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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
1922/2685

戦争と平和、その459~道化師の遊戯⑫~

「任務完了」

「ひゅう~、格好いいねぇお姉さん」


 セローグレイスが茶化しながらも賞賛の言葉を贈る。なんとか四肢をくっつけ、立てるようになったところだった。

 ハミッテはその三姉妹をじろりと一瞥すると、くるりと踵を返した。


「あまりなれなれしくしないでいただけるかしら? 本来なら我々は敵対関係。大司教の命令だから共同戦線を張っているけど、本来なら見た瞬間に殺し合う関係のはず。情でも誘おうっていうの?」

「んなつれないこと言うなよぉ。共通の敵がいるなら、魔王とだって手を取り合うだろ? 別にいいじゃねぇの。一時的にでも共同戦線を張るのなら、互いを知ることは悪いことじゃねぇさ」

「ではあなたたちの不死の秘密を教えていただけるかしら? 弱点がわからなければ、私たちも守り様がないものでね」

「あちゃー、そう来たか。でも残念ながら死に方は俺らも知らねぇんだよなぁ。何せ本当の意味で死んだことはねぇからなぁ」


 にやにやと笑うセローグレイスに、冷たい視線を投げかけたハミッテは、そのまま無言でその場を去っていった。その態度に、セローグレイスは呆れたようにため息をついた。


「愛想のねぇ女だ。絶対友達少ないぜ?」

「機械的であることに違いありませんわわね、私は嫌いではありませんが。人間であれば我々が憎いこともまぁしょうがないでしょう」

「それより、あれ、どうす、る?」


 ハムネットが指さしたのは、ファルグリナの死体。彼女達は力ある生物を姉であるキュベェスに持ち帰ることが根本的な指名である。超人ともいえるファルグリナの死体は、キュベェスにとって良い栄養源になるかもしれない。

 が――


「いや、だめだろ」

「そうですわね。あれは人間として機能が逸脱しているけれども、あくまで素材は人間。人間は弱すぎて、素材として取り込んでも意味がないとお姉様はおっしゃっていました。気功は人間が鍛錬の結果発揮しうる技術であり、素材の良さとは別物です。

 それに人間は取り込み過ぎると毒にもなるとも」

「毒?」

「戦うのに余計な能力を獲得してしまうそうです。人間を食べまくった辺境の魔物の話をご存じですわね?」

「ああ。人間の知恵がついたせいで、人間が食えなくなって餓死したやつだろ?」

「知恵だけならともかく、情だとか余計な感情まで身につくそうですわ。お姉さまには余計な機能は不必要とのことですので」

「ああ、だ、から」


 ハムネットが何かしら納得したようだったが、セローグレイスには理解できないようだった。そしてその直後に、彼女たちの思考回路に再びキュベェスからの念話が届いたのだ。


「・・・つっ! お姉さま、なんだか焦ってねぇか? 声だけやたらでけぇが、指示が具体的じゃねぇな」

「完全に覚醒しないまま、指示をする必要があったのかもしれませんね。とにかく急ぎますわよ。そのウッコとやらの一部だけでも持って帰らないと。北の魔物の群れなんて、もうどうでもいいですわ」

「僕が先、導するまでもなく、場所わかるで、しょ? 行、こう」

「腕が鳴るぜ! といいたいが、おそらくは火事場泥棒みてぇな真似になるんだろうな。トホホ・・・・・・せめて本来の体と武器が使えりゃあなぁ」

「愚痴っても致し方ありませんわ。行きますわよ!」


 項垂れるセローグレイスの尻を叩きながら、リアシェッドが走る。そのまま三姉妹は闇夜のアルネリア郊外へと向かったのだが、その後で突然ファルグリナの死体がむくりと起き上がった。

 首のない死体は何事もなかったかのようにすっくと立ちあがると、なくなったはずの首の肉の部分が盛り上がり、はじけ飛ぶように下から首が出現した。鮮血の中、長い金髪をたなびかせて出てきた新しい顔は、とても美しくて清らかな容貌の乙女だった。

 着ぶくれしていたような道化師の衣装がしゅるしゅると萎み、ファルグリナがそれをはぎ取ると、下にはただの町人の服装が出現した。ファルグリナは周囲を見渡し誰にも見られていないことを確認すると、小さくふふっと笑ったのだ。


「さて、これで自由ね。女道化師ファルグリナはアルネリアで死亡、ゼムスの仲間に仕留められなかったのは予想外だけど、アルネリアが証人になってくれるでしょう。

 イカレ野郎のバフルールは死んだみたいだし、ハンスヴル師匠はなんのつもりか知らないけど、師匠の監視からも外れた。おおよそ計画通り、私は自由だわ!」


 くるくるとファルグリナが踊り、誰もいない闇夜に向かって一礼する。そしてこれからの人生について模索するのだ。


「辺境での化け物狩りも御免だし、しばらくは人並みの色恋沙汰でも経験しようかしら。あえて真面目に暮らしてみるのもいいわね・・・なーんて、すぐに飽きちゃいそうだわ!

 ま、そうなったらそうなったでまた道化師として活動すればいいんだし、しばらくは戦いと無縁なところにいましょうか。でも手持ちの金がないし、隠し財産を取りに行くにしても先立つものが必要ね。それに何か面白いネタが欲しいかも・・・あ、そうだ。さっき追い回していた女、明らかに顔と身分は盗んだものだったわね! あの女を脅しつけてとりあえずは生活拠点とお金を手に入れましょうか。そうだわ、そうしましょう!」


 浮かれたようにステップを踏みながらファルグリナが歩き出していた。だがその胸中には一つだけ疑念が渦巻いていた。


「(さっきのアルネリアの口無し、戦っている間に筋力の最大値が成長していたわね。最初は戦いの勘を取り戻していると思っていたのに、あれは違うわ。そう、成長といって差し支えない。戦いの最中に成長する人間は何度も見たことがあるけど、あんな急激な成長ってあり? 元の1.4倍くらいの速度まで成長していたわ。なんだか妙なことだけど・・・ま、いっか)」


 元々複雑なことを考えるのが得意ではないファルグリナは、大雑把な死亡偽装計画が成功したことに舞い上がっており、それ以外のことは現時点で考えられなかったのである。

 そうして彼女がアルネリアの闇夜に消えたことを確認したものは、偶然にも誰もいなかったのだった。



続く

次回投稿は、1/6(月)17:00です。

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[一言] >あの女を脅しつけてとりあえずは生活拠点とお金を手に入れましょうか。そうだわ、そうしましょう! またマスカレイドに受難が……
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