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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その449~道化師の遊戯②~


「深緑宮に用があるとして、今はどのみちほとんど誰もいない! 行くだけ無駄だ!」

「え!?」

「ミルトレ、機密だぞ!?」


 マリオンが叫ぶ。だがミルトレは構わず告げた。


「事態が事態だ、無茶をされた方が余程困る! それにシーカーなら、完全に無関係というわけでもあるまい! 昼の魔王の襲撃、それに現在それ以上の事態が起きそうで調査中だ。主たる騎士はほとんどそのために出払っているんだ!」

「そ、そんな――」


 マスカレイドがいったん伸ばしかけた腕を引っ込めると、前を行くミルトレが突然横殴りに吹き飛んだ。ミルトレは咄嗟に小手で防御したが、ミスリル性の小手に木の実がめり込んで回転している。なぜ木の実ごときにミスリルが負けるのかという疑問と、たかが木の実に吹き飛ばされたという恐怖がミルトレの頭の中を支配する。

 だから次に飛来した木の実の連弾を防御したのは、後ろから追いついたマリオンだったのだ。咄嗟に盾を出して防御することに成功したが、二人して吹き飛ばされ、背後の民家に叩きつけられていた。


「ぐほっ」

「うあっ」

「アハァ」


 追いついてきたのは女道化師。木の実の連弾を受け止めたマリオンに対しきゃっきゃと笑いながら拍手をし、立ち上がるのを待っている。

 そして女道化師が笑いながら彼らに呼びかけた。


「騎―士―さん、あーそーぼ!」

「くっ・・・ふざけるな!」


 ミルトレが大上段から振りかぶって渾身の一撃を叩きこんだが、女道化師がちょいとその剣を指先で触ると、剣がぐにゃりと曲がって、まるで海藻のようにへにゃりと変形した。その剣が女道化師の胸をうつと、女道化師は甘い声を出した。


「きゃん! そういうお遊びがいいの?」

「い、いや、ちょっと待て! 今のは不可抗力――」

「じゃあ、ぱふぱふする?」


 女道化師がミルトレの顔を自分の胸にうずめた。突然の出来事ももがくミルトレだが、女道化師の抱擁ハグが強すぎて動けない。

 マリオンが助けるために猛然と斬りかかったが、女道化師の平手打ちの方が早く命中する。ぼぉん、という柔らかい音がしたにも関わらず、音に似つかわしくない激しさでマリオンがきりもみ状に吹き飛んだ。そのまま民家の窓を破壊し、叩きつけられるマリオン。ミルトレは息ができないのか、段々と動きが鈍くなってきている。

 その様子を実に楽しそうに、恍惚の表情で眺める女道化師。その背後から、マスカレイドが声をかけた。


「ねぇ、調子に乗るんじゃないわよ!」


《風よ、巻きてこよりて針となれ――》

風針エアロニードル


 超短呪での魔術発動。魔術の溜めと詠唱があれば数十本の針が飛んでいくのだが、十本にも満たない風の針をまずは飛ばして虚をつくマスカレイド。背後からのその攻撃はミルトレごと打ち抜くことも厭わない攻撃だったが、そうでもしないとどのみちこの女道化師をどうにもできないことをマスカレイドは察していた。

 詠唱自体が隙になることも承知で、マスカレイドは魔術を選択した。今までのやりとりから、物理攻撃は無効化される可能性を考慮したのだ。

 背後からの攻撃に、女道化師の首がぐるりと180度反対に向き、マスカレイドの魔術に反応した。


二重詠唱ダブルスペル、やるじゃない」


 短術だが連発することで針の数を補う。マスカレイドは左手の魔術を発動し、そして右手の魔術をすかさず発動しようと構えていた。

 女道化師は胸にうずめたミルトレを突き飛ばし、近距離からの魔術に応対する。


「避けられるものか!」


 針は十発なくとも、避けることは人間の体の構造的に不可能なように発動させた。だが女道化師はマスカレイドが想像もしない方法で針を避けたのだ。


「びよーん!」

「はあっ!?」


 女道化師の体がねじれたかと思うと、まるで絞ったタオルのようにぎゅるぎゅると細くなる。それはつま先から足先、頭の先まで――まるで粘液生物か何かのように変形し、あり得ない細さとなって風の針を避けていた。

 避けた瞬間、巻き戻るように元の形に戻る女道化師。出来事そのものも信じられないが、変形の速度が物理法則を捻じ曲げたかのように素早く行われた。だがマスカレイドもさるもの、その行動を見て瞬間的に魔術を変更する。

 右手の魔術発動がなされる直前に、集めた風をそのままに無理矢理変更したのだ。


《風よ、巻きて寄りて――刃となれ、眼前の敵を断て》

風刃エアロカッター

「おおっ!?」


 これには女道化師も驚いた。針のような攻撃から、突然横薙ぎの刃に変わったのだ。しかも目の前で突然出現した刃に触れれば体は両断。

 マスカレイドの必勝法に、勝利を確信した瞬間である。


「だがしかぁし! 私はこの風も乗りこなして見せる! ひゃっほおぅぅうう!」


 女道化師が風の刃に飛び乗った。そしてそのまま刃から落ちないように姿勢を保ちながら――どこかに飛び去って行った。

 後には、ぽかんとして事実を飲み込めないマスカレイドだけが取り残されていた。



続く

次回投稿は、12/15(金)18:00です。


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