戦争と平和、その435~統一武術大会ベスト16終了後、アレクサンドリアとブラックホーク③~
ラインの叫びと、人型が動いたのはどちらが早かったのか。だが人型が斬りかかるのと同時にアルフィリースがその頭部に蹴りを叩きこんだ。鮮やかな反応に、全員の動きが固まる。
「ライン、上!」
アルフィリースの叫びにラインがいち早く反応した。背中合わせで防御陣形をとる彼らの頭上に、天井に張り付いて接近してきていた相手が斬りかかる。
ラインはその剣を躱しざま反撃の一撃を叩きこもうとしたが、その剣を蹴り飛ばして相手は跳躍した。すかさずベッツが追撃をかけるが、数合打ち合って相手はするすると後退する。
「ちっ、この手ごたえ」
「普通のナイツ・オブ・ナイツじゃねぇな。これほどの手練れとなると――」
ベッツとラインが同じことを考えていた。相手は間違いなくレイドリンドの一族だと考えたが、それを口にすることはない。
ラインはなぜレイドリンドがここにいるかの想像がつかなかったし、ベッツは想像はついてもその具体的な名前を出すとここにいる全ての人間をが後に退けなくなる可能性があると考えたのだ。ベッツは誰も巻き込まないためにイェーガーでディオーレと面会をするつもりだったのに、あてがはずれてしまった。レイドリンドがここまで強引だとは思ってもいなかったのだ。
相手の力量がわかって強引に前に出られない二人を差し置き、ディオーレが強引に突然前に出た。当然斬りかかる相手を、全く意に介さず素手で受け止め進んでいくディオーレに全員が驚いたが、考えることは皆同じだった。
「魔術が使える私を、これしきの人数でどうにかできると思ったか?」
「続け!」
「突破するぞ!」
一斉に全員が動き、階段で徒手空拳で奮闘していたアルフィリースと合流した。アルフィリースが現れてから、10呼吸に満たない程の間である。
「アルフィ、無事か?」
「かすり傷程度だわ。何なの、この相手? 魔術で強化した私の体術に難なくついてくるわ」
「話は後だ。上に行ってろ、ここは俺たちで何とかする」
「なら、お願いするわ。収まってからでいいから、きちんと説明なさい。行くわよ、エクラ」
「はい!」
エクラがアルフィリースと共に上に退避し、ディオーレが階段に立ち塞がった。ラインがディオーレに耳打ちすると、同時に彼女は魔術を展開し、土壁で階段を塞ぐ。
「すまぬが、少々館を壊してしまった。だがよかったのか、ここを塞いでも?」
「構やしませんよ。それに階上の結界や防御は一階よりも厳重でね。ナイツ・オブ・ナイツでもそう簡単に侵入できないように作ってあるんで、階上に敵がいればとっくに気付いてますよ。上には魔女共もいるんで、警護は任せても大丈夫でしょう」
「なるほど。では遠慮なくやれるな?」
「そう願いたいもんですが」
ラインが構える頃には、既にルイ、ベッツ、レクサスが斬りかかっていた。相手はそれぞれ数名いるようだが、普通ならこの三人でなで斬りにするところである。だがこの三人をもってして、まだ一人も仕留められていなかった。
「なんだこいつら? マジで強いっす!」
「ふん、かすり傷でもつけばそこから凍らせてやるものを!」
「やっぱ簡単にはいかねぇか」
一人一人の技量はブラックホークの戦士たちが上でも、相手は透明かつ気配もなく、そして連携が抜群だった。レクサスと打ち合っている最中に、相手の脇から後方にいる敵が突きを放ってくるのだ。これにはレクサスも面喰い、思わず数歩後ずさるをえない。
ルイもまた、剣をまともに合わせてくれれば呪氷剣で強引に武器を破壊するのだが、相手はそれを予想しているのか、まともに武器を合わせずに応対してきた。そして軽業師のように壁を、天井を蹴りながら多角的に攻撃を仕掛けてくる相手。ルイの剣技をもってしても、攻め込まれないようにするのが精一杯だった。
ベッツはさらに数人を相手にしながら、一人に致命傷を負わせたような手ごたえがあった。だがその相手は素早く回収され、とどめを刺すに至らなかった。そして最後に打ち合った相手と十数合を打ちあっている間に、相手の姿が一人ずつ見えなくなっていったのである。
「ちっ、大物だな。俺がこの方向でよかったぜ。だが、てめーの剣には覚えがある気がするなぁ? 言えよ、誇りある剣がどの糞野郎のせいで汚された?」
「・・・・・・勝負は後日」
「待ちやがれ!」
ベッツが横薙ぎに払ったが、相手は後方に跳躍して姿を一瞬で消した。同時に侵入者を告げる鳴子が反応し、俄にイェーガー内が騒然となった。侵入者に気付いたことで、ラーナ、クローゼス、ミュスカデがそれぞれ結界を強化したのである。
ラインが安堵のため息をつきながら、剣を収めるのと、本館内の宿直の傭兵がかけつけてくるのは同時だった。
続く
次回投稿は、11/18(月)19:00です。連日投稿になります。