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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その452~道化師の遊戯⑤~

「小生、その美技に感動しました! ぜひ握手を!」

「触れたものを全て潰すこの光の手。握手できるものならやってみなさい!」


 ウルティナも以前と違い、光の手の操り方に長けている。以前は使う時には、半強制的に瞑想状態に陥っていたが、今は意識を覚醒したままこれらの手を操ることができるのだ。もちろん全精力を攻撃に傾ける時は、また瞑想状態で行動不能になることは変わりない。

 ウルティナが男道化師を追いながら、光の手を次々と放つ。大小様々な大きさの手は、頭程度のものから男道化師をまるごと握りつぶせる大きさのものまで様々だ。男道化師は腹の突き出た体型でありながら、それらを器用に飛び跳ねながら躱す。まさに曲芸のような身のこなしに、ウルティナが舌打ちする。


「ちっ、ちょこまかとよく躱す!」

「お嬢さん、紙芝居は好きですかな?」

「は? 何の話かしら?」

「小生、紙芝居が好きでしてな」


 男道化師は語る。かつて寒村出身だった自分たちの村では、この時代において口減らしが行われることのある土地だった。口減らしの対象となる子どもを決めるため、定期的に村では祭りと称した「遊戯」が行われたのだ。

 食べることのできなくなった腐った果実を投げ当て、当たった個数がもっとも多い子どもが口減らしの対象となる。しかもただ口減らしの対象となるだけではなく、その肉も、皮も、骨も余すところなく村人のために「使用される」のだ。


「小生、生きるために必死でした。だから追いかけっこの類では、絶対に捕まらない自信があるのです!」

「その自信を粉々にしてあげるわ!」


 ウルティナの攻撃が男道化師の足元を払う。飛びあがった男道化師の頭部をめがけた手は、男道化師の頭部が体にめりこんだことで回避された。次に着地した瞬間に正面からせまった二つの手は、男道化師が細く長く伸びたことで回避された。

 体がまるで伸び縮みする素材でできているかのような、人間には不可能な方法で回避する男道化師を見て、ウルティナが歯ぎしりする。


「奇怪な体術を使う!」

「人間は鍛え方次第で体を固くしたりすることはよく知られたことですが、伸縮も割と融通が利くのです。『気功』を使えるのならそれらに考えが至りそうなものですが、どうも世の中の気功使いは真面目過ぎていけない。私たちのように柔軟な考えを持ってみては?」

「あんたたちのは、ふざけているって言うのよ!」

「こりゃまた失敬!」


 男道化師がウルティナに尻を向けて、叩きながら屁をひったので、ウルティナは顔を真っ赤にして総攻撃を開始した。当然のごとく動きは一瞬鈍るのだが、その瞬間に男道化師が手から糸を出してウルティナの足元を狙っていた。


「! 危ない!」

「むぅ~これも避けますかぁ。やりますね、お嬢さん! 番手の高い巡礼とお見受けしました!」

「巡礼のことも知っている? 何者?」

「そりゃあ知っていますよ~私たちの仲間にもおたくの先輩はいますしね。確か、現役の時は三番だとかおっしゃっていたような・・・」


 その瞬間、巨大な炎の塊と光の塊が男道化師に襲い掛かった。男道化師はそれらを転がりながら避けたが、起き上がるその瞬間に矢が三本同時に飛んできた。頭に飛んできた矢は歯でかろうじて受け止めたが、脚と腹に命中した一撃は刺さってそのまま爆発した。


「ぎゃあ~!! 脚が、脚がぁ~生えたぁ~!!」

「その芸は見飽きたわ、道化師バフルール」

「見ぃつけた! すぐやっちゃおう!」

「逃がさないわよ。まずはお前からだ」


 応戦中のウルティナの反対から、エネーマ、ヴォドゥン、ライフリングの三人がやってきた。弓兵のシェキナはやや離れた建物の上から狙撃しており、四人とも凄まじく殺気立っている。その殺伐とした様子に、バフルールが冷や汗を垂らす。


「どうしたのですが、四名様。小生の抱腹絶倒のショーを見に来たのですかな?」

「あんた、曲芸が上手いのは認めるけど、笑いの才能は絶望的にないのよ。そろそろ理解なさいな」

「なんと、それはひどい物言い! 小生の存在意義から抉る言葉の暴力! さすが我々の副団長、糞女殿。その名に違わず酷いお方!」

「それは認めますぅ」

「ヴォドゥン、合わせるんじゃないよ! 副団長なんて柄じゃあないのよ、ゼムスが面倒なことを押し付けるってだけで。なんで私がこんなアルネリアくんだりまで、二度と踏むまいと決めた地に来なきゃならないんだか・・・」


 ぶつぶつとエネーマがつぶやく中、弓兵シェキナは油断なく矢を番えながら考え事をしていた。


「(さて、エネーマはどうするのかな。バフルールはいわゆる『超人』だ。脂肪にしか見えない肉の塊は、全て生命エネルギーに変換できる気功の塊。人間では不可能と言われた、巨獣級の生命力を必要に応じて最も効率よく運用できる男。それらを削り切るのに、ゼムスですら三日三晩を要した。

 我々の仲間内でも、限りなく勇者に近い実力を備えた男。どう戦うつもりなのか)」


 この四人で勝てないわけではない。だがシェキナの疑問に、エネーマは作戦があると告げていた。そのための召喚を、エネーマが行うところだった。



続く

次回投稿は、12/21(土)18:00です。

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