戦争と平和、その444~太古からの覚醒④~
「貴様を特命隊長に任ずる。一個小隊を選抜し、任務に備えよ。爵位はあるか?」
「い、いえ。祖父が子爵を拝命しておりますが、二世代限定であるゆえ、我々の世代は拝命しておりませぬ」
「ならば俺の権限で準子爵の地位を与えてやろう。貴族位がないと、何かと対面上うるさい連中がいるからな」
「王よ、一体何の特命でございますか? 貴族位をこのように簡単に与えるなど――」
「簡単に与えたつもりはないがな。推挙と、俺が見た直感でこのくらいはやるだろうという見込みだ。自信がないか?」
「ありませぬ」
ミラがきっぱりと言い放ったので、これにはスウェンドルも目を丸くした。だがスウェンドルが次の言葉を発する前に、ミラが先に告げていた。
「ですが王命とあれば、承りましょう。ミラ=ナイトルー=ハイランダー。謹んで命令を承ります」
「そうか。では命令である。命令があれば、ただちにわが末娘ウィラニアをイェーガーから奪還してまいれ。やり方は任せる」
「承知いたしました。では早速小隊の選抜に取り掛かります」
ミラが直垂を翻して出て行った。まだ新人だと聞いていたが、中々堂に入った歩き方である。そうした身のこなしを見ていて、スウェンドルはルイのことを完全に思い出していた。
「・・・ああ、完全に思い出したぞ。統一武術大会のブラックホークのルイとやらが、あれの姉になるのか。ローマンズランドを出奔して傭兵とは、俺も信用を失くしたものだ。いや、思い通りではあるのか? ここにきてその妹が推挙を受けるとは、偶然とは恐ろしいものだ。
俺の意図通りに進んでいるではないか」
オルロワージュは隣でスウェンドルの独り言を聞いていたのだが、意味が分からず困惑していた。天幕には、スウェンドルの笑い声だけが響いていた。
***
「よーう、リアシェッド。なんで俺たちはこんなことしてるんだろうなぁ?」
「知りませんわよ、セローグレイス。ろくな食べ物が手に入らないのだから、しょうがないでしょう?」
「私たち、はいい。お姉さま、の分を確保」
スピアーズの四姉妹の三人、リアシェッド、セローグレイス、ハムネットはミルネーが集めた魔物の残党狩りをしていた。彼女ら自身は人間の食べ物でも問題ないが、姉であるキュベェスは力ある者の肉しか口にしない。つまり、普通の家畜の肉などどれほど上手に調理しようが、体が受け付けないのである。魔素の多さの違いなのか、理由はいまだわからない。
だから今日も三姉妹は魔物を狩る。姉キュベェスへの土産を持ち帰るために。動く魔物がいなくなった頃、セローグレイスがへたり込んだ。
「あーあ、くそだりー」
「さて、一か所にまとめて燻製にしますわよ」
「火、熾す。あとよ、ろしく」
「くそー、なんだって俺が調理担当なんだよー」
大の字になって駄々をこねるセローグレイスに、腰に手を当てて諭すリアシェッド。
「しょうがないでしょう、あなたが一番まともな料理を作るのですから。それとも私に料理をさせて、キュベェスお姉さまの吐くところを見たいの?」
「僕たち、料理音痴。残念」
「ちきしょー、運搬はお前らでやれよな?」
「それはハムネットにお任せしますわ」
「うん。移動用、の魔獣を調教して、くる」
ハムネットが素早く火を熾すと、闇夜に消えていった。セローグレイスは文句を言いながらもフライパンを温め、リアシェッドは一休みに入る。
その様子にセローグレイスが文句を言った。
「お前良い身分だなぁ?」
「もう百年も前から同じ議論をしていて、よく飽きませんわね。料理はセロー、力仕事は私、雑用はハムネット。決まっていることでしょう?」
「わかっているけど、面倒なものは面倒なんだよぉ」
「同情はしますわ。けど、かといって百年手抜きをしないあなたを、私は中々に尊敬して――」
リアシェッドが珍しくセローグレイスを褒めようとした時、妙な気配が森の中に漂った。ひと眠りしかけていたリアシェッドががばりと起きた時には、既に異変が起きていた。
「セロー! 索敵!」
「あぁん?」
「まず、い――」
リアシェッドが起きた時には、その腹に何か球体が直撃した瞬間だった。ただの鉄球に見えるその球体は超高速で回転しており、リアシェッドはなぜか身動きも取れず自らの骨と内臓が破損していく音を聞いていた。
「ぐぇえええ・・・おぶぅ!」
「リアシェッド!」
セローグレイスがリアシェッドを助けに行こうとして、突然投げられた何かをフライパンで防御した。そこには二つの鉄球と、ねじ曲げられて四肢を針と糸で固定されたハムネットが直撃していた。熱したフライパンでハムネットが焼ける音が聞こえる。
「うぉおおおお、ハムネット! 畜生が!」
セローグレイスは盾にも撲殺武器にもなるフライパンを投げ捨てると、二本の剣を取り出した。
だがその剣を取り出して構えた瞬間、周囲にはふわりと布が出現し――
「あぁん?」
セローグレイスが気付いた瞬間、それらが急激に締め上げセローグレイスは声も出せずに闇の森の上部にひっぱりあげられた。
そしてしばらくしてさかさまに吊るされたセローグレイスが、火にあぶられる格好で下に降ろされたのである。
「ぐ・・・うぅぅぅぅ・・・セロー・・・ハムネット」
リアシェッドの腹に命中した鉄球はまだ回転しており、身動きが取れなかった。それだけではない、いつの間にか肘と膝を的確に直撃したその鉄球は、丁寧にリアシェッドの再生を阻害し身動きを取れなくしていた。
鉄球の回転は徐々に減少していたが、完全に止まるまでは四半刻近くかかる可能性もある。その間、身動きのとれないセローグレイスとハムネットは焼かれるままなのだ。いかに不死身とて、生きながら焼かれるのがどれほどの苦痛か。
これをやった者に対する殺意を充満させながらも、身動きの取れないリアシェッドが、突然蹴飛ばされた。
続く
次回投稿は、12/5(木)18:00です。