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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その427~統一武術大会ベスト16終了後④~

「かくいうレイファン殿は誰が勝つと予想するので?」

「私はアルフィリース・・・と言いたいところですが、見た印象で一番強いのはベッツ殿でしょうか。ディオーレ殿も倒してしまいましたし」

「ほう、渋い選択ですな」

「アルフィリースのこともあったので、大陸で高名な傭兵団の情報は一通り集めました。その中に当然ヴァンダル=ヴァルサス=ブラックホークの情報もありましたから。どれほど強いかは未知数でしたが、あそこまで見事な剣士が副団長とは。それならヴァルサス団長がどのくらい強いのかは、もう想像もつきませんね」

「ヴァルサスね・・・」


 ドライアンはかつてヴァルサスと戦ったことがある。獣将率いるグルーザルドの正規部隊の正面を突破してきた人間がいることだけでも驚きだったが、一太刀浴びせられたことが逆に嬉しくもあった。ただの人間がここまで戦えるのかと、感動もしたのだ。

 獣人よりも獣に近しい人間の戦士。思えば人間という種族の強さへの興味はラペンティではなく、あの瞬間に始まったのかもしれない。そういえば、その後を共に抜けてきた年配の剣士の面影がベッツにあった。あの時の剣士がああいう風に強くなるのかと、ドライアンはやや感慨深げに感じていた。

 かつて血が滾る戦いをしたことも思いを馳せていると、レイファンが不思議そうにのぞき込んできた。


「ドライアン王、いかがされましたか?」

「む、これは失礼。少し物思いにふけっておりましたな。それで、なんでしたかな?」

「ドライアン王の予測も伺ってもよろしいですか? 戦士としても一流である王の見方も気になりますわ」

「ふむ・・・」


 ドライアンは見てきた印象を正直に述べた。


「私の直感では、あのドルーとかいう青年ですな」

「流浪の傭兵とかいう、あの青年ですか?」

「ええ、あの青年がおそらく一番強い。前評判はどういうわけか高くありませんでしたが、今日見た印象では『馴染んで』おりましたな」

「馴染む? 馴染むとは?」


 レイファンに指摘されて、ドライアン自身も不思議そうな顔をしていた。


「なんとも説明できませんが、そう感じたのは事実です。印象ですから、言葉にするのが難しい。ただこの競技会において、まだ強さを発揮できるのはあの青年でしょう。他の者はあらかた強さの底を見せつつあるが、あの青年の底はまだ知れない。許可がでるのなら、私が戦ってみたいほどには興味がある」

「それほどまでにかっていらっしゃるとは。グルーザルドにも人間の傭兵を雇って部隊を作るというのも、悪くないのかもしれませんね」

「グルーザルドに人間の部隊を・・・? ハハハ、それは考えたことがありませんでしたな! なるほど、それも悪くない。人間の戦い方も学べるし、一石二鳥ですなぁ。ただ我々の生活に適応してもらえればよいのですが」

「ますますグルーザルドに隙がなくなりますわ」


 ミューゼもレイファンの提案が予想外だったのか面白そうに笑っていたが、仲が良さそうに談笑する三人の腹の内がそれぞれ全く違うことを考えていることを、外からは誰も伺い知ることはできなかった。


***


 その話題に上ったドルー青年は、独りアルネリア郊外で休息をとっていた。競技者用に用意された宿をとらず、彼は離れた場所に野営をしていた。食事は露店で買ったものを持ち込んでいたが、人が多くいる間で生活する気分にならなかったのである。

 人間が多いと気が抜けないこともあるが、生まれた時から自然の中で精霊や魔物に囲まれて暮らした期間の方が長い。そういう生活をしてきたドルーとしては、人のいるところよりも魔物がいるところの方が落ち着くのである。

 光が漏れないように、暗幕を作って見えないように焚火をする。いつもより力を使っているせいか妙に腹が空くので、多めに買い込んだ肉を温め直しているところである。その匂いを嗅ぎつけたのか、魔物が数体寄ってきた。魔物はどれもが手負いであり、殺気立っていた。


「・・・どうやら魔王征伐で散り散りになった連中か」

「ウルゥゥゥゥ」


 森オオカミの背後に、大型のシカ型の魔物がいた。この地方には珍しいが、大草原に生息している個体だったろうか。脚が速く、通常の馬などでは捕まえられない。長じれば他の魔物を率い、魔王となることもある個体だ。しかも魔術を使うこともある。


「ケリュネーか。珍しいな」


 ドルーが一瞥すると、魔物達は戦闘体勢に入った。襲い掛かろうと牙を剥いた瞬間、ドルーが殺気を飛ばすとケリュネーがはっとしたように殺気を解いた。


「よせ。お前は知能が高い分、俺がどのような存在かわかるはずだ。いかに脚が速かろうが関係ない。そこは既に俺の間合いだ」


 ドルーの言葉が通じたのか、あるいは殺気に驚いたのか。ケリュネーは一瞬で踵を返すと、ゆっくりと去っていった。敵意がもうないことの証だったのだろうか。

 他の森オオカミたちは驚いたのかしばし目の前の肉とケリュネーを見比べていたが、一体、また一体と大人しく引き上げていった。

 ドルーは小さくため息をつくと、肉が焼けるまで草笛でも吹くかと手にした草を口に当ててみる。だが出たのは音の外れた酷い音だけだった。


「む、これはひどい。そこまで詳細な再現はできないか。やはり不便は不便だな。お前もそう思うか?」


 ドルーは背後に現れた気配に向けて声をかける。



続く

次回投稿は、11/1(金)21:00です。

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