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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その336~統一武術大会五回戦、バスケスvsティタニア③~

「(バスケスには正直、消えてほしい。あれほど性が暴虐な人間を見たことがない。野生の獣より、ひょっとしたら魔獣よりも残虐かもしれない。でも奴を倒すために犠牲になる人がいるのなら、私は――)」


 シャイアはひたすらに心優しいためそのようなことを考えていたが、ゴーラの方がいまや苛烈な感情でバスケスの戦いを眺めていた。


「(かつて教えを人間に乞われ、良かれと思い技術を人間に伝授した。それが巡り巡ってこんなことになるとは――この始末は最悪、ワシがつけねばなるまいな。

 導くとは何とも難しいものよな。かといって無責任に放置もできぬし、さてどうするのが一番良いのか。数千年経っても結論が出ぬとはのぅ)」


 悩むゴーラだが、ともあれあの構えを突破するのはティタニアとて容易ではあるまいと考える。バスケスは勝つためなら手段を選ばない。それはつまり、必要とあればどんな技術でも吸収するし、過酷な訓練にも耐えるということだ。

 あの戦い方はバスケス本来の性格からは程遠い。だが勝つためには手段を選ばぬバスケスは、ティタニア相手にこの構えを選択した。バスケスが知る限り、接近戦でこの構えが破られたことはない。

 ティタニアもバスケスの構えの危険性は感じ取ったか、間合いを保ったまま様子を観察している。


「どうした? 来いよ」

「油断がならぬことはわかっています。万一にも仕留めそこなうわけにはいきませんからね」


 ティタニアが静かに様子を観察する。ティタニアとしては呪印を解放して一気に決着をつけたかったが、競技場内で呪印が解放できないことに今気付いた。魔術を封印しているのはわかっていたが、どうやら強化型の呪印解放も同様のようだ。怪我をした体を補うため二段階まで解放してあるが、これ以上は不可能のようだ。

 一方でバスケスとしても屈辱を感じていた。暴走強化の魔術を使いながらも速度で圧倒された。正確には速度ではないのだが、戦い方の技術に差がありすぎるのだ。元々格闘術で得物持ちの相手をすること自体に無理があるのだが、差がありすぎる現実がバスケスを冷静にしていた。


「(くそったれ! やりたくはねぇが、これしかねぇ。飛び道具のないお前がこれを破れるもんなら、やってみやがれ!)」


 バスケスの自身の原因はわかっている。左手で払い、これみよがしに上げた右手でとどめを刺す、完全な迎撃主体の構え。


「(が、それだけではないのでしょうね・・・まぁいいでしょう。これしき真っ向から打ち破れないようでは、剣を奉じる一族を名乗る資格なし。それにこの男は、その自信の根底から粉々にせねば気が済みません)」


 ティタニアは迎撃されるとわかっていて前進した。先ほどの突きからあえて速度を少し落とし、そしてバスケスが反応した段階で突きを引き戻す。そこから、最速の突き。これならば反応できないはずだ。

 だがティタニアの突きが届く前に、バスケスの拳がティタニアの顔面を捉える。視界を一瞬奪われたティタニアは、バスケスの手刀が振り下ろされるのを感じて後ろに飛びのいた。

 間一髪直撃は避けたが、ティタニアの肩口から鮮血が飛び散った。同時に服の留め金が外れ、一部胸元が露わになる。普通なら羞恥で隠すところだが、ティタニアは気にすることなく構えていた。そこにバスケスの三撃目――遠当てが襲い掛かってきたが、それは問題なく防御した。


「ちっ、恥ずかしいとかねぇのか?」

「女を捨てたわけではありませんが、今はそれ以上に戦士ですから」


 一瞬の交錯を理解出来たものが何人いたのか。ティタニアが後の先を狙い、そして失敗した。失敗させたのはバスケスの突きである。

 シャイアが先ほど起きた攻防を苦々しく説明する。


「あれです。あれが我が師を討った技術。本来は打ち払うための左手を攻撃に特化させ、捨て身で撃つ連撃」

「相手の攻撃と防御ごと打ち抜く一撃か。自分もくらうだろうが、相手にも確実にダメージを与える」

「打たれ強さに絶対的な自信があるバスケスだからできる戦法です。バスケスの強さは技術ではなく、その打たれ強さであることをほとんどの者が知りません。

 自身の三倍はある魔獣との、素手の格闘戦にも勝てるバスケスの耐久力。通常の攻撃では戦闘不能に追い込むことは不可能です。それこそ、殺しでもしない限りは」


 競技会に限れば場外で倒すことはできる。だが恐ろしいのはその後だ。バスケスは勝つまで戦いを止めない。つまり、それはバスケスが勝つまで一生涯つきまとわれるということ。恐ろしいのは、この戦いで削り合った後であることをシャイアは知っていた。



続く

次回投稿は、5/1(水)16:00です。

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