戦争と平和、その436~統一武術大会ベスト16終了後、アレクサンドリアとブラックホーク④~
「副団長、これは!?」
「見ての通り、侵入者だ。敷地内の物的被害、人的被害の把握を急げ! 相手は手練れだ、見つけたらとりあえず騒いで、間違えても戦うな。相手にするなら10人以上で取り囲める時だけだ。
あと、おそらくはこの後火事になる。消火活動の準備をしておけ」
「火事? どうしてそんなことを――」
団員達が疑問を投げ返すより前に、外から小規模な爆発の音が聞こえ、同時に火が出ていると騒ぎ出す傭兵がいた。ラインの指示を聞いていた宿直は、顔を見合わせて飛んでいった。
ラインが指示を飛ばし終わると同時に、階上から再びエクラと、今度はエアリアルが降りてきた。
「騒がしい中申し訳ございませんが、団長アルフィリースが話を伺いたいと仰せです。上の部屋までご足労願えますでしょうか?」
「無論だ、こちらから伺うつもりだった」
「断るのは無理だわなぁ。ルイ、レクサス。来い」
早速剣を収めて階上に向かうディオーレと、その後をルイとレクサスと伴ってついていくベッツ。それを見ながら、ラインは頭をぼりぼりとかいていた。
「・・・くそっ、こんなところまで亡霊が追いかけてきやがるかよ。それとも、やっぱり過去からは逃れられねぇってのか? ちきしょうめが」
ラインは悪態をつきながらも、彼らの後に続いたのである。
***
「・・・事情はわかったわ」
アルフィリースは二階の賓客用応接室でディオーレとベッツの話を聞くと、しばし俯いた後で再度口を開いた。
「つまりは、アレクサンドリアの切り札たるレイドリンド家がディオーレ殿の暗殺を企み、その証拠を掴んだベッツ殿が知らせようとしたところ、まとめて消されるところだった。
相手の息がかかった者がどこにいるかわからないから、アルネリアで最も中立で安全であろう我々の敷地内を伝手を頼って使おうとしたが、それでもだめだった。
私たちイェーガーはまんまとあなた方に乗せられて、巻き込まれた。そういう認識でよいのかしら?」
「人聞きが悪いじゃねぇの。まぁあわよくば巻き込んでもいいかとは思ったがね」
「私はどこで話し合いをするかは事前には知らなかったとだけ言っておこう。だが、この敷地内で打ち合わせをすると聞いた時、良い案だとは思ったことは事実だ」
「私たちの警備がザルだったということかしらね、ライン?」
アルフィリースがやや意地悪く水を向けたが、ラインはそっけなく答えた。
「いや、あいつら相手じゃ無理だろ。いつぞやの依頼で遭遇したから知っていると思うが、原則あいつらの気配を探ることは無理だ。そこのレクサスが気付けない段階で、リサがここにいても同じだよ。ルイの機転がなかったら、もっと苦戦したはずだしな」
「なるほど、つまりはどうやっても防げなかった襲撃だったと?」
「それはどうかな。なぁ、イブラン?」
ラインがディオーレの背後に影のように付き添っていた騎士に突然話を振った。注目がイブランに集まるが、イブランは静かに息を吐いてラインの方を呆れたように見つめ返した。
「・・・まったく、ここで私に話を振りますか? なんのために今まで、秘密裏に接触してきたのやら」
「そうも言っていられる状況かよ? 俺としてはお前が主犯だとは思わんが、お前が噛んでいないとも思っちゃいない。ここで洗いざらいぶっちゃけておかないと、困るのは結局お前だぜ?」
「どういうことだ、イブラン?」
ディオーレの声には微かな不振と殺気があった。イブランもそれがわからぬほど当然鈍くはないので、即座にラインの言葉を受け止め返答した。
「はい、実は以前からライン殿とは接触をしておりました」
「私は聞いていないが?」
「結果が出ておりませんでしたので、私の権限で話を手元に留め置きました」
イブランが平然と答える。アルフィリースもまたラインに視線を向けた。
「私も聞いていないんだけど?」
「男にだって、秘密の一つくらいあらぁな」
「団の存続に関わらなければ結構だけども」
アルフィリースもディオーレも、憮然としてそれぞれの部下を睨んだ。レクサスには今、イブランとラインの心中が痛いほどわかる気がしていた。
ディオーレが続ける。
「・・・要は、お前は私の心中を推察し、独断で行動に出たと。そういう理解でいいのか?」
「無論です、ディオーレ様」
「ならば全ての咎を負う覚悟もある。そういうことだな?」
「その通りです、ディオーレ様」
「だとしてもここが我らの官舎なら、即座に制裁を加えているところだ。ゆめ、勝手な行動は控えよ」
「は。話の続きをよろしいでしょうか?」
「許す」
ディオーレが再び正面を向き、腕を組んだ。イブランが語る。
続く
次回投稿は、11/19(火)19:00です。