戦争と平和、その461~廃棄遺跡②~
全員は周囲を見渡したが、どうやら同じような足場がいくつかありそうだったが、この足場がどこかに通じている様子はない。一番近い足場でも、人間二十人分はありそうな距離だった。とても跳べるものではなかった。
ベッツがぽいとその辺の石を闇に投げたが、音はいつまでたっても聞こえない。
「・・・まさに奈落ってか」
「どうするんだ、どこにも行けないぞ?」
「ディオーレ様、魔術で足場を作るわけには?」
「イブラン、土の魔術は土台になる素材がなければ無理だ。この足場を使えば、そもそもどうなるかわからんぞ?」
絶妙なバランスで吊り下がっている可能性が高いのだ。足場が崩れて真っ逆さまになる光景を想像して、さしものイブランもぞっとした。
「そういえばアルフィリースは?」
「あそこに」
アルフィリースは足場の地面の埃を払いながら、いくつかの場所を探していた。その中の一つで、ぴたりと手が止まる。
「ありましたね」
その場でアルフィリースが魔力を流すと、足場の岩に光の線が入った。そして同時に地面から文字が浮かび上がると、それらが何本かの帯のようになり、アルフィリースの周囲を回り始めた。
「呪印?」
「いえ・・・あれは」
クローゼスの疑問をラーナが否定する。当のアルフィリースはどこ吹く風で宙に浮かんだ文字に触れながら、何かを操作しているようだった。
「なるほど、この遺跡も完全に死んだわけではないのですね。呼びかけにこうして応える能力は残されている――うん? この一区画だけ稼働している? 管理者シモーラを呼び出して――いえ、やはり機能は停止しているようね。だとしたら誰が」
「あなた」
ラーナがアルフィリースに代わった誰かに声をかけた。その誰かはラーナの呼びかけに呼応して顔を上げた。
「何をしているのです?」
「無論ウッコを探しています」
「ウッコ?」
「この鳴動の元凶です。まだ目覚めて間がないはず・・・仕留めるなら今しかありませんから。しかし、おかしいですね」
アルフィリースが手をかざすと、その周囲に有象無象の精霊たちが集まってきた。闇の中に舞い踊る赤や青、白の煌めきは幻想的だったが、同時にその中心にいるアルフィリースは人ではない何かのようでもある。
ただあっけにとられる他の者と違い、ラーナ、ミュスカデ、クローゼスの三人は本能的な畏れを感じていた。
「貴女はいったい――」
「そう――やはりウッコの反応と遺跡の稼働状況が一致しない。おかしいわ。ウッコが目覚める前からこの遺跡は――誰かが意図的にウッコをここに配置し、起こしたとでも言うのかしら」
心配そうに眺めるラーナの前でしばらく一人で呟いていたアルフィリースだが、考えをまとめるとくるりとラーナの方を振り向いた。
「ラーナ、魔女としてのあなたに命じます。私に従いウッコを討伐し、この遺跡の稼働状況を確認しなさい」
「――私が従うのはただ一人、アルフィリースのみです。あなたの命令には――」
「アルフィリースにも関わることです。それに時間がありません。断ると言うのなら強制的に執行させてもいいのですよ?」
有無を言わせぬ圧力にラーナが決めかねていると、クローゼスがぽんとその肩を叩いた。
「ラーナ、ここは従おう」
「しかし――」
「ただ事ではないのは確かだ。このままでは事態が解決するとは思えない。ここは素直に協力した方が被害が少ないのは確かだろう」
「そうよ。確かに何者かわからない人の言うことを聞くのは不気味だけど、私達は本能で『この人』が誰かを理解できているはず。魔女ならなおさら、逆らうことはできないわ」
ミュスカデの言うことはわかる、魔女としての本能は同じことを告げている。だがそれでもラーナの人間としての本能が拒否するのだ。アルフィリース以外の誰かの言うことを聞くなど、我慢がならなかった、が――
続く
次回投稿は、1/12(日)17:00~です。