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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
1927/2685

戦争と平和、その464~廃棄遺跡⑤~

 オーランゼブルは微動だにせず、それらを迎え撃った。


「お師匠!」

「案ずるな、所詮虫けらよ」


 オーランゼブルに手を伸ばしかけた魔物どもが、閃光と共に一斉に小爆発で吹き飛んだ。その魔術に、襲い掛かる魔物の疾走が一瞬止まる。

 そしてオーランゼブルが冷ややかな視線をライフレスに向けた。


「何をしているライフレス。こちらを心配する暇があれば、疾く片付けるがいい。この遺跡の中には大流マナが満ちている。貴様なら力が漲るだろうし、少々魔術を乱射したところでびくともするものではない」

「・・・なるほど。では遠慮なく」


 ライフレスが魔術を使用し始めた。基本的な属性魔術は全て使用することができるうえ、際限なく放つことができる魔力量。そして詠唱の合間には剣で魔物に応対し、息が切れることもない。魔物も後から後から狂ったように襲い掛かったが、ライフレスはそれらをものともしなかった。

 その光景を見ながらオーランゼブルは思う。


「やはり、単体で行う魔術戦ならこやつの右に出る者はおらぬな。詠唱が早く継ぎ目もない。しかも状況に合わせて短文、長文での詠唱を使い分け、しかも効果範囲まで考えながら魔術を構成して放つ。私でもここまで上手く立ち回れるのは難しい。

 百戦ごときではこうはならぬ。千回の戦に恵まれ、そしてその全てに勝ってきた者ならではである。今の平和な世の中では、これほどの魔術戦士は生まれまい」


 だからこそ、油断していたとはいえライフレスから一本とったアルフィリースは恐るべしと言えるが、ライフレスのさらなる真価は集団戦にあることもオーランゼブルは知っている。


「(以前――ライフレスがまだグラハムとして駆け出しの冒険者であったころ、奴の仲間を勧誘しようとして失敗した。五賢者以外での対人戦で、唯一の敗戦ともいえるあの戦い。誠に素晴らしい相手だった。あれほどの剣の冴え、ティタニアも凌駕しよう。あの前衛あってこそ、今のライフレスの戦い方が構築されている。代役はあの男ですら役者不足であろうが――)」


 そう考えているうちに、その男がオーランゼブルたちの前に現れた。突然魔物どもの後陣が弾けたように宙に舞ったかと思うと、血の雨に打たれながらドルトムントが現れたのだ。


「王よ! 遅ればせながら、ドルトムント参上いたしました!」

「言い訳は聞かぬ、蹴散らせ!」

「承知!」


 ドルトムントは漆黒の鎧を朱に染めながら魔獣を駆逐した。一振りで三匹、四匹の魔獣が絶命していく。ライフレスもそれに負けじと剣をグレイブに変化させて振るったが、背中合わせでそれほど激しく戦いながら、彼らの動きが互いの邪魔になることは一切ない。

 まさに息がぴったりと合った二人の戦いで、さしもの魔物の群れもあっという間に動く者がいなくなっていた。


「済んだか」

「全滅するまで戦うとは、魔物でありながら立派。褒めて遣わす」

「後続は一端切れたようです、王よ」


 ドルトムントが漆黒の鎧と武器を影に戻して片付け、少年の姿に戻る。その姿をオーランゼブルがちらりと見たことにドルトムントが気付いたが、その視線の意味をうかがい知ることはできなかった。

 ドルトムントはライフレスの前に片膝をついて下知を待った。


「召喚に遅れました事、申し訳ございません」

「済まぬな、基本的に貴様の楽しみを奪うつもりはなかったのだが。お師匠の命令とあれば仕方あるまい」

「――いえ、わが身は常に御身の傍に」


 ドルトムントは返事に悟られぬほどの一間があったが、ぐっと言葉を飲み込んで頭を垂れた。

 幸いにもライフレスはその間を気にしていない。


「召喚で思い出したが、エルリッチとブランシェも必要かもしれんな。貴様を召喚術で呼ぶことは適わぬが、あの二体は可能だ。これからも敵が増える可能性を考慮すると、呼んでおくべきか」

「ここに来るまで一直線に時間をかけず突破しましたが、魔物が溢れている最中でした。どうやら外から一斉にこの遺跡に向かって魔物がなだれ込んでいるようです」

「遺跡の防御機能ととらえるべきか、ふむ」


 オーランゼブルが首を傾げる間に、ライフレスは魔法陣を描き僕の二体を召喚した。


「来たれ、我が僕」


 だが召喚に応じた二体が出現すると、エルリッチはほぼ裸のブランシェに頭を齧られている真っ最中だった。


「痛い、痛い! 貴様、頭を齧るなとあれほど何度も!」

「ワタシもナンドもイッタ。ミズアビ、キライ!」

「七日も水浴びをしていないのだぞ? 元が獣でも、貴様も魔物としてそれなりの格式を備えたのだ。ライフレス様のしもべとして、もう少し立ち振る舞いというものがだな!」

「ウルサイ、ダマレ!」


 召喚に応じた挨拶もなく争う二人を見て、ライフレスは思わず頭を抱えた。ライフレスがグラハムである頃から頭を抱える案件など何回も見たことがないドルトムントだが、たった二人でライフレスの頭を抱えさせたこの二体は大物かもしれないと、そんなくだらぬことを考えてしまう。



続く

次回投稿は、1/16(木)17:00になります。二日に一回に戻します。

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― 新着の感想 ―
[一言] >エルリッチはほぼ裸のブランシェに頭を齧られている真っ最中だった。 エルリッチのガラは案外いいダシがとれるのやもしれん……
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