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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
1863/2685

戦争と平和、その400~統一武術大会ベスト16幕間、ミルネーの暴走②~

「なんだ、あれは・・・?」


 ミルネーの経験にない、飛竜の軍団が頭上に現れた。その数およそ三百。率いるはローマンズランド、スウェンドル王である。もちろんそれがどういう意味を示すかは、教書で知っている。どの戦術書にも、ローマンズランドの竜騎士団に勝利するための方法は載っていない。

 一際大きな飛竜に乗った王は、魔物達を眼下に見下ろしながら悠然と構えていた。その隣には第二王女であるアンネクローゼが控えている。


「王よ、下知を」

「・・・任せる」

「はっ!?」

「俺の代わりに率いてみよ、アンネクローゼ。どのくらい軍を率いられるようになったか、採点してやろう」


 スウェンドルがニヤリとしたので、アンネクローゼは少しむっとしながらも即座に命令を出した。


「第一部隊、第二部隊、左右に展開! 火箭にて掃射後、第三陣、四陣にて偃月陣えんげつじんを仕掛ける。総員準備!」


 アンネクローゼの号令一下、散開していた竜騎士たちが一斉に動き始めた。竜騎士団の戦い方を見たことのある軍隊は非常に少ない。多くの国が空への航空戦力への対抗策を持たず、ローマンズランドの他には、フリーデリンデの天馬騎士団が存在するくらいだ。その飛竜と天馬にしても、戦い方は全く異なる。

 天馬は元来、とても脆い生き物である。羽に矢を受ければ容易に飛べなくなるし、実戦力としてよりは、荷駄隊や偵察などを請け負うことがほとんどだった。一部隊長格に強力な戦士がいるが、それは例外。利点としては、餌が少なくて済み持久力に長けるため長距離運用に向いており、さらに小回りがきいて女性が扱いやすいことであろうか。また羽音がそれほどしないため隠密も可能であり、地上では普通の馬のように使えるため荒天にも強い。また複数の属性の加護を持つため、魔術の影響を受けにくい。

 対して飛竜は頑強な鱗を持ち、矢などはほとんど通さない。羽の付け根などを上手く狙わない限り、少々の矢を受けても飛行に影響は出ない。天馬に比べると小回りがきかないが、さながら空飛ぶ要塞に例えられるほどの耐久力を誇っていた。一騎の飛竜が百の騎馬に匹敵すると言われ、上空からの投擲、火のブレスなど、偶然に遭遇すれば並の軍隊は蹂躙されるだけとなる。

 欠点があるとすれば、火のブレスは一日に回数制限があり、無限に吐けるわけではなく、せいぜい一体が3-4回というところだ。また火のブレスを使う個体は持久力に難があり、世間で移動用に使われる飛竜に対して、数刻で飛行不可能となる。実は火のブレスを吐ける飛竜は少なく、軍団の五分の一程度だということ。また飛翔時には餌が大量に必要であり、兵站の点からも長期遠征には向いていないという理由がある。

 これらの欠点を、他国は知ることがほとんどない。ローマンズランドは竜騎士団を出して戦った相手を必ず壊滅させてきたし、自国の秘密を漏らす者は極刑である。自国の機密を持つ者、竜騎士などは特に厳重に管理・監視され、領外に出る時は必ず申請が必要であり、監視が付けられた。たとえばブラックホークのルイとて、ブラックホークに所属していなければ、処刑されていてもおかしくはない。

 そうして構成されたローマンズランドの竜騎士団の戦いを見るのは、誰しもが初めてだった。ローマンズランド自体遠征での戦闘は久しぶりで竜騎士には緊張があったが、それを感じさせない練度を見せる。

 竜の髭のように伸びた一列の軍団が、魔物達の左右に展開する。そして上空から包むように並んだかと思うと、くるりと方向転換して互いの方向に交差するように突撃した。


「放て!」


 竜騎士たちが鞭を入れると、飛竜たちが滑空しながら一斉に火のブレスを吐き出した。上空に攻撃手段を持たず、また防御手段をもたない魔物たちは、なすすべもなく高温のブレスに焼かれた。急に周囲が明るくなるほどの炎の量に、周辺騎士団の騎士たちも思わず手で目を覆っていた。

 魔物の群れの中央付近は、一撃で壊滅状態となった。後には炭化した魔物の死骸が焼け落ちているだけとなり、実に一度の攻撃で半数の魔物が死んだのだ。


「まあまあだな」

「は! 速度に差が出たため、火箭が乱れました。申し訳ありません」

「久々の実戦であればこのようなものだろう。ここに連れてきたのは熟練の兵士たちではないしな。実戦が初めての兵士が混ざってこれならば上々としよう」


 スウェンドルの思わぬ高評価に、アンネクローゼはこそばゆいような気持ちになった。若かりし頃は軍事で天才的と言われた王が直接率いた精鋭は国内に残している。

 だが次の言葉はアンネクローゼにも予想外だった。


「では一番槍は俺がいただこうか」

「はっ!?」

「偃月の陣の組み方が遅いのは減点だ。火箭掃射後、間髪入れず突貫するのが本来である。火箭掃射の結果など確認せずともよい。相手がわけもわからんうちに追い込み、最初の炎の中に追いやるくらいが理想的だ。

 この程度の相手であれば、鶴翼の陣から螺旋落としの陣で殲滅できる。素早い用兵を心がけよ。アレクサンドリアやアルネリアの神殿騎士団が相手なら、対応されるぞ?」

「いや、しかし」


 それらと戦う予定はないのでは――と言おうとして、スウェンドルが飛竜を滑るように動かした。



続く

次回更新は、9/7(土)7:00です。

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