戦争と平和、その463~廃棄遺跡④~
「え――ここは? マスターじゃないか、なぜここに?」
「いや、こっちが聞きてぇ。ってか、手に持った料理と酒をまずは置けよ」
「食うか?」
「いるか!」
食事中だったのか、緊張感のない恰好で現れたダンススレイブ。その姿を見て、アルフィリースは微笑んだ。
「彼女が生き残る鍵になるでしょう。ゆめ、手放さないよう」
「あぁん? どういうこった」
「その時になればわかります。では先に行きますが、遅れないように――ああ、クローゼスが下に降りたのでじきにこの氷の橋も脆くなります。早く来た方がいいですよ?」
「そういうことは先に言え!」
アルフィリースが下に降りた後でラインが続こうとして、その腕をエアリアルが掴んだ。上に残されたのはエアリアル、ラーナ、ライン。エアリアルが見たこともないような不安な顔をしたので、ラインも思わず足を止めた。ダンススレイブはアルフィリースの言葉の意味を考えたのか、自ら進んで剣の形に戻りラインに携行を求めた。
「どうした、エアリー? ひでぇ顔色だ」
「ライン、アルフィリースは戻ってこれるだろうか?」
「どういうこった? 今までもおかしくなることはあったろうが、なんともなかったろ? それよりここはどこだよ、お前に巻き込まれたのはわかるけどな」
「漠然とした私の不安だ。風のざわめきが普通ではない。ドラグレオと父上が戦った時以上のざわめきだ。そして何もしなければアルフィリースが戻ってこない気がした。だから力ある者たちをあらんかぎり巻き込んだ。皆にはすまないと思っているが・・・」
「言わなくとも皆わかっているさ。ここにいる奴はやべぇ。ここに入った瞬間に、魔力なんざなんくとも肌で感じるヤバさだ。お前に巻き込まれなくとも、なんとかしないと明日もままならんことはわかるだろうよ。
それがわかっていながら何もしない奴はここにはいないさ。ただ、後で詫びは入れておけよ?」
「ああ、わかっている」
エアリアルは頷いたが、ラーナの表情は強張ったままだった。
「(そう・・・不吉は不吉なのです。ですがその原因が強大な魔力だけでなく・・・他にもある気がするのは気のせいでしょうか?)」
ラーナは言いようのない不安を抱えながら、エアリアルとラインの後に続いたのである。
***
「・・・妙だな」
「何がだ?」
アルネリアの地下にある遺跡を進むオーランゼブルとライフレス。彼らは度々魔術で目的の場所を確認しながら、歩みを進めていた。
オーランゼブルが慎重なのは度々地図を確認していることでもわかる。だが、その頻度が増えていることにライフレスは気付いていた。
「どうした師匠殿? 道に迷ったのか」
「・・・おかしい。一番最初に確認した時と、道が違うように思える」
「そうだったか?」
「最初確認した時に、ここからは一直線に降りることができたはずだ。だが目の前には道がない」
オーランゼブルが見る前には、巨大な岩壁が立ちはだかっている。そして地図でもこんな大岩はなかった。魔術で見る限り、かなりの大回りをする必要がありそうだった。
「確かにな。こんな大回りは俺の記憶にもない」
「そうだろう? この遺跡が生きているとでもいうのか――だが、それにしてもウッコを庇う意味はあるまい」
「単に侵入者を惑わせるだけでは?」
「遺跡というものはそれほど生易しくはない、本来なら侵入者を容赦なく排除するはずだ。だが一度も迎撃らしきものには遭遇していない」
「ふん、単にまだ遭遇していなかっただけかもな」
ライフレスが魔術で剣を構成し、構えた。闇には、赤く光る無数の魔獣の目と殺気が出現していた。
「雑魚の様だが、少々数が多い。突破するには時間がかかるかもな」
「魔物が遺跡に入って来たのか。誰かの差し金か、それとも遺跡が呼んだのか・・・?」
「どちらでもいい、突破するぞ!」
ライフレスの姿が成人に変化し、魔獣の群れに突撃した。当たるを幸いとばかりに魔獣を切り伏せるが、広い道でのこと。どうしても全てを薙ぎ払えるわけではない。
【波打つ大地よ、狂える大地よ。螺旋にて敵を縫い留めよ】
《地津波錘》
ライフレスの間を抜けてオーランゼブルの元に走る魔物の群れを、魔術で一掃するライフレス。だが魔物は壁からも天井にもその鋭い爪を突き立て、オーランゼブルたちに迫る。
続く
次回投稿は、1/14(火)17:00になります。