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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
1815/2685

戦争と平和、その353~大陸平和会議九日目、夜③~


***


最高教主マスター、いる?」

「現在面会謝絶です。お引き取りを」


 会議の流れの報告を受け、ミリアザールの元を訪れたミランダだったが、扉の前に佇む梔子ににべもなく断られた。ほとんど表情の動かない梔子だが、長らく付き合っているとそのわずかな変化もわかるようになる。暗部を取り仕切るだけあって冷徹な女だが、この表情の時は交渉するだけ無駄なことをミランダは知っていた。


「伝言はある?」

「会議の方は任せよ、と。ミランダ様には統一武術大会の運営に集中するように、とのお言葉を賜っています」

「ふぅん。アタシは何も聞かされていないんだけど?」

「ミリアザール様もここまでの事態は想定はしていなかったのでしょう。奥の手を使う、とおっしゃっていました。私も詳細は知りません」

「そう」


 ミランダはそこまで聞いて踵を返した。任せろとミリアザールが言う以上、これ以上の詮索は無用なことは知っている。そのあたりはミランダも信頼している。

 だが少し寂しくもある。300年近い付き合いなのに、ミリアザールは肝心なことをミランダに言わない時がある。もちろん巡礼としてアルネリアを空けている期間が長いせいもあるが、肝心な時は歴代の梔子と相談し、物事を片付けてきた。役割が違うと言えばそれまでだが、それでもどこか物悲しいのは我儘なのだろうかとミランダはため息をついた。


「奥の手、奥の手ね。何となく想像はつくのだけど・・・今使ってもいいのかしら? いえ、それとも望むところなのかしら?」


 ミランダが想像している手段を使うのなら、確かに逆転の一手とはなるだろう。言われた通り統一武術大会に集中するのが吉ともとれる。

 だが、使えば後戻りはできなくなる。その状況を考え、ミランダは考え込んだ。


「そうか・・・いよいよなのね。黒の魔術士やオーランゼブルとの決着も迫ってきているということか」

「ミランダ様、こちらにいらっしゃいましたか」


 ミランダが考え込んでいる時に、ふいに楓が目の前に現れた。ミランダにしては珍しく虚を突かれた格好だったが、口無し達はそもそも足音が小さいため、接近されるまで気付かないことも多い。

 だが楓の方が虚を突かれたように、驚いた表情をしていた。


「どうしたの、楓。豆を口に投げ込まれたような鳥のような顔よ?」

「鳥の口に豆を投げ込んだことがないのでわかりませんが・・・ミランダ様、よいことでもありましたか?」

「どうして?」

「笑っていらっしゃいます」


 ミランダは楓に指摘されて、顔をぱしぱしと触った。良かったことなど特にないし、むしろ仕事に追い込まれているくらいである。笑っているつもりなど毛頭なかったのだが。


「笑ってた、アタシ?」

「はい。それはもう、悪い顔で」

「悪役みたいじゃない、やめてよ」

「悪女は似合うと思いますが」

「そんな感想いらないわよ!」


 楓が茶化したので思わず楓の頭をぐりぐりとしたが、楓はするりとそれから逃げ出すと、何事もなかったかのように報告をした。


「一つ、報告が。些事かもしれないためどうしようかと思ったのですが」

「何かしら?」

「アルネリアが外部委託をしている商人の一団が忽然と消えました。会議や大会の運営に支障があるわけでもなく、規模にして十数名の小さな商会ですが、堅実な仕事ぶりで徐々に規模を大きくしていたので、周囲の覚えがよかったようです。

 その商人たちが期日が来ても荷が届かないので足取りを確認したところ、ここから十日ほどの宿を出立した後、忽然と姿を消しています。聞き込みでも誰もその姿を見ておらず、また野盗などに襲われた残骸もありませんでした」


 アルネリアに荷を運ぶ商人たちは、アルネリアの領土に入ると割符によって輸送経路を限定されている。経路は複数あるが、そのどれもが2日おきに通過の確認と、抜き打ちで検閲を受けることになっている。荷の増減はないか、申告した人数に間違いがないかどうか、期日に間に合うかどうかがこまめに確認されている。

 少しでも違和感があれば、厳重に彼らは検閲を受ける。事実、すでに十を超える商団が確認を検閲を受け、そのうちのいくつかは野盗などが扮したものであったり、よからぬことを企む者たちだった。

 ミランダが質問する。


「他に不審な点は?」

「宿の宿泊帳を確認すると、途中から一人増えています。野盗崩れの被害にあった人をアルネリアに届ける最中だということで、特に宿の者も不審な点は覚えなかったそうですが・・・」

「ですが?」

「規則に則って確認したはずなのですが、印象にないそうです。持ち物改めをしようとしたが、するりと手から抜けていったと。不審な点はなかったことだけ覚えているそうですが、何とも妙な話で」

「記憶――は検索した?」

「しました。口無しの者で調査したのですが、確かに一人それらしき人物が浮かび上がります。女性――のようですが、それも妙なのです」

「妙とは?」


 ミランダの質問に、楓が言い渋る。このような楓の態度は珍しいとミランダが訝しんだ。



続く

次回投稿は、6/6(木)14:00です。しばらく連日投稿です。

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