戦争と平和、その418~統一武術大会ベスト16、ロッハvsセイト⑧~
「あの若造、どうしたものかな。一言釘ぐらいさしておくべきか」
「王様、胸の内が漏れていますわ」
「これは失礼、殿下。どうにも根が正直者でね」
ドライアンのぶっきらぼうな言い方に、くすくすと笑って同意したミューゼである。
一方、会場の他の場所ではゴーラがシャイアを連れて試合を観戦していた。シャイアはこの結果に目を丸くしていたが、それはゴーラも同じだった。
「なるほど、偶然とは怖いものだ」
「お師匠様、さきほどの獣将殿の攻撃がずれたように見えましたが、たまたまでしょうか? 一瞬セイト殿の動きが空中で止まったように見えました」
「たまたまではないよ、シャイア。本能がそうさせたかもしれないが、遠当ての原理は実は応用がきく技なのだ。『空歩』とワシは呼んでいるが、以前は壁のように空気を蹴ることができる者はいたのだ。ワシもできるが、せいぜい2回が限界だがね。あのセイトという若者が放ったのはその原型だな。
だがそれだけではない。奴は『浸透勁』までも使いおった」
「浸透勁? ああ、あの足での一撃が――」
「足で放った遠当てが偶然にも筋肉の鎧という壁を突破し、微かに内臓に届いていた、といえばわかりやすいかね。その痛みが大技で筋肉を捻ったことにより少しだけ出たのだ。
シャイアの得意技でもあるだろうから、効果はわかるね?」
「なるほど。私は手でしか使えませんが、脚でも可能なのですね」
「うむ、原則は遠当てに近いものがあるからな」
ゴーラの説明にシャイアが納得した。
「お師匠様、私はまだまだ強くなれますか?」
「それがわかっているのならよろしい。この武術大会に参加させた意義もあろうというものだ。正直、バスケス程度にお前の人生を賭ける価値はないと思っていた。そのバスケスも死んだらしいし、お前は自由なのだ。これからは自らが信じるもののために、研鑽を積みなさい。
もちろん、ここで戦いを止めて市井の娘に戻るのも一つの選択だ。お前の好きにするんだよ」
ゴーラの優しく慈愛に満ちた物言いに、シャイアは無言で手を取り返して感謝した。そして礼をすると、一つの提案をした。
「実はイェーガーに参加してみようと思うのです」
「イェーガーに? なぜ」
「団長殿からお誘いを受けました。あそこなら訓練相手には事欠かないでしょうし、傭兵として依頼も様々です。今までは戦いのための訓練しかしていませんでしたが、希望があれば商人のよう下働きからの研鑽を積むこともできるでそうで、薬師や猟師のように専門職の依頼を優先しても受けられるようです。また一般教養に関しても授業があるそうですし、希望があればグローリアへの入学も可能だとか。学術都市メイヤーへの留学もできるそうです。
私は武術の修業を積みながら、もう少し広い世界のことを知るべきだと思いました。女の一人身でも自活に困らなそうですし、よい機会かと思います」
「うむ、一理あるだろう。あのアルフィリースなる娘もイェーガーなる組織もまだまだ不安定だが、これから大いに楽しみではある。お前がそう決めたのなら、自由にしなさい」
「はい! では早速!」
シャイアは深くお辞儀をすると、駆けだしてしまった。今からイェーガーに入団届を出しに行くのだろうが、本音では参加したくてしょうがなかったのだろう。
ゴーラはその後ろ姿を微笑ましく見送りながらも、せっかちなシャイアにため息をついた。
「やれやれ、次の試合くらい見てから行けばよいのにのぅ。人間の試合としては極みの一つであろう試合じゃのに。シャイアはちょっとそそっかしいところがあるから、上手くイェーガーが手綱を握ってくれればいいのじゃがの」
ゴーラは苦笑いをして次の試合のことを考えようとして、会場の外の空気がどうにも騒がしいことに気付いた。この会場の中の熱気で探りにくいが、どうにも空気がおかしな感じがする。外に張り詰める空気も、迫る焦燥感も何か危険が迫っている気がしてしょうがない。
一度探りに出るべきかと考えたところ、次の試合が早々と宣言されたのである。
***
「もう俺の出番かよ。まだ控室に来たばかりだってのによ」
「さっきはまだ呼ばれねぇのかって愚痴ってたじゃねぇっすか、爺さん。腰が痛いとかなんとか」
「こちとらジジイなんだよ、手加減してくれよ」
「それ、相手に言ってくれっす」
文句を散々言いながらレクサスと控室にいるのは、ブラックホークの副団長ベッツである。仮面の剣士として参加し道化師のように戦っていたベッツだが、レクサスと戦ったあたりから徐々に本気を出し始めていた。
そして今や仮面はここに持ってきていない。レクサスはベッツが本気で戦うことを察し、ついてきたのである。何より、レクサス自身がベッツの本気を見たかった。
続く
次回投稿は、10/13(日)22:00です。




