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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その367~統一武術大会ベスト16幕間、ティタニアとアルフィリース②~

 予想外――いや、あるいは予想していた剣の名前だったが、アルフィリースはこの衝撃を隠すために全神経を使う必要があった。集中とは少し違うが、先ほどの戦いよりも緊張が増していく。

 だがさすがにティタニアの目はごまかせるものではない。ティタニアの表情が険しくなり、一瞬殺気が膨れかけて、そしてまた静かになった。それどころか、ティタニアの表情は先ほどよりも穏やかにすら感じられた。

 ティタニアは小さな声で呟いた。


「そうですか――あなたはレメゲートとも関わりがあるのですね?」

「・・・だとしたら?」

「どうもしません。私は剣を奉じる一族として、武器の収集には長けています。私だけでなく、一族全員がそうでしたが――武器を探すのが得意だから武器を奉じる一族になったのか、はたまた武器を奉じるからこそ武器を探すのが得意になったのか――我々は強い武器に関しては非常に勘がきくのです。それこそ、乳飲み子ですらよちよち歩きが始まると一目散に武器屋にいってしまった――くらいのね。

 その我々の勘をもってして、存在があるかどうか疑わしいとされたレメゲート。私もひょんなことからその存在を知りましたが、そうですか。あなたの元にあるのですか。ということは、おそらくはレメゲートとは『そういう』剣なのでしょうね」

「そういうとは、どういう?」


 リサがおそるおそる質問し、ティタニアが答えた。


「あなたは元々失せ物探しが得意なのでしたね。ならば一度くらい経験があるのでは? どれだけ細かく探しても見つからなかったものが、ひょんなことから持ち主の元に戻る――偶然で片付けるにはあまりに運命付いているような出来事が。

 我々はその偶然を色々な名前で呼びますが、私は『えにし』と呼ぶことにしています」

「縁」

「私は運命という言葉は嫌いな性分ですが、何をどうしてもそこにあるべきようになっている人、物というのは確かに存在します。より強く運命を引き寄せる力を持った者に、人も者も集まっていく。

 アルフィリース。あなたがもっとも優れているのは、その運命を引き寄せる力でしょうね」

「引き寄せる縁が良い物ばかりとは、限らないでしょうけど」


 アルフィリースが呆れたように言ったので、ティタニアは苦笑いするしかなかった。


「レメゲートがあなたに元にあるとして――あなたの縁に引き寄せられたものであるなら、私がここで力づくで奪ったとて、レメゲートを手にすることはできないでしょう。レメゲートに意志があるのなら、なおさらのこと。

 ですが気をつけなさい。レメゲートとは、遺跡の番人ですらその存在を恐れていた。どんな力を秘めているのかは知りませんが、人はおろか魔人や古竜ですら持て余した遺跡の番人を恐れさせるとは、一つ間違えば――」

「ティタニア選手、入場の準備をお願いいたします」


 突然、会話に係員が割って入ってきた。それほど時間が経っているとも思えないが、もう試合開始の時間となったというのか。

 ティタニアが軽く不満げな表情を出し、ゆっくりと立ち上がった。


「・・・徹底していますね。来場の時間は早めに伝え、試合時間は逆に遅めに伝えてきましたか。指示されていた試合時間よりも随分早いではないですか。どうあっても私を少しでも休ませたくないようだ。アルネリアは――特に今回の大会責任者は性格が悪い」

「――そうね、イイ性格していると思うわ。普段はともかく、仕事に手抜きはしない性格ね」


 アルフィリースが同意したので、ティタニアが苦笑した。


「失礼、あなたの友人でしたね」

「気にしないで。私たちはそれぞれ立場と目的が違うだけで、本来ならもっと気が合うと思わない?」

「確かにあなたと話すのは楽しい。そしてあなたが友人と呼ぶ司教アノルン――本名はミランダでしたか。も、きっと本当は楽しく話ができるのでしょう。

 ですが、私たちはそうならなかった。私はレーヴァンティンが欲しいし、この大会で負ける気もありません」

「この大会の結果は別にして、黒の魔術士とはもう袂を分かったんじゃないの? 私たちの仲間になったら?」


 アルフィリースの誘いに、ティタニアは首を振った。


「できませんね。今更どんな顔をして、ということもありますが、それ以上に私はアルネリアを信用していない。黒の魔術士ほどではないにせよ、権力者というものに与するのが苦手なのでしょう。あなたがアルネリアと密接な関係にある以上、残念ながらあなたの元に走るわけにもいかない。それはあなたに抱く感情とは無関係なことです。

 そしてそれ以上に、私は自分のことを信用していないのです。この封印がいつ解けてしまうのかわからないこともそうですが、オーランゼブルの精神束縛が本当に切れているのかも確実ではない。そもそもいつかけられたのかもわからないのですから、こうして自由に振る舞っているように見えて、深層意識にオーランゼブルの命令が刷り込まれている可能性も否定できない。

 あなたの隣に立ってオーランゼブルと対峙した瞬間、私の剣であなたを刺すようなことがあってはいけないのです。それがわかっているから、アルネリアも容赦がないのでしょう」


 それにしても容赦がなさすぎではないか、ペルパーギスの封印がここで解けたらどうするのかとはティタニアも思ったが、アルネリアの腹積もりなど知る由もない。ミランダもまた、肝心のことは語ってくれていないのだから。

 ティタニアを急かす係員が再度部屋に入ろうとしたので、ティタニアはアルフィリースの肩に軽く手を乗せて離室を促した。


「もう行くといいでしょう。アルネリアの殺処分対象である私と長話をしないほうがいい。いかに大司教の友人でも、快く思わない者もいるでしょうから」

「でも――」

「話せて楽しかったですよ、アルフィリース。いつかまた、平和な時にゆっくりと語り合いたいものです」

「平和な時、ね」


 アルフィリースは会場に出ていくティタニアの姿を見送ったが、その時にぼそりと呟いたことをリサは聞き逃さなかった。


「ティタニア――平和な時なんて私たちに来ないわ。今が平和な時間だと思えないのなら、きっとあなたにはこれから先一生平和な時間が訪れることなんてない。

 もっと安らげる瞬間だってあったはずなのに、どうして――」


 アルフィリースの絞り出すような声にリサは答えることはせず、背中をそっと叩いたのみだった。



続く

次回投稿は、7/4(木) 12:00です。


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