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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
1802/2685

戦争と平和、その340~統一武術大会五回戦、閑話⑩~

「よう、なぜ生かす?」

「答えは簡単、まだ利用価値があると思うから。それにあなたはどうしようもない屑野郎だけど、戦士としての矜持がないわけではない。目的とする相手は一致しているし、契約に関するプライドも持ち合わせている。役に立つうちは生かしておいてあげるわ」

「はっ、怖い女だ。俺の仲間にも冷徹な奴、鬼畜な奴、変態な女はいるが、怖い女じゃあんたが一番だな」

「褒め言葉だと思っておくわ。で、しばし身を隠してもらうわよ? 勇者ゼムスの仲間も抜けてもらうわ」

「それは構わねぇさ。無様な負け方をしたらどのみち居場所はねぇ連中だし、ゼムスは強者しか隣に置かねぇ類の人間だ。俺の利用価値はもう感じてないだろうし、俺自身も特別仲間意識はねぇからな。ただ――」

「ただ?」


 バスケスが言い澱んだが、ミランダが強い口調で命令した。


「言いなさい、命令よ」

「策士――の案でな。元勇者リディルの育成を担当していたんだ。そっちが目途がついたから重騎士ガイストに任せて俺はこっちに来たんだが、リディルの成長速度が非常にヤバイことになってたぜ。

 ありゃあ魔王なんて器じゃねぇ。放っておくとすぐにでも大魔王並みの脅威になるだろうな。アルネリアは知ってんのか」

「おおよそ、はね。でも詳しく教えてくれるかしら、傷が癒えたらね」

「ああ、いいぜ。その方が面白そうだ」


 バスケスは不敵に口元を歪めると、担架で運ばれていった。その様子を見ながらアルベルトが不安そうに進言した。


「いいのですか、これで。奴は危険な人間です」

「ええ、危険な『人間』だわ。もう首輪をつけたし、私に反逆することはない。あの程度御せないようでは、海千山千の化け物たちを相手取ることはできないわ。よっぽど巡礼の連中の方が曲者だと思うのは私だけ?」

「そういう見方もあるかもしれませんが・・・」

「あなたはそういう心配をしなくてもいいのよ、アルベルト。あなたは剣の腕を磨き、私を守り、必要な時にその力を存分に振るってくれればいいのだわ。

 政治的な駆け引きは私に任せておきなさい。それより明日から大荒れよ。今日の昼の会議の様子は聞いたでしょう?」


 そう言ってミランダは再度執務に戻っていった。ミランダの言う通り今はバスケスのことを深く心配するよりも、明日以降の天覧試合と会議の方が重要であることはアルベルトも認識していた。


***


 昼以降の平和会議は大荒れだった。

 アルフィリースとリサが揃ってレイファンの護衛に戻った時、会議の雰囲気が一変したことに一瞬で気付いた。

 午後は統一武術大会の運営に携わることが多かったせいかミランダの姿はなく、補佐であるはずのエルザも統一武術大会で負った傷が重く、まだ復帰できていない。補佐の者はいたが、ミリアザールは事実上一人で諸侯の前にいることになる。

 そのミリアザールに向けて会議では容赦なく非難の声が飛んだ。


「とんだ失態だ!」

「使節が会議場内で殺害されるなど、どう責任を取るおつもりか!」


 今まで中立の立場を取っていた諸侯も自分たちの生命が脅かされる可能性があると知ったせいか、容赦ない声を飛ばした。中には罵詈雑言に近しいものまであったが、要約すれば先ほどのような内容である。

 ミリアザールの気性を知るアルフィリースはミリアザールがどのような対応をするか興味深く観察していたが、ただ申し訳なさそうに謝罪を続けるのみで、よくもまぁ我慢したものだと感心していた。


「(いやぁ、これが本当の猫を被る、ね。よくもまぁ耐えるものだわ。いや、狐が人の皮を被る、かしら? もう少し動揺しそうなものだけど、ひょっとしてこの展開も織り込み済み?)」


 そんなことをアルフィリースは考えていたが、何も反論しようとしないミリアザールを不気味にすら感じるのか、浄儀白楽、スウェンドル、ミューゼ、ドライアンあたりは沈黙を貫いていた。

 その際に会場の空気を破った者がいる。やはりと言ってはなんだが、これもまたシェーンセレノだった。

 気分がすぐれないと休んでいたはずの女傑は、ここに来て突然会議場に戻ってきた。自然とその姿に注目が集まる。


「遅れて申し訳ありません」

「(わざとらしいわね)」


 アルフィリースはルナティカから報告を受けている。おそらくはここでシェーンセレノが会議室に入ってくることも演出の一つだろうと推測される。

 そして案の定、シェーンセレノに発言が求められた。


「シェーンセレノ殿はいかがお考えか、このアルネリアの体たらくについて」


 ついにこの発言が来たかと息を飲んだ者が複数いることがアルフィリースにも感じられた。アルネリアそのものには恩義を感じつつも、どこかで疎ましく、そしてその立場を羨ましく思うことがないわけではない。だがそれを表面化してどうなるものでもなく、自分たちの立場が悪くなるだけだった。

 穏やかにみえていた湖面の下で燻っていた不満が、ついに表面化した瞬間である。そしてシェーンセレノが少し考えてから言葉を紡いだとき、予想外の言葉が出てきた。



続く

次回投稿は、5/9(木)16:00頃予定です。

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