表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
1920/2685

戦争と平和、その457~道化師の遊戯⑩~


***


 エネーマたちが去った後、深緑宮の正面は当然補修と対応に追われているわけだが、その中で独り震えながらも頭を抱えて悩む者がいた。アミルことマスカレイドである。

 そっと戦いの様子を窺っていたマスカレイドは、当然ヒドゥンの存在にも気付いた。まさか行方知れずとなってヒドゥンが、勇者ゼムス一行の元にいるとは。ヒドゥンの現状がいかなものかを考えつつも、まさかエネーマの従僕と成り果てたことなど考えも及ばず、マスカレイドは混乱していた。


「ど、どうしてヒドゥンがあそこにいるの? オーランゼブルを裏切っていた、それともオーランゼブルと仲違いした? あるいは命令で潜伏しているのかしら?

 わけがわからないわ――確認するにしても、誰かの後ろ盾がなければとてもではないけど会うことなんてできないし」


 マスカレイドはふと頼りになる者がいないかどうか考えて、ウルティナを腕に抱えて歩くブランディオが目に留まった。だが鬼気迫るその表情を見て、マスカレイドは寄り付こうとは思えなかった。


「ブランディオのあんな表情初めて見るわ。いつもへらへらしているのに――そうか、彼女があいつの弱みか――でも今はそれどころじゃあない。他のスコナーの現状を知る唯一の機会、なんとかしないと――」


 マスカレイドが夢中で考えていると、肩を突然叩かれた。そこまで接近されたことに気付けないこともどうかしているが、目の前には自分を助けてくれた騎士二人が立っていた。


「ご婦人、ご無事でしたか? 顔色が真っ青ですが」

「よければ救護室へ案内いたしますが」

「い、いえ。大丈夫だわ」


 実力はなんということはない若い騎士だが、自分たちも死ぬ目に何度も遭いながらそれでも他者を気遣う心根があることを素直に立派だと思う。人間はひどく醜い連中がいる一方で、馬鹿がつく程に高潔な者がいることも知ってはいた。今まではそれらを鬱陶しいか都合よく利用できるとしか考えていなかったマスカレイドだが、今はその心遣いが心地よい。

 二人の若い騎士に感謝を述べながら、マスカレイドは彼らに問いかけた。


「若い騎士様は、二人とも随分と高潔でいらっしゃるのね。でもアルネリアの騎士は三人一組が基本ではなくて? 普通は小隊でも三人一組で組みいられるはずだけど」

「よくご存じで。それもシーカーの王女補佐の嗜み?」

「当然でしょう。グローリアにはシーカーの子弟がこれから通うかもしれないのだから」

「ああ、そういう交渉もしているのでしたね。いずれ後輩にシーカーの神殿騎士が誕生するのかもしれないということなのか。ミルトレも知っていた?」

「今初めて聞いたが、むしろ頼もしいな。シーカーの種は人間よりも長命と聞いた。長らくアルネリアを守ってもらえるなら何よりだ」


 ミルトレの言葉に微笑むマスカレイド。そう言ってもらえることが、素直に嬉しかったのだ。だが次のミルトレの言葉に、マスカレイドはまたしても固まってしまうこととなる。


「三人一組とのことでしたか? 我々の同輩だったクルーダスが不慮の事故で死んでから、まだ余っている者がいないのです。選抜の段階で既に絞り込まれていたものですが、早々補充がされるものでもなくてね。この大陸平和会議が終了したのちに、補充される予定なのです」

「そ、それは――お悔やみ申し上げますわ」


 マスカレイドは自らがきっかけとなった事件で巻き込まれて死んだ者の名前を思い出し、ぞくりとした。見えぬ何かに囲まれ追い詰められている気がして、その場にいたたまれなくなった。

 マスカレイドがよろめくと、マリオンが手を貸していた。


「ご婦人、やはり救護室へ」

「え、ええ。そうするわ。ちなみに先ほどのブランディオ殿はどちらへ?」

「我々も知らぬのです。今回も警備責任者は元来違う者が行う予定だったのですが、大司教の命令で突然責任者となった方で。巡礼だとは思うのですが、我々は面識もなく。指揮系統に混乱はないのですが、不思議な心持なのです」

「え? 神殿騎士団なのに知らないと?」

「巡礼の方はたいていはアルネリア外で活動しますからね。だから当然面識がないことは多々ありますが、それにしてもブランディオ殿はアルネリアの内部事情に詳しい。優秀であることは間違いないのでしょうが・・・」


 マリオンはそれ以上は具体的に告げなかったが、何か引っかかっていることがあるのだろう。マスカレイドも首を傾げたが、あまり事情に詳しいことも知ってはいけないと思い、それ以上は何も発言せず言われるがままに運ばれたが、心には留め置いたのである。



続く

次回投稿は、12/31(火)17:00になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ