表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
1855/2685

戦争と平和、その392~統一武術大会ベスト16幕間、ローマンズランド②~

「王女殿下、力のある剣は所有者を選びます。力ある武器程所有者を選定する。もし気に入らぬ者がその柄を握れば、それだけで燃やし尽くすこともあるのです」

「それではうかつに触れることも適わぬのか?」

「ですから、何百年も所有者が出ていないのです。記録ではレーヴァンティンが使用されたのは大戦期が最後。その時の所有者はたった一振りするだけで命を奪われましたが、代わりに魔王の拠点ごと軍勢を一撃でほふったそうです。

 一振りするだけでその覚悟が必要な魔剣。正当な所有者が出ていれば、大陸の勢力図は塗り替えられているでしょう」

「そんなものを賞品として、いかがする?」

「どうもせんさ。どうせ誰も所有できないのだからな」


 スウェンドルがふん、と鼻で笑った。


「噂では、かつてのアルネリアの聖女が手にすることはできたものの、そこまでが限界だったそうだ。手にするだけで手は爛れ、持ち運ぶのが精一杯だったと。常時回復魔術を発動した状態で、ようやく持ち運ぶのを可能にしたそうだ。回復魔術に特化したアルネリアならではの力技だな。

 仮に本物が他人の手に渡ろうとしても、運ぶことすら適わんだろうよ。結局レーヴァンティンはアルネリアが所有し、形だけの権利が委譲される。それだけのことさ。

 だからあれは囮なのだろう。よからぬことを企む者を、それこそ一斉に炙り出すためのな」

「なるほど・・・しかし気になりますね」

「何がだ?」

「力ある剣を所有するための資格です。それだけ所有者を選定するのであれば、意志があるのでしょうか? 剣そのものに聞いてみたいものです」


 アンネクローゼのその言葉を聞き、スウェンドルとオルロワージュが互いに目を驚いたように合わせ、そして笑った。アンネクローゼが父スウェンドルの笑い声を聞いたのはいつぶりだったろうか。

 スウェンドルは膝を叩いて頷いていた。


「魔剣そのものに資格を聞くのか! なるほど、その発想はなかったな!」

「な、何かおかしなことを申しましたでしょうか?」

「だ、だって王女殿下。そんなことが可能なら、今まで誰かが資格を得ているでしょう?」

「しかし、何事もやってみないことにはだな」


 オルロワージュの指摘にもアンネクローゼはめげなかったが、スウェンドルは意外にもアンネクローゼを擁護した。


「いや、貴様が全く正しい。確かに何事もやってみねばわからぬことがある。やはり貴様をここに連れて来て正解だな」

「はっ?」

「その考え方を大事にせよ、アンネクローゼ。我らが初代も、魔物の軍勢に逆らっても無駄だという概念を覆した者ぞ。誰もが不可能だと思うこと、諦めてしまうことを突き通す者こそが、至る者となるのだ。至れなければただの大馬鹿だがな。貴様はどちらだ?」

「無論、至る者でありたいと考えますが――」


 言い澱むアンネクローゼの表情を、スウェンドルが観察する。


「が?」

「私は己の矮小さを知っております。至るとしたら、誰かの力添えを得てのことでしょう」

「なるほど、それも悪くない。選択肢は多いほど良いのだからな。さて、非常に気分が良くなってきた。オルロワージュ、ここを任せてよいか?」

「はい。王はどちらへ?」

「郊外でうるさくしている蠅どもを叩き潰す手助けをしてこよう。そろそろ我らが麾下の竜騎士共も鈍っていよう。多少動かしてやらねば、何のための軍勢かと言われるだろう。

 アルネリアにも多少の恩を売っておかねばな」


 スウェンドルが外套を翻して席を立つ。オルロワージュはそれを起立し、深く礼をして送り出した。


「いってらっしゃいませ、我が君」

「王よ、私は?」

「馬鹿なことを申すな、貴様がいなくて指揮官が足りると思うか? 俺と共に軍の指揮に加われ」

「は、はい!」


 スウェンドルの提案に、アンネクローゼは年甲斐もなく心躍っていた。本来は初代王の再来と言われるほどの実力を持つ最高位竜騎士ドラゴンマスターであり、父であり王でもあるスウェンドルとの出陣。かつて夢見た光景が、現実のものとなったのだ。アンネクローゼは父王の暴虐な行動も、今までの諍いも忘れて王の後を追っていたのである。


***


「妙ですね」

「何が妙なの、レイファン?」

「賞品であるレーヴァンティンを、我々に何の断りもなく衆目に晒すとは。諸侯への配慮をなくしたそのような行為を、この時期にアルネリアがするでしょうか」

「それもそうね」


 レーヴァンティンの登場に驚いたのはレイファンたちも同様だった。だがアルフィリースには別の懸念事項があったため、今はそれどころではなかった。

 アルフィリースはパンドラを放ち、会場内を探らせていた。レーヴァンティンこそがパンドラの目的でもあったし、アルフィリースとしてもレーヴァンティンなる剣がいかなるものかを知る必要があると考えたからだ。時間があればレーヴァンティンの気配を探りたいというパンドラの申し出を、断ることはできなかった。

 だが会場内を散策し、アルフィリースのイヤリングに戻ったパンドラが伝えたのは別の事実だった。



続く

次回投稿は、8/22(木)9:00です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ