戦争と平和、その424~統一武術大会ベスト16終了後①~
「お見事」
「爺さん、強すぎっす」
ベッツが引き上げると、ルイとレクサスが賞賛の言葉で出迎えた。ベッツはちらりとそちらを見ると、レクサスが上げた手に合わせてハイタッチをし、ルイもそれに続こうとすると、すかさず胸を揉もうとして殴られていた。
「いてぇ! いーじゃねぇかよ、会心の勝利だぜ? 胸くらい差し出せや!」
「爺さん・・・台無しっす」
「先程の言葉を取り消しておこう。やはりただのスケベジジイか」
ルイが拳にはー、と息を吹きかけてとどめを刺そうとする。ベッツは慌ててレクサスを盾にして逃げ回った。
呆れるレクサスだが、ベッツの実力は本物である。素直に質問があった。
「爺さん、一つ質問っす。それだけ強けりゃ、ヴァルサス団長より正直強いっしょ? なんで団長にならなかったんですか? ブラックホークは再建した傭兵団です、その機会なんていくらでもあったはず。アレクサンドリアの本家だって、さすがに黙るでしょ?」
「めんどくせぇことは俺は御免だ」
「じいさーん」
「というのは半分冗談だがな。確かに俺はヴァルサスより強い。ヴァルサスがまだひよっこの頃から知っているが、稽古じゃ一本も取られたことはねぇよ」
「んじゃなんで」
「剣の質が違う」
ベッツはふーと息を吐いた。ブラックホークのコートを外すと、下の服は汗でぐっしょりだった。先ほどの勝負が尋常ではなかったことを物語っている。圧勝に見えたのは、何もさせないために先手を打ち続けたから。ベッツがこの日のために重ねた頭の中の何千何万回という戦いを、他の人間が知ることは決してない。
「俺とお前は人間相手の剣だ。お前は魔物も倒しちゃいるが、基本的に人間相手の斬り合いを想定して鍛練をしてきた。俺も同じだ。人間の斬り合いならいけるが、俺の剣は魔物を切るようには本来できていねぇ。
だがヴァルサスは別だ。ヴァルサスは人間以外を斬るために生まれてきたような男だ。人間相手の戦いなら不覚も取ろうが、魔物相手の戦いなら魔王を複数相手取っても勝っちまう男だ。あれは俺には真似できん。ああいうのは訓練でどうにかなる範囲のものじゃないからな。
ルイ。お前はヴァルサス寄りの人間だ、わかるだろう? ローマンズランドを離れたのもそれが原因じゃないか?」
「それは――」
ベッツに指摘されてルイは反論できなかった。ローマンズランドでの地位、待遇、人間関係の多くに強い不満はなかった。実家とは、特に父や一部上官とは諍いがあったり、あるいはアマリナの件に不満はあったが、それなりに好きにやらせてもらっていた。それでも満たされなかったのは、やはりベッツの言う通りなのだろうか。
ルイは自分でも考えたことのない可能性を指摘されて戸惑っていた。
「ま、それはワシの知ったこっちゃねぇがな。ブラックホークにいる連中なんて、どうせ世に馴染めなかったはみ出し者ばかりだ」
「そりゃあそうだが、そんな身も蓋もねぇ言い方ってないっすよ」
「だが、だからこそ見えることもあるんだぜ。レクサス、ルイ。お前ら、イェーガーとはそれなりに顔を合わせたことがあるって言ってたよな?」
「ええ、まぁ何度か、くらいかもしれませんけど。姐さんはアルフィリース団長と親し気に話しますよね」
「親しいというか、親近感があるという程度だが」
レクサスとルイのその反応を見て、ベッツが指を鳴らした。
「でかした! ちょいと頼みたいことがあるんだがな」
「? なんでしょう?」
ベッツの頼みに、ルイとレクサスは顔を見合わせたのである。
続く
次回投稿は、10/25(金)21:00です。