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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第一章~平穏が終わる時~
188/2685

それぞれの選択、その10~さらなる陰謀~

***


 その頃、アルフィリースの前から撤退を余儀なくされたライフレスはどうしていたか。ライフレスは他の仲間と共に、既に彼らの工房の一つに戻っている。新たな拠点とすべく本日から稼働させた新型の工房に、全員で集合していた。

 だがライフレスは腹の虫が治まらず、工房の概要を説明するアノーマリーの言葉も耳に入らない。そしてついに我慢の限界を超えた彼は、オーランゼブルに喰ってかかる。


「お師匠様!」

「なんだ、ライフレス」

「やはり納得がいきません。なぜあの女を放っておくのです!?」

「ふむ、その事か・・・まあお主には理由を後で話してやろう。それより、今は全員に仕事を伝えねばならん。皆の者、揃っているか?」

「2人ほどいません。カラミティと、例の少年が」


 ヒドゥンがすかさず答える。その言葉に、呆れかえる一同。


「またかよ~カラミティはしょうがないけど、あの新米サボりすぎだろ?」

「そうですね・・・彼は一体何をしているのでしょうか?」

「あら、さっきは建物の上から私達を見降ろしてたわ」

「うっわ、生意気~」

「キミよりマシだよ、ドゥーム」

「ちぇ」


 アノーマリーの一言にドゥームがむくれる。


「ところでお師匠様」


 アノーマリーが口を開く。


「オーランゼブルでよい。予定より少し早いが、真竜と邂逅してしまった。正体が露見した以上、もはや我々が名前と存在を隠す必要もあるまい」

「ではオーランゼブル様、聞きますが。カラミティとあの少年は何者でしょう? あの二人に関しては、ボクは知らないもので。後の仲間はおおよその情報を得ていますが」

「カラミティは私の知り合いよん」


 だがオーランゼブルが答えるより早く、ブラディマリアが答えた。


「アタシとドラグレオ、カラミティは南の大陸出身の腐れ縁。南の大陸は、私達でほぼ3分割して治めてたのよ」

「治めてたっていうか、他の連中がいなくなるまで徹底的に殺し合ったなぁ?」

「うっさいわねぇ。南の大陸の三すくみ、その首魁がまるごとお仲間になってるわ。頼りにしてほしいものねぇ」

「そりゃあまた・・・」

「あとは皆、この大陸の出身よねぇ?」


 ブラディマリアが淫靡な眼差しで全員を見渡す。とても少女がする目つきには思えないほど艶めかしい眼差し。その目線に耐えかねるように、全員がそれぞれ顔を見合わせた。その様子を面白いと思ったのか、ブラディマリアがくすりと笑うと、さらに話を続けた。


「東の大陸出身の者は不思議な事に誰もいないのね、オーランゼブル?」

「うむ。あそこは我々の仲間に引き入れるよりも、放っておいた方が混沌としていて面白いと思ったのだがな。一人の人間の出現により、完全に目論見が壊れた」

「その人物とは?」

「浄儀白楽だ」


 ヒドゥンの問いにオーランゼブルが答える。


「東の大陸は、人間が西側を支配しており、東側は魔物、特に『鬼族』と言われる者達が支配している。近年までは鬼族がずっと優勢で、大陸の8割を鬼族が支配していた。いずれは鬼族の完全勝利で終わると思われたのだが、30年ほど前、一人の天才が討魔協会に現れた」

「それが浄儀白楽だと」

「そうだ。奴が戦い出してからは、討魔協会は負けなしだ。実際にここ30年で人間と鬼族の勢力図は互角になっている。さらに奴は強引ともいえる手法で討魔協会をまとめ上げ、一気に反抗作戦を開始した。そして教会の長となってからは、鬼族の10の王の内、実に3つをここ数年で討ち取った。今や鬼どもが怯えて、ついには同盟を組む始末だ。そうなると、東の大陸では近々一大決戦が行われる可能性がある。この大陸では大魔王6体を滅ぼすのに100年以上かかったが、このままだと奴の存命中に東側は統一されるだろうな」

「へー、そんなに強いんだぁ。会ってみたいわね、その坊やに」


 ブラディマリアが楽しそうに笑う。その彼女にオーランゼブルが語りかける。


「では会ってみるか?」

「あら、いいの?」

「むしろ貴様でないと話が成立すまい。耳を貸せ」


 オーランゼブルがブラディマリアに耳打ちする。その話を聞くと、ブラディマリアがニヤリとした。


「それは面白そうね。じゃあアタシは東の大陸に向かうわ。上手くいったら一度帰って来た方がいいかしら? それともそのまま東に?」

「とりあえず東にいろ。それからのことはまた追って話そう」

「了解~じゃあ善は急げよね。早速行ってくるわ」


 ブラディマリアは手をひらひらと振りながらその場を後にする。その姿が見えなくなると、オーランゼブルはくるりと全員の方を振り返る。


「よいか、皆の者。我々はこれから世界の真実の解放のために、その行動を本格化する。とはいえ、真竜とは元来もっと行動を表面化させてから交渉を行う予定だった。まだ彼らとは事を構えたくない・・・そのため、今少し我々は表立って行動するのを控えなくてはならない」


 全員がその言葉を黙って聞いている。


「なので今ブラディマリアにも伝えたが、工房は必要数が完成した以上、あとは実行に移すだけでもある。その前にやるべきことがいくつかあるがな。まずはドゥーム」

「はいは~い」


 ドゥームがずいと前に出る。


「お前には大地の汚染を引き続き任せる」

「魔王を生み出す土壌がまだ必要ですか?」

「ああ、まだ必要だ。悪霊の貴様が暴れれば、それだけで大地は汚される。存分にやるがよい」

「ははっ、こりゃ楽しそうだ! んじゃ早速!」


 言うが早いか、ドゥームは靄となって消えた。


「次に、ティタニア、サイレンス」

「「はい」」

「2人で例の物を奪取せよ。回収し次第、武器を持ってティタニアはここに帰還。ブラディマリア次第だが、別の案件を任せることになるだろう。サイレンスは今まで通りの任務に戻るがよい。サイレンスが進めておる件は、例の時節に間に合いそうか?」

「8割りがた問題ありませんでしたが、今回のドゥームの襲撃でより確実になるでしょう」

「うむ、では予定通り行動せよ。行け」

「「はっ」」


 そしてサイレンスとティタニアも姿を消した。


「次にドラグレオ」

「ああん?」


 ドラグレオの答えは面倒くさそうだった。その様子を見てオーランゼブルも苦笑する。


「暴れ足りんか?」

「当たり前だ! もっと歯ごたえがあるって俺は聞いてたんだが!?」

「心配せずとも、近いうちに思いっきり暴れさせてやろう。ブラディマリアが上手くいこうがいかまいがな。だから今は寝ておけ、来たるべき時のために」

「・・・いいだろう、約束だぜ?」

「心配するな。貴様の力を存分に振るわせてやる」

「じゃあちっと寝てくらぁ。一番奥の部屋を借りるぜ」


 そうしてドラグレオは盛大な欠伸あくびと共に去って行った。


「アノーマリー」

「はいはい」

「工房は完成して稼働にも問題はないと聞いたが、正直素材の方はどうだ?」

「ああ、そっちも問題なさそうです。カラミティとサイレンスができる限り協力してくれるそうなので、なんとかなるかと。今の研究も順調なので、新しい研究に着手しようかと思っています」

「ほほう、ではヘカトンケイルと貴様が名付けた連中は?」


 その問いにアノーマリーがニヤリとする。


「もうほぼ完成です。知能が失われるのが難点でしたが、その問題も既に解決策を見つけました。ただこの方法だとやっぱり素材数に難点がでるので、現在中原で稼働させてるヘカトンケイルを第2世代と表現した時、第3世代以降は少数精鋭になるかと。そうするとどうしても手数が減りますが、現在、数を補うための研究を行っています。既に中原では実験段階の物を投入したのですが、成果は上々。なので今後の研究は、個体のバリエーションを増やすことに関して研究を進めようかと」

「必要な物は何かあるか?」

「できれば南の大陸の生物サンプルが欲しいですね。あと東のその鬼族とやらも」

「よかろう。それは順次回収させよう。では研究に着手せよ」

「はいはい」


 そうしてアノーマリーはのそのそと出て行った。


「ヒドゥン、貴様の方はどうだ?」

「ほぼ主要たりえる手は打ち終えています。それがいかほどの効果を持つかはわかりませんが、今後は再びアレクサンドリアに赴く予定で」

「あの国は一度手を打ったろう?」

「そうなのですが、予想外の事態が起きておりました。それにあの国は尚武の国。武人に限れば人材豊富ですし、現在でも辺境のせいで戦に事欠かないため、放っておいても有能な人材が生まれます。少しずつ国力をいでいたのですが、何よりあの精霊騎士だけはそうそう片付けることができず」

「確か土の精霊騎士だったな」


 オーランゼブルの問いに、無言で頷くヒドゥン。


「戦って勝てぬとも思いませんが、仕留め損ねると我々の存在を気取られます」

「打つ手はあるか?」

「はい。どれほど彼女が優秀でも、周囲に愚か者がいるのが組織というもの。既に突破口になりそうな者は見つけています」

「うむ、期待している」

「もったいなきお言葉。では私もこれで」


 そうしてヒドゥンはその場から姿を消した。残ったのはライフレス。


「さてと、ライフレス。貴様には・・・」

「その前に、俺の問いに答えてもらいましょう。なぜアルフィリースをあの場で見逃しました?」


 ライフレスは、今度こそごまかされないぞといった目つきでオーランゼブルを睨みつける。


「あの女には何があるのです?」

「そのことか。お主は何を心配しているのだ?」

「・・・アルフィリースはまだまだ強くなる。それこそ我々に届くほどに。今、殺しておかなければきっと後悔するでしょう。俺としては強い者と戦えるのは全く構わないが、我々の敵となるのは計画の破綻をきたすのでは?」


 だがその質問を聞いて、くくく、と忍び笑いをオーランゼブルはこぼし始めた。その様子を不審そうに見るライフレス。


「・・・何がおかしい?」

「いや、あの娘が我々の敵になることはありえない。ありえないのだよ、ライフレス。そしてあの娘は決して私に勝てないのだ」

「なぜそう言い切れる?」


 ライフレスが敵でも見るような眼で、オーランゼブルを見る。そのライフレスに、子どもに物を教えるような目で諭すオーランゼブル。



続く


次回投稿は、4/23(土)12:00です。

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