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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
1889/2685

戦争と平和、その426~統一武術大会ベスト16終了後③~

***


 統一武術大会ベスト16が終結した。観客は興奮の各試合の余韻に酔いしれ、また使節団もしばし自分の任務を忘れたように試合に見入っていた。深謀遠慮、冷静沈着として知られるミューゼですら少女のように目を輝かせる瞬間があったのだから、これで心動かなければ木石と間違われてもしょうのないほど、盛り上がった一日だった。

 明日の準々決勝の組み合わせは、天翔傭兵団団長アルフィリースvsブラックホーク2番隊隊長「氷刃」のルイ。流浪の女剣士ティタニアvs天翔傭兵団獣人セイト。天翔傭兵団副団長ラインvs黒衣の青年ドルー。ブラックホーク副団長ベッツvsバウンサーのバネッサの対戦となった。

 予想屋は我先にと大声で明日の試合の予想を叫び、観客はめいめい露店や屋台に繰り出して明日の試合を予想した。もちろん、諸侯の晩餐の席でもそれは同様だった。例年の統一武術大会で見ることのできないほど高度な戦い――しかも、ここまで残った者の中に貴族が一人もいないという(少なくとも貴族であることは知られていない者もいるが)、非常に稀有な大会となっていたからだ。

 貴族たちは誰に士官の声をかけるかで腹の内を探り合うことになり、この余計な仕事を誰も彼も楽しんでいる様だった。その宴席から、ミューゼが席を外してするりとテラスに出た。それを追うようにして、レイファンとドライアンが続く。

 レイファンは一人テラスでため息をつくミューゼに声をかけた。


「殿下も酔われましたか?」

「ええ。諸侯が気分よく飲んでいるものだから、つい杯を重ねてしまったわ。レイファン小女王は酔っていらっしゃらない?」

「私、お酒には強い方でして」

「そうなの。私はだめね、昔から。肝心な時でもすぐに酔っちゃって」


 かつてアルドリュースと良い雰囲気になった時に、酔いつぶれて一晩何もなかったなどということもあったなと、ふと少女に近しい時代のことを思い出したミューゼ。そんなことをこんな場所で思い出すこと自体、気が緩んでいる証拠だろう。それとも、アルドリュースの遺児ともいえる、アルフィリースが活躍しているからなのか。

 そんな心境など知るべくもなく、ドライアンが豪快に笑う。


「それにしても、イェーガーは大成功だな! 過去最大の統一武術大会で、8名中3名も残っている。新設の傭兵団として、快挙以外の何物でもないだろうよ」

「あら。そちらにいち早く人材交流を求めたドライアン王も、大した先見の明ではありませんこと?」

「護衛を頼んだレイファン小女王もな!」

「私は生憎と振られてしまいましたが」


 ミューゼが少しおどけて見せたので、場は和やかな雰囲気になった。三名はそれぞれ明日の戦いを予想する。


「誰が勝つと思いますか? いえ、優勝ですわね」

「それは自信が超一流の戦士であるドライアン王に聞くのがよいでしょう」

「俺か? 俺はそれなりに戦える戦士かもしれんが、人間同士の戦いはわからんことがいまだに多い。現に今日の試合も、予想は半々というところだった。むしろ戦いを知らないからこそ、先入観のない状態で人物評価ができると思うがね。どうだ、ミューゼ殿下?」

「そうですわね・・・」


 ミューゼはしばし悩んだ挙句、ティタニアを推した。


「私は長い黒髪のティタニアを推しますわ」

「ほぅ、なぜ?」

「あの女傑、まだ色々と隠し持っていそうですわ。全くとはいいませんが、まだ本気ではない。そうですわね、本気を出すのをためらっているかのような印象を持ちますわ」

「なるほど、それは同感だな」


 ドライアンは薄々とティタニアの正体について勘付いているが、まだ確信を持っていない。黒の魔術士という集団の情報を持っているミューゼとレイファンにしろ、それは同様だ。アルネリアもアルフィリースも、まだそこまでの情報を彼らに伝えていなかった。

 ミューゼは続ける。


「特に気になるのがあの目・・・全てを一人で抱えて一人で絶望しているかのような目が、私は気になりますわ。人間であれば皆それなりに苦労や挫折を味わうでしょうし、ひどい生い立ちをすることもあるでしょうが、あの目は一体――」

「ふむ――確かに殿下の言わんとすることはわかるな。だが戦士の端くれとして俺も一つ言わせてもらえば、あの女剣士はまだ何も諦めてはいない。絶望しつつも、まだ一縷の希望を持っているのだ。そうでなければあれほどの剣を振るうことはできないだろう」

「希望ですか。それはいかような?」

「そこまでわかるほど万能ではない。あくまで直感だ。ひょっとすると、今回この大会に参加したことと、何か関係があるのかもしれないな」

「ふむ、あれほどの剣士でしたら、大会後引く手あまたとなることでしょう。気になるようなら今のうちに接触しておいてはいかがでしょうか?」


 レイファンの提案に、ミューゼがふふ、と笑みを作っていた。


「それもよいですわね。でも私には私で、繋がりがありますもので」

「その繋がりとやらは教えてくださらないのですか?」

「あら、その方が面白くなくて? もし争奪戦になっても、恨まないでくださいませ」

「それはもちろん」


 レイファンとミューゼの間で一瞬火花が散ったようにドライアンは錯覚したが、女との戦いにだけは勝てないと知っているドライアンは知らぬふりを決め込んで話を逸らした。



続く

次回投稿は、10/30(水)21:00です。連日投稿になります。

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