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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
1828/2685

戦争と平和、その366~統一武術大会、ベスト16 アルフィリースvsドロシー⑥~

***


「いやー、負けたべさー!」


 清々しい表情で控室に引き返してきたドロシーに、応援の仲間が何人もが肩透かしを食らった気分になった。仲間内なので勝っても負けても遺恨なしということではあろうが、それにしてもあっさりとしていた。

 ドロシーらしいとはいえばドロシーらしかったが、何人かの仲間はドロシーが悔しさで拳を握りしめたところを見逃してはいなかった。もう少しで勝てた試合だったことは間違いないし、アルフィリースが魔術を使えばさらに差がつくだろうことは明白。せめて魔術を用いない勝負では互角以上に戦いたかったというのが、ドロシーの本音だった。

 反対に、勝利したアルフィリースの控室は静かなものだった。仲間が入るのを断り、装備を解除しレイファンの護衛に戻るべく着替えるアルフィリースの元に、リサがやってきた。


「ご機嫌いかが、デカ女」

「わざわざ迎えに来たの?」

「勝利を祝うつもりはありませんがね」


 リサはふっと笑うと、着替えるアルフィリースの傍にすとんと座った。


「で、どうでした?」

「正直、強かったわ。特に最後の二剣は感動した。一人で修得してあの領域まできたのなら、本当に素晴らしいことだわ。一人前に育つ娘を見た母の気分かしらね」

「その前に彼氏を作ることですね。ですが、予想以上ではなかった。そうですね?」


 その問いかけにアルフィリースは少し困った顔をした。


「予想以上ではあったけど、どうにかなる範囲だったってとこだわ」

「どうにか、『思い通りになる』の間違いでしょう? 最後の盾を割らせる場面は必要なかった。そうではないですか?」

「何のことかしら?」

「私には嘘をつかないように。その腕、砕けましたね?」


 リサがアルフィリースの左腕を指さす。アルフィリースはその指摘に苦い顔をした。


「ばれてた?」

「盾が砕けるほどの一撃――といえば一見派手ですが、あの一撃すら捌くことが可能だったはずです。わざと盾を砕かせた――そして腕も砕かせた。そうですね?

 さらに言うなら、ドロシーに練習の状態から癖を刷り込んでいましたね? その気なら、一合と打ち合うことなくいつでも勝てたはずです。違いますか?」

「リサには本当に隠し事ができないわね。その通りよ」


 悪びれないアルフィリースに対し、リサが苦い顔をした。


「なぜ? 天覧試合の緒戦ともなれば好勝負を演出したかったのはわかりますが、腕まで砕かせる理由がわかりません。砕けた骨はアルネリアの治療技術でも、一晩では治らな――まさか、それが目的ですか?」


 リサの言葉にアルフィリースがにやりと笑った。


「ええ、一晩では治らないわ。だから次の試合は棄権する」

「は!? なぜ、自らそんなことを?」

「勝てないし、意味がないからよ。もっといえば、この大会における目的は十分すぎるほどに達成したわ。私の成果は予想以上。ウルスを初めとする拳を奉じる一族との関わりを作り、オルルゥ率いる戦士団を仲間に引き入れることに成功した。武術大会で名前と顔も売れた。これ以上の戦果は望むべくもないわ。

 それよりも重要なことは、平和会議の方よ。ここからはレイファンの護衛に専念すべきだわ。会場内で犠牲者が出るような事態なら、優先すべき事項は競技会よりもレイファンよ。でもただ棄権するだけなら体裁が悪いわ」

「いや、ですがしかし――はぁ。言うだけ無駄ですね」


 アルフィリースの表情を見て、何を言っても無駄だとリサは理解した。アルフィリースがそう言うならそうなのだろうと納得したが、あまりにももったいない。だがアルフィリースにとって、天覧試合で得られる名誉など、これっぽっちも価値がないと考えていることは明白だ。アルフィリースはわけのわからぬ名誉よりも、いつも実利を優先してきた。わかっていても惜しがるのは、自分が凡俗なのだろうかとリサは考える。

 がくりと項垂れるリサだが、アルフィリースはにこりと笑って話かけた。


「まぁまぁ、そうがっかりしないで。私としてもルイとはやってみたかったし、天覧試合にそのものにも興味はあったわ。それにドロシーがどこまで強くなっているか、教練では得られない緊張感のある試合をしたかったのも本当なんだから。

 でも他の出場者を見渡して、私が勝てる気がしないのも本当よ。魔術なしでは私にも限界があるわ。団長たる私がこてんぱんにやられるのもねどうかと思っていてね。一番悩んだのは負け方なのよ」

「それなら、最初からティタニアやラインと当たっていたらどうするのですか」

「おいおい、俺のことを忘れちゃいねぇかい、嬢ちゃん」


 アルフィリースのイヤリングが変形し、パンドラになった。パンドラからにょきにょきと手足が生えるとアルフィリースの肩に座り、自分を指さして主張する。


「俺がちょいと天覧試合の抽選箱の中に入ってだな――」

「――卑怯、なんて卑怯」

「言っておくけど、私以外は何もしていないわよ? いろいろ因縁はありそうな面子だけど、そこは成り行きに任せた方が面白そうだし」

「はぁ――まさにデカ女の掌の上ですか。私のことも弄んではいないでしょうね?」

「リサに弄ばれた経験の方が多そうだけど?」


 アルフィリースは笑いながら控室を後にしようとしたが、そこに次の選手が入ってきた。その瞬間、ぴり、と空気が変わったことをリサは感じた。

 入ってきたのはティタニアだったからだ。



続く

次回投稿は、6/30(日)12:00です。

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