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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その448~道化師の遊戯①~

 事態が飲み込めず呆然とするマスカレイド。その半分ひしゃげた騎士の頭には、果物がめり込んでいた。果物が人の頭部を破壊するとは何事か――そんな疑問と恐怖が同時に押し寄せ、その場の人間は一瞬呆然となった。

 真っ先に我に返ったのはマスカレイドと隊長格の騎士。果物が飛んできた方向を見ると、そこには二つの影が月明かりに照らされていた。

 一つは球に乗りながらお手玉をする女の道化師。もう一人は何か動物らしき四足歩行の乗り物に乗る太った道化師。顔を白い厚塗りの化粧で覆い、女は青く、男は赤く目と口を縁取るその奇怪な格好と不気味な恰好に、その場にいた全員が一歩も動けないでいた。

 数々の黒の魔術士に接し、大陸で最も危険な生物たちを知っているつもりでいたマスカレイドも、この二人を相手にして微動だにできなかった。


「(何、この危ない連中は。見た目もそうだけど、匂いがヤバい。これの相手をすると、ただ死ぬだけでは済まないわ。興味をひいた順にやられる。まずは気配を不自然でない程度に消さなくては・・・隙あらば一瞬で逃げる。深緑宮までたどり着けば、なんとかなるはず!)」


 だが頼みの深緑宮に、今はほとんど人がいないことをマスカレイドは知る由もない。緊張で動けない騎士たちを前に、退屈した道化師はそれぞれ芸を披露し始めた。

 女道化師はお手玉だけでなく、間に剣や盾を投げ上げ、複雑なお手玉を開始した。そうするうちに首がぼろりと取れると、甲高い声で首が笑い始める。首が取れた場所からはにょきりと新しい首が生え、取れた首はぽんと弾けて玩具であることが示された。そのことに手を叩いて喜び、投げ上げたお手玉を剣を軸にして、全て突き刺す女道化師。そして大仰に礼をすると、突き刺したお手玉から血がしたたり落ちた。


「おい、あれ――」

「わかってる。首だ。それだけじゃない」

「隣もですね」


 女道化師が持っていたのは玉ではなく、首だった。雲が腫れて天然の月明かりのカーテンが降りると、それらの姿が露わになり、女道化師は不吉にニタリと笑ったのだ。

 そして男道化師は四足歩行の動物を立たせると、二足歩行に切り替えた。まるでそれが自然であるかのように起立したその生き物は、よく見れば人の死体の集まりなのだ。どうやっているのか知らないが、人の死体を圧縮し、集めて操っていた。それがただ、生き物のように見えるだけだった。

 先頭にいた騎士が吠えた。


「ミルトレ、マリオン! すぐにそのご婦人を連れて詰め所まで下がれ!」

「はい!」

「ルーファン隊長はいかがなさいますか!?」

「俺たちはここで足止めだ! 魔晶石の鎧ならある程度持ちこたえるはずだ、行けぇ!」


 異常事態を正確に感じ取った隊長が吠えた。それを受けて若い騎士二名がマスカレイドを助け起こし、反対方向に動き始めた。


「ご婦人、失礼!」

「こちらへ!」


 マスカレイドは抱え起こされると、自力で走り始めた。振り返ったその瞬間、自分の顔面に飛んできた投擲物を騎士が防御したのが見えた。女道化師の青い口元が大きく歪んでいたのが。月明かりで嫌に目についた。

 マスカレイドはこれ幸いとばかりに走り始めた。全力疾走は疲労した体には応えたが、騎士二人はマスカレイドの前後を守るように並走してくれる。顔も知らない二人の若い騎士だが、今はその心遣いがありがたいと思った。

 騎士二人は走りながら会話を始めた。


「マリオン、このまま三番区の詰め所でいいと思うか!?」

「いや、先ほどの死体がもし巡回の騎士だとしたら、三番区はまずいかもしれない! 定かではないが、三番区で見た顔がいたような気がする」

「では灯りだけ確認し、そのまま一番区の本部に行くべきだな!?」

「それがいいだろう!」


 騎士たちの会話を聞きながら、マスカレイドはまずいと思った。一番区はアルネリア城壁の正門近くの住所だ。深緑宮とは反対側になる。距離もかなりあるし、このままではブランディオと離れた場所で拘束されかねない。

 不気味な二人の道化師と少し距離を取ったと感じたマスカレイドは、二人の騎士に言葉に反論した。


「あの! 申し訳ありませんが、私は深緑宮に火急の用があるのです! このまま深緑宮に向かうことはできませんか?」

「ダメだ! 深緑宮にあんな化け物を誘導するわけにはいかない!」

「ご婦人、夜更けの深緑宮に何用ですか? まだ貴女の嫌疑は完全に晴れたわけではないのですよ?」


 若い騎士だが、油断はしていないらしい。特に髪の長い、美形の騎士は鋭そうだとマスカレイドは舌打ちした。おそらくはグローリア上がりの見習いなのだろうが、互いに不幸なことだと考える。

 こうなれば、多少強引な手段に出たとしても騎士二人を引き離すか――そう考え、マスカレイドは曲がり角で仕掛けるつもりで呼吸を整えた。挟まれているのは不都合だが、前のミルトレを突き飛ばし、後方のマリオンに足をかければなんとかならないかと考える。

 そして手を伸ばそうと意を決したその瞬間である。前を行くミルトレが叫ぶ。



続く

次回投稿は、12/13(金)18:00です。

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