表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
1803/2685

戦争と平和、その341~統一武術大会五回戦、閑話⑪~


「いえ、私は致し方ないことかと。アルネリアの対応が後手になるのもわかりますわ」


 この発言に他の諸侯がざわついた。シェーンセレノは徐々にだが声高にアルネリアの非難を展開していたのだ。それがなぜ今更擁護を――と諸侯が思った時である。


「まずすべきことは犯人の追及。犯人を白日の下にさらし、法の裁きを受けさせることが必要でしょう。そして我々は毅然とした対応で、脅しに屈さぬ姿勢を貫く必要があります。

 ですが、そもそもアルネリアが狙われる理由としてアルネリアがあまりに有利な既得権益、関税や素材の独占などで嫉妬をかっているのも間違いないでしょう。そろそろそれらの権益も、公平に分配をした方がよいのでは? もはやこれだけ諸国が並び立ち、権益を独占するにも限界があるのではないかと考えますが」


 諸侯は息を飲んだ。アルネリアの既得権益に関しては確かに多くの者が思うところがあった。だがアルネリアの成立が最も古く、そもそも東の諸国の独立を援助してきた歴史がある。羨ましく、時に苦々しく思いながらも誰もが恩義を感じていたため強く出れなかったのだ。

 そして誰もが意識下で禁忌とされていた言動に、シェーンセレノがついに踏み込んだのである。シェーンセレノの言葉にミリアザールの眉がぴくりと動く。その時の顔は朗らかな聖女ではなく、ミリアザール本来の鋭い表情がちらりと顔をのぞかせていた。


「――なるほど。では貴殿はいかように我々は立ち振る舞うべきとお考えか」

「まずは商業を奨励するために関税の撤廃、ないしは緩和。そして回復魔術の一般公開。そしてギルドへの干渉の停止でしょうか」

「ギルドへの干渉? どういうことだ?」


 多くの諸侯がざわついた。前二つは多くの者が知るところだったが、ギルドへの干渉はほとんどの者が知らなかった。ギルドは民間人が集まり構成された、各種自由組織。そう思われていたのだが。

 ミリアザールの舌打ちをアルフィリースは聞いたような気がした。シェーンセレノが意外そうに語る。


「おや、みなさんご存じない? 傭兵ギルドなどを初めとして、多くのギルドはその運営を裏でアルネリアが行っています。つまりギルドはアルネリアの外部組織。ともすれば、アルネリアが行えない裏の仕事をギルドに依頼することもできるのでしょう」

「それは偏った見方ですね。ギルドの設立に関して経済援助を行い、現在も一部損失の補填や懸賞金で資金援助をしていることは認めますが、ギルドの自由闊達な意志決定に関わったことはありません。ギルドは基本、運営に携わるそれぞれの地区の者に任せられていることはご存じのはず」

「口では何とでも言えましょうが、問題はそれを我々が知る方法がないということ。アルネリアが今後、何らかの理由で制御困難となった時のことを考えれば、第三者機関でアルネリアの行動を監視、制御することは必要なのではないでしょうか?」


 シェーンセレノの意見に多くの諸侯が賛成した。今までシェーンセレノの行動に賛成をしていなかった者も、この意見には賛成している者が多い。アルフィリースですら、この言い分には半ば以上賛成である。問題は、その第三者機関を誰かが私物化すれば、結局権益が分割されるだけで同じことになる、ということだが。

 アルフィリースは補佐として意見を述べるべきかと考えたが、アルフィリースが一歩前に出る前にレイファンが動いた。


「皆様方、ギルド云々に関してはそれはそれですが、まずは順番に決めるべきことがあるのではないでしょうか? まずはローマンズランド領内に発生した魔物の軍団への対処。これを決めねばスウェンドル王の心中も穏やかになりますまい。

 そして各地で発生する魔王への対処。昨日の会議でおおよその分担と対策が説明されましたが、アルネリアの周辺騎士団、神殿騎士団の派遣、ギルドとの連携がどこも鍵となる様子。こちらの連携を密にせねば、対処もままならないでしょう。ギルドの監視など、魔王の問題が片付いてからでよろしいのでは?」

「ですが――」

「アルネリアへの監視が必要と考えるのなら、第三者機関を設けるのは賛成です。ですが、その第三者機関もまた誰が見張るのか、という問題が発生します。第三者機関とはいえ、誰かの私物にならぬとも限らぬのですから」


 ここでレイファンがちらりとシェーンセレノを見やる。その視線を受け止めるシェーンセレノとの間に、火花が散ったように見えた。

 レイファンは続ける。


「そもそもギルドは各設置都市との関係が強く、不満があるのならそれぞれの領内のギルドに対し監視を置くなり、発言権を強めるように組織を設置すればよろしい。その点に関してはギルドでの規約で制限は設けられておりません。ギルドに目が届いていないというのなら、それは諸国の怠慢でしょう。

 大陸平和会議の開催期間は原則残り3日。天覧試合決勝の日は会議は開催されず、親睦会で終了となるはずです。今第三者機関の話をすれば、どの議題・議決もうやむやになりかねません。まずは決めるべきを決める。そのための話し合いをしませんか?」

「賛成だ」


 意外なところからレイファンの意見に賛成が出た。ローマンズランド王、スウェンドルだ。



続く

次回投稿は、5/11(土)16:00です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ