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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その434~統一武術大会ベスト16終了後、アレクサンドリアとブラックホーク②~

「断る」

「ええっ? まだ内容も言ってないのに?」

「どうせ詳しい内容を言う気はないだろうが。この面子で密談以外にありえるのか? 俺らの傭兵団を巻き込むんじゃねぇよ」

「まぁ、正論だな」

「ちょっと、爺さんまで」

「とはいえ」


 ラインはふーっとため息をついた。


「知らん顔ばかりでもない、うちの団長が許可すれば仕方のないことさ。ただ、俺らにも利益があるように便宜は図らせてもらうぜ?」

「そりゃあもちろんだが」

「当然だな、異論はない。だが、肝心の我々も要件は知らないわけだが、ベッツ?」

「一応、国策に関わるかもしれんことですよ。仮設の賃宿で話すにはちょいとまずい話でしてね。しっかりとした場所で話したかったもので」

「なんだ、私はてっきり一夜の床を要求されるとばかり思っていたが」


 ディオーレがとんでもない言葉を口にしたので、供のイブランですら思わず吹き出し、ラインも開いた口がふさがらず、ルイとレクサスは一歩後ずさっていた。


「ディ、ディオーレ様! なんということを!」

「じいさん・・・それはいくら俺たちブラックホークでもまずいですって。勝利の景品に精霊騎士をどうこうしようなんて、揉め事じゃ済まねぇっす」

「それどころか、男の風上にもおけんな」

「違う、そうじゃねぇ! 国策に関わることって言ってんだろうが!」

「そりゃあ精霊騎士を手籠めにすりゃあ、国策に関わるでしょうよ」

「うちの傭兵団は連れ込み宿じゃねぇぞ。アルフィリースに相談するまでもなく、貸すの止めた方がよさそうだな――」


 ラインがそんなことを苦笑いしながらつぶやいていたが、窓から建物の外がちらりと見えた。イェーガー内は夜でも足元が見えるように、それなりの数の灯りを照らしてある。それらの数がいつもより少ないのと、照らされた灯りが不自然に揺れたような気がした。

 ラインが無意識に剣に手を添えて警戒心を上げたのを見て、ディオーレが真っ先に反応した。


「もう来たのか。やはりここでもおかまいなしか」

「ディオーレ様、あんた知っていて俺たちを巻き込んだのか?」

「いや、単独行動すれば狙われるだろうとは思っていた。だが巻き込むつもりでいたのはベッツだけだ。ここに連れてこられることは知らなかった。許せ」

「どうだか。予想できていたのなら、ここに来ることも避けられたはずだ。やっぱりわざとじゃねぇか」

「何の話をしている?」


 ルイが話しかけながら、自らも剣の柄に手を当てた。ラインの警戒心を感じ取ったのだろう。レクサスが慎重に周囲の様子を窺うが、腑に落ちない顔をしている。


「気配も殺気も何もないっすけどね。あるとすれば嫌な雰囲気だけっすか」

「刺客か?」

「その通りだ。余程私に消えてほしい連中がいるようだな」

「あー、ディオーレ様。実は今日の件もそのことで」


 ベッツが剣を抜き放ちながら答えた。ディオーレも頷く。


「なるほど、そうだったか。奴らの尻尾を掴んだのか?」

「ええ、物証も一応ね。だからどうだと言われれば、それまでかもしれねぇんですが」

「ちょっと待て、お前たちの騒動に俺達を巻き込むんじゃねぇよ」


 ラインの威嚇と牽制もむなしく、ディオーレがため息をついた。


「済まぬな、もう遅いようだ」

「んじゃああんたとブラックホークに貸し一つずつだ。忘れんなよ」

「生きてたら払ってやるよ。気を付けろよ、全員相当『やる』ぞ?」


 その場にいた全員が、エクラを中心に背中を合わせるように円になって構えた。気配はない、姿も見えない。だが何かがいる。そのことだけはその場の誰もが理解していた。


「ディオーレ殿。聞きたいのだが、これはアレクサンドリアの特殊部隊か?」

「ああ。アレクサンドリアの辺境でとれる魔獣の皮に特殊な加工を施すと、気配と姿を消せる外套が完成する。これを使う辺境の蛮族どもがいるせいで、我々が長年辺境で苦戦するのだが、奪って利用もしているな」

「なるほど、ではその場から完全に消えているわけではないのだな?」

「そういうことだ」

「ならばやりようがある。少々寒いが、全員我慢しろ。《呪氷剣(コキュートスセイバー)》」


 ルイが魔力を高め、氷の領域を作り出す。一気に冷える廊下の空気に、氷の結晶がきらきらと揺れた。


「姐さん、寒い!」

「うるさい、黙れ」

「・・・エクラ、血路を切り開いたらお前は上に行け。アルフィリースに伝えて、ここに来させるな。できれば部屋にこもり、魔術で封印しろ」

「わ、わかりました」


 エクラはここに集結した者の中では一段階以上実力が落ちる。エクラでは戦いにすらならないとラインは判断し、エクラも危険な雰囲気を感じ取ったようだ。

 だが緊張感が張り詰めるこの場に、突如として間延びした声が聞こえてきたのだ。


「ごめんなさい、少し準備に手間取って――なんだか寒くない?」

「来るな、アルフィ!」


 階段を下りてきたアルフィリースが声をかけてきたのだ。丁度その周囲まで冷気が到達し、そこに人型を浮かび上がらせる。人型はアルフィリースの三歩傍に立っていたのだ。



続く

次回投稿は、11/15(金)20:00です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >「なんだ、私はてっきり一夜の床を要求されるとばかり思っていたが」 ディオーレ様のこういうユーモアに溢れた所が好きです! ベッツが相手なので絵面がヤバいですけど(笑)
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