戦争と平和、その462~廃棄遺跡③~
「――いいでしょう。ここは従うことにしますが、まだ貴女を受け入れたわけではありません。要件が終われば速やかにアルフィリースを返していただきます」
「もちろんです。むしろこうしていること自体がかなり無理をしているし、そもそも主導権はアルフィリースにあるのですし」
アルフィリースに代わった何者はにこりとしたが、ラーナはふいと他所を向いて意にそぐわぬ態度を現した。
アルフィリースに代わった何者かはここにいる面子を見渡すと、すぐに行動を開始した。
「さて、ついてきてしまったものは仕方がありません。戦う意志のない者はここに留まるのもよいでしょうが、見ての通り不安定な足場で待つのは心もとないでしょう。まずは安定した足場まで動きましょう。クローゼス、足場を」
「承知しました」
クローゼスが遥か下の次の足場に向けて、氷の橋を作り始めた。左右には手すりの様に少しだけへりをつけているが、基本的には急角度の滑り台である。それらが螺旋を描きながら下に向かっていた。
全員がその場の様子を見ていたが、足場だけでなく背筋の凍る高さと角度である。
「ええっと、これを降りるってこと・・・?」
「ふむ、これほどの長さ、強度は大丈夫かね? 途中で割れて真っ逆さまでは、あまりに間抜けな死に方となるが」
二の足を踏むレクサスと、さすがに慎重になるディオーレ。だがクローゼスには自信があるようだ。
「氷ゆえに少々速度は出るかと思いますが、強度に問題はありません」
「私の力で補助をしているわ。それに遺跡の中は大流に溢れている。魔術を使える者は、須らく能力が底上げされるはずよ。あなたも精霊騎士なら感じるのではない?」
アルフィリースがディオーレに語り掛け、ディオーレは自分の調子を確認した。アルフィリースの言葉を実感するのか、確かにディオーレは活力に漲っているように見えた。
「・・・確かに。だがなぜそのようなことを知っているのか、何か秘密がありそうだな。なぜ私たちを巻き込んだのか、一度落ち着いたら話してほしいものだが」
「それはそうですね」
アルフィリースとディオーレがちらりとエアリアルの方を見たが、エアリアルはぐっと腕をかき抱いただけで何も答えなかった。
レクサスがまだ氷の滑り台をおそるおそるのぞき込みながら、嫌そうな顔をしていた。
「いや、これちょっと間違えたら滑り台から出ちゃうやつですよね? 俺、ここで待ってようかなぁ」
「うるさい、黙れ、さっさと行け」
そのレクサスの尻をルイが蹴飛ばした。頭から滑り台を滑る羽目になったレクサスの悲鳴が闇に吸い込まれていった。
「ふん、軟弱な奴だ。先行する」
「不憫な奴だな、レクサスも」
ベッツが手を合わせながらレクサスとルイに続く。そしてディオーレ、イブラン、クローゼス、ミュスカデと続いた。
「滑り台は下の足場に行くほど長くなるのだが、あのていたらくで大丈夫だろうか?」
などとクローゼスが不吉な予言をしていた。そして残ったラインにアルフィリースが声をかける。
「ライン、ダンススレイブは?」
「あん? ダンサーの奴は統一武術大会の間は自由にさせているから、帯同していないが?」
「襲撃があったのにですか?」
「団内にいなかったんだよ。基本本来なら睡眠も必要としない奴だし、今どこにいるかはわからんね」
ラインが降参のポーズをしたが、アルフィリースは耳飾りに変化させていたパンドラに声をかける。
「パンドラ、辿れる?」
「そこで俺に声をかけるかい? そりゃあ魔剣と、契約した人間の間にはわずかながら魔力のつながりができるがよぅ」
「本来のあなたの機能なら問題ないはずよ。やって頂戴、遺跡の中ならできるわ」
「あんた、俺の本来の機能を知っているのかい? そりゃまたなんで・・・」
アルフィリースはパンドラを本来の大きさに戻すと、その中に魔力を流した。するとパンドラの蓋が開き、そこからダンススレイブが人型のまま召喚されたのだ。
続く
次回投稿は、1/13(月)17:00です。