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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
1859/2685

戦争と平和、その396~統一武術大会ベスト16、レーベンスタインvsライン①~

***


「よう、邪魔するぜ大将」

「・・・」


 統一武術大会ベスト16、6試合目直前のレーベンスタインの控室に、突如としてラインが訪れていた。試合進行の関係で――正確には、アルネリア周辺で沸き上がった魔王軍への対処とティタニアの捜索のため、試合間隔が短縮されることになったのだが――それにも文句を言わずレーベンスタインは従っていた。不測の事態など、戦場ではいつでも訪れることだからである。

 だが、まさか対戦相手であるラインが直接控室を訪れてくるとは思わなかった。ラインが大会の警備責任者などを委託されているせいもあり、レーベンスタインはここまでラインと何度か話す機会を得ていた。そのため顔見知り程度ではあるものの、対戦相手が相手の控室に現れるのは、予想外というよりはマナー違反である。

 さしも冷静なレーベンスタインも嫌悪感を隠さぬ冷ややかな視線をラインに向けたが、ラインは剣を入り口にたてかけることで、敵意がないことをまずは示していた。


「そうおっかねぇ顔するなって、大陸最高の騎士様に挨拶に来ただけさ。最高の場所で最高の騎士に挑む。こんな機会は滅多に得られるもんじゃねぇ。傭兵とはいえ腕が鳴るもんでね」

「・・・貴公も傭兵とはいえ、戦いに身を置く者であろう。戦いの前に相手の控室を訪れることは、礼儀に反するとは思わないかね?」

「だが規則違反じゃねぇ。普通は警備の兵士に止められるが、俺は警備責任者だからな。俺しかできねぇ裏技ってやつだ」


 ラインはわざとらしくウィンクなどをして見せたが、レーベンスタインの対応が軟化することはない。


「して、何用であるか? まさかただ世間話をしにきたわけではあるまい?」

「いやぁ、世間話みてぇなもんだな。戦いが終わった後じゃ、あんたは俺のことなんざ興味もなくなるだろうから、話をするならこの機会しかねぇと思ってよ」

「ならば今話すことは何もない。去るがよかろう」

「そう邪見にするなよ。実は俺はあんたと戦うのは初めてじゃねぇんだ。噂じゃ、あんたは一度戦った相手の剣筋と顔を二度と忘れねぇとか。俺のことも覚えてくれているかな?」

「・・・?」


 レーベンスタインは問われて記憶を辿ったが、思い当たる顔が浮かんでこない。そして残念そうに首を振った。


「すまぬが、どこで手合せをしただろうか。どうやら私の記憶も評判程には当てにならぬらしい」

「無理もねぇか、俺も小僧だったしな。十年以上前、アレクサンドリアとベインゲル王国の交流戦の時さ。あの時アレクサンドリアの先輩騎士が次々と倒れて、交流戦はあんた一人にアレクサンドリアが煮え湯を飲まされた。その後あんたの腕前を経験させてもらえと、若手騎士もアンタと手合せする機会をもらったのさ。

 俺はその時まだ従騎士にもなるかならないかだったが、最後に手合せをしてもらったというわけだ。まぁ、取るに足らねぇ小僧のことなんざ覚えてねぇわな」

「! なるほど、あの時の少年か。思い出したぞ? そうか、それほど年月が経ったのか・・・」


 レーベンスタインはラインのことを思い出したのか、昔を懐かしむように頷いていた。対するラインはニヤリと笑って、話が通じたことを喜ぶ。


「思い出してくれたかい?」

「ああ、思い出したとも。あの時の交流会はレイドリンド家もディオーレ殿もいなかったから逆に印象深かったのだ。辺境での戦の都合もあったろうが、手練れは戦場に駆り出されてアレクサンドリアは若手の騎士がほとんどだった。

 その中に一人、将来有望な若者がいたことを思い出したよ。こちらのことを食い入るように見ている、一番身分の低そうな年若い少年のことをな。あの場で最も生きた目をしていたのが貴殿だったのか」

「・・・そんなつもりはなかったんだがね。大陸最高の騎士の剣技を見れる機会を逃したくはないと思っていたよ」

「いや、謙遜は不要だ。多くの者が萎縮する中、凶暴性を隠さぬその視線をよく覚えている。まさかその若者が、今こうして傭兵に身をやつして目の前にいるとは。君の十数年に何があったのだ? いずれは正規の交流試合や、下手をすれば戦場で共に戦うこともあるだろうと思っていたのだがね」


 レーベンスタインの言葉に、ラインは寂しそうに笑って踵を返した。


「まぁ語り尽くせないくらい、色々とあったのさ。その物語は、また酒でも飲む機会があったら聞いてくれや。今は俺のことを覚えてくれていただけで十分さ」

「わかった。任務がない時は、貴公を酒に誘わせていただこう。ぜひともこの期間中に機会が得られればよいのだが」

「すぐにお誘いいただけるとは、恐縮の極みだね。まったく、最高の騎士様は生真面目なんだからよ」


 ラインはレーベンスタインが自分を覚えていたことに歓喜し、押しかけた陳謝と礼を述べて控室をあとにした。そして目論見が上手くいったと口の端を歪めて笑いながら、自らの控室に向かって行ったのである。



続く

次回投稿は、8/30(金)8:00です。

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