事もなかったかのようにそこに佇んでいた。
いつからそこにいたのか。もちろんライフレスもオーランゼブルも、ドルトムントさえそこにいる男に誰も気付いていなかった。男は視線が集まったのに気付くと、放り投げていた武器を片手で全て順に受け止め、そこに布をかけてまとめて一輪の花に変えて見せた。それを一堂に向かって差し出すと、慇懃に礼をして見せたのである。
その、『道化師』のような恰好をした小男に向けて、それぞれが殺気を放った。
続く
次回投稿は、1/20(月)16:00です。