表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
1813/2685

戦争と平和、その351~大陸平和会議九日目、夜①~

***


「目が覚めたかしら?」

「ココハ――」


 オルルゥが目を覚ました時、そこはアルネリアの医務室だった。医務室に運ばれた後、狂戦士化した反動と、痛みを押さえて動き回った反動でオルルゥは昏睡状態に陥っていた。

 意識が晩を待たずして戻ったのはオルルゥの生命力、アルネリアの治療、アルフィリースの適切な攻撃など、幾多の幸運が重なったおかげだろう。

 オルルゥは目が覚め、状況を確認すると目の前にいたアルフィリースに向けて一礼をした。


「マズはアヤマル。リセイをカイタタタカイをシタ。ユルセ」

「貴女、今まで負けたことがないでしょう? なら仕方ないわね――と、言いたいけど。もう二度とごめんだわ。本当に死ぬかと思ったし、冗談抜きであの力は仲間に向けないで頂戴。いい?」

「リカイシタ――で、ワタシはドウスレバイイ?」


 オルルゥのまっすぐな瞳を受けて、アルフィリースは力強く命令した。


「ワヌ=ヨッダの戦士団長オルルゥ。誓約にのっとり、我が配下に入ることを誓いなさい。ただし! 私が主の器に足らぬと判断した時には去ってよし」

「オルルゥ以下、ワヌ=ヨッダのセンシダン10000ニンがハイカにナルコトをチカオウ。ココハ――あるねりあデハナイナ?」

「ええ、我々の傭兵団の建物よ。状態が安定したから引き取らせてもらったわ」

「デハ、ココにナカマをヨンデモイイか?」


 オルルゥの言葉に、アルフィリースは頷いた。


「ええ、構わないわ。建物は増築中だし、すぐにでも1000人くらいなら収容できるかしらね。敷地内での野営でよければ、5000人くらいは入るはずだわ」

「スコシタラナイな。オマエタチ、イルカ!?」

「ハ、ココに」


 オルルゥの指笛に反応し、窓の外に人の気配が現れた。ここは一応三階なのだが、アルフィリースが窓を開けると、音もなく三人の男が入ってきた。体の文様から見るに、ワヌ=ヨッダの戦士だろう。

 膝をつき控えたその姿だけでも、相当屈強の戦士であることがわかる。リサのセンサーや魔女たちの罠を回避してここに至るだけでも、強者の証となるのだが。もちろん、リサもラーナたちも気付いている。アルフィリースは外に彼女たちが控えたことを知ったうえで、オルルゥの好きにさせていた。


「ナカマにツタエロ。ワタシはマケタ。コノオンナがアラタナアルジとナル。アラタナアルジのキョカで、1000ニンはココにキテイイソウダ。やふぃさの大隊がイイダロウ。ヤツラハ『おんこう』で『りせいてき』ダカラナ」


 その言葉を聞いて、アルフィリースが呆れていた。オルルゥは全軍をアルネリアの外に配置していたのだ。もし所在の確認が取れれば、カラミティを攻め滅ぼすつもりでいたのだろう。

 ローマンズランドの陣営にカラミティがいることはほぼ確実と考えられている。もしオルルゥがその情報を得ていれば――この大陸平和会議が戦場となっていた可能性もあったのだ。

 偶然とはいえそれを止めたことに、アルフィリースは胸を撫で下ろしていた。自分以外の誰かがオルルゥを倒したとしても、戦争は止められなかっただろう。


「全軍いるのね?」

「アア、モリをマモルサイテイゲンのセンシだけノコシテ、アトハゼンブツレテキタ」

「私の許可なく動かないで頂戴」

「モチロンだが――ナンだ?」


 戦士の一人がオルルゥに耳打ちした。オルルゥが怪訝そうな顔をしたが、難度か戦士と会話すると、急に渋い顔になっていくつかの指示を出し、戦士を下がらせた。


「あるふぃりーす、スコシマズい」

「反乱者でも出た?」

「ソノテイドタイシタコトはナイ。ベツのサイヤクのシュウライだ」

「災厄?」


 アルフィリースが今度は怪訝そうな顔をしたが、オルルゥは臆面なく告げた。


「タイカイにもイタ、ギンのカミのセンシ。アイツラのナカマがチカヅイテいる」

「沢山?」

「ヒトリだ」


 アルフィリースは首を傾げた。一人の戦士を恐れることがあるのだろうか。仮にも、ここにいるであろう神殿騎士団とアルネリアの周辺騎士団、合わせて3万を相手どろうという戦士が。

 だがオルルゥは首を振った。


「ココにキテイルギンのカミのセンシは、イチゾクのナカでイチバンシタッパだ。サイヤクとは、チョウテンにチカイセンシのコトだ」

「頂点――何番?」

「ソレはワカラナイが――『ミタ』ヤツがイウには、イママデでサイキョウだと。ココにキタラ、トメルスベがナイ」

「つまり、カラミティと同じくらい危険だと?」


 無言でオルルゥが頷いた。アルフィリースは頭を抱えたくなる気持ちでいっぱいだった。会議も大変なのに、加えてカラミティ級の災害を気にかけねばならないとは。

 アルフィリースは念のためオルルゥに聞いた。


「どのくらいでこちらにくるの?」

「ミッカかヨッカ。キブンシダイでは、モットハヤイ」

「冗談。どうしろって?」

「ニゲロ、イマスグ。デアッタらオシマイとオモエ」

「そういうわけにはいかないのよ。対抗策を練ってみせるわ。あなたにも協力してもらうわよ?」

「あるふぃりーすがソウイウならソウスルが――ニゲルノがイチバンダトは、ハッキリイッテオク」

「こんなのばっかりね、私の人生。でも、今回だって何とかしてみせるわ!」


 アルフィリースは強く決意すると、疲れた頭と体で対抗策を練り始めたのである。明日、天覧試合が控えていることも、もはや気にかける余裕はなかったのだった。



続く

次回投稿は、5/31(金)14:00です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ