戦争と平和、その391~統一武術大会ベスト16幕間、ローマンズランド①~
どうやら会場では本部から説明があったようだが、ベッツとレクサスは話に夢中で聞いていなかったので、観衆が群がってきたことに驚いて慌てて下がった。
「こいつは・・・」
「うーむ?」
レーヴァンティンは大剣だった。人の背丈にも近い大きさの剣。陽光を受けて輝くその剣の美しさに、多くの観衆がため息を漏らした。レーヴァンティンの周囲には騎士たちが居並び、さらに結界で保護して観衆が触れられないようにしていた。
ベッツとレクサスは押し寄せる観衆をかいくぐるようにして抜け出し、遠目にその剣を眺めた。
「どうよ、レクサス?」
「どうって、何がです?」
「あれ、欲しくねぇか?」
「パス。俺の武器はせいぜい4から5尺まで。小剣よりちょい長い程度が一番扱いやすいっす。あんなデカい剣、扱えるのはヴァルサスとグレイス、それにゼルヴァーぐらいじゃないっすか?」
「聞いといてなんだが、俺もパスだな。ジジィの腰にはキそうだからなぁ。それによ、ちょっとケバケバしくて、俺の好みじゃねぇな」
「女と一緒っすか?」
「そう、女は化粧っ気がなくて尻がデカいのがいい・・・って、何言わせやがる。だけどルイの嬢ちゃんはもう少し化粧をした方がいいだろうな、せっかくの美人が台無しだぜ。胸も尻もいいんだから、やり方次第じゃ舞踏会の花になるぜ?」
「そうっすねぇ・・・」
レクサスはルイのことを思い浮かべた。化粧してドレスで着飾るルイ。もちろんこのうえなく美人だが、だがなぜかその腰に剣帯を佩いている想像しか浮かばない。
「それはそれでモテそうですけどねぇ。らしくねぇや」
「何が?」
「いや、姐さんは舞踏会よりも剣舞で花を咲かせる方が似合っていると思いまして」
そう見つめるレクサスの視線の先には、次の試合に出場するルイがいたのだ。
***
「これ見よがしに出してきたな」
「レーヴァンティンですか?」
「当然だ」
スウェンドルとその愛妾オルロワージュが貴賓席にて隣席していた。通常なら妾の身分で王の隣に座ることは許されないが、現状でオルロワージュに意見できるのはアンネクローゼくらいのものなのだ。
だがアンネクローゼの体調不良時や、あるいは他の用事でスウェンドルの補佐ができない時に、オルロワージュは見事に王の補佐を務めていた。実務面での能力が高く、出過ぎず一歩引いて王を立てる姿は、まさに理想の王妃にふさわしい振る舞いである。
いかに身分卑しき出自とはいえ、王妃亡き今オルロワージュに代わる者がいないことも確かだった。王妃が何らかの理由で同伴できなければ通常は王女などが代行を務めるが、武人気質のアンネクローゼでは粗相をしかねない。その点オルロワージュの作法は完璧で、アンネクローゼは渋々ではあるが、その存在を肯定しないわけにはいかなかった。
そして二人の視線はレーヴァンティンに注がれていた。
「ここまでの戦いは中々に興味深いものだった。少なくとも、退屈をせぬ程度には楽しめる。だがここに来て無粋なものを出しよったわ」
「なるほど、確かに」
「王よ、無粋とは?」
意味の理解できぬアンネクローゼがスウェンドルに質問した。
「わからぬか、アンネクローゼ? お前も真贋を見分ける力は磨いた方がよいな。あの黒髪のアルフィリースとやらと親交を深めていたことは褒めてやるがな」
「は?」
「王女殿下、王はあのレーヴァンティンは偽物だとおっしゃっているのですよ」
オルロワージュの指摘に、目を見開いたアンネクローゼ。
「では、わざわざ偽物を大衆の目に晒したと?」
「当然だろう、本物をわざわざ衆目に晒す馬鹿がどこにいる? 警護に余計な人手を割かれるし、そうでなくとも深緑宮が昨夜襲撃されたことは耳に入っていようが? さらには今この瞬間、近郊も何やらきな臭い。そんな中でさらに余計な悩みの種を増やしてどうするか。
あれは罠よ。真贋もわからぬ馬鹿をあぶりだすためのな。本物は誰の目にも留まらぬ場所に保管してあるのだろう」
「本来ならば我々諸侯に披露してから、一般大衆への披露を行うのが筋のはず。それを無視したことからも、あれが本物ではないことがわかります」
「その通りだ。それにあの剣からは何も力を感じぬよ。現存する魔剣、それに準ずる力ある武器の中でも格別の一本であるレーヴァンティン。逸話では、振るべき者が振れば山をも断ち、森を焦土に変えるという。一度手にしてみたいものだがな」
スウェンドルがぎしりと椅子に深く腰かけて、つまらなそうに感想を述べた。アンネクローゼはスウェンドルの言葉の意味が分からなかったが、オルロワージュが察して付け足しをした。
続く
次回投稿は、8/20(火)9:00です。