戦争と平和、その442~太古からの覚醒②~
「いや、仮にウッコが本格的に目覚めれば、東の大陸にいようが遅かれ早かれ滅ぼされよう。むしろここには今、人外の力が集うておる。殺すなら今。まだ完全に目覚めておらぬ今を狙うべきじゃ」
「なるほど。では我々も戦力を出すか?」
「いや、それには及ばぬ。妾が直接出向こう」
ブラディマリアのその言葉に、浄儀白楽も含めてぎょっとした。
「ブラディマリア様が直接?」
「なんじゃ、不服かえ?」
「い、いえ。そのようなことは決して」
「詩乃は妾がぐうたらしている所しか見ておらぬであろうからの。じゃが、これは完全に人外の戦いよ。いかに人として強力なそなたらでも、見ているだけでも命がけとなろう。
それよりも、そなたらにはそなたらで、やることがあろうて」
「それはわかっている。が、出し惜しみをして結果何も得られぬようでは愚の骨頂。いかなものであるか、俺も見る権利はあるはずだ」
浄儀白楽の言葉に、ブラディマリアは困ったような顔をしたが、溜め息をついて頷いた。
「・・・ほんに、しょうのない。旦那殿は言い出すと聞かぬからのぅ。せめて妾の傍を離れるでないぞ?」
「自分の身も守れぬような愚図なら見捨ててもらって構わん。そなたの傍に並び立てることができるのは、強者のみであろう」
「それはもちろんそうじゃが。今の旦那殿がそなたであることに間違いはない。自ら危ない現場には立たないでおくれ」
「考慮しよう」
浄儀白楽の頷きと共に、二人は移動を開始した。ブラディマリアはともかく、浄儀白楽の移動速度は完全に人間のそれとは違っていた。方術の補佐もあるだろうが、あっという間に気配すら追えなくなる。
残された詩乃と藤太はぽかんとして、二人の消えた方角を見つめていた。
「・・・よう、詩乃殿。あの二人、仲が良いのか?」
「・・・それは一応、夫婦ですから」
「互いに利があるから一緒にいるだけだと思っていたんだが」
「私もそう思っていたことがあります。ですが白楽様はともかく、ブラディマリアに何の利があると思われますか?」
「それは・・・」
藤太は返事に困った。確かに浄儀白楽はともかく、ブラディマリアに何の利があるかと聞かれれば、それは探す方が難しい。
だが詩乃は何かしらのあてがあるようだった。
「困ったな、オラには確かに思い当らんよ」
「私も今まではわかっておりませんでした。ですがここ数日共にいて、少し思い当ることができました」
「それは何だ?」
だが詩乃はその言葉には答えず、遠くを見たまま夜風に髪を流されるままにしていた。
***
――ローマンズランド本陣――
「・・・気付いたか、アンネクローゼ?」
「何がでございましょう?」
その夜、珍しく今後の国策についてアンネクローゼたちと会話をしていたスウェンドルが突然天幕の外を見た。本日昼の出陣とその成果、論功行賞に始まり、今後の国策についてアンネクローゼの意見を聞いていた最中の出来事である。
スウェンドルは外を厳しい表情で睨みつけると、外套を羽織り大股で外に出て行った。
「王?」
「貴様ら、竜舎に来い」
果たして竜舎にスウェンドル達が急いでいくと、そこには一斉に騒ぎ立てる飛竜たちがいた。竜番の騎士達も滅多に見ない光景に、どうしたものかと竜をなだめようとするが一向に収まる気配がない。
その様子を見て、スウェンドルが一喝する。
「騒ぎ立てるのをやめよ、貴様ら!」
その瞬間、竜がびくりとして一斉に暴れるのを止めた。家臣一同はおお、と感嘆の声を漏らしたが、アンネクローゼだけは違う感想だった。
「(今のは殺気で押さえつけただけだ。父上らしくもない、強引な手段だ)」
最上位竜騎士であれば竜と意思疎通ができるため、そのような力づくの手段は普通とらない。スウェンドルの竜の操縦は、アンネクローゼから見れば最も雅やかな手法なのだ。それが今は竜たちを一斉に力づくで押さえつけた。
らしからぬ方法だったが、スウェンドルが自らの騎竜の元に歩み寄り、事情を尋ねる。
「どちらだ?」
「グ、グルアッ!」
「地下か」
「ググゥ」
「わかった。ここの竜共を騒がせるな。貴様は王の竜である、そのように振る舞え」
「グアッ!」
それだけでやり取りを済ませると、スウェンドルは再び天幕に戻った。他の竜騎士たちは自らの騎竜の様子を見ていたが、アンネクローゼはいち早く点検を終わらせると、スウェンドルに続いた。
そしてスウェンドルはオルロワージュを呼びつけると、事情を問いただした。
続く
次回投稿は、12/1(日)19:00です。