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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
1796/2685

戦争と平和、その334~統一武術大会五回戦、バスケスvsティタニア①~

***


――話は戻り、統一武術大会五回戦。


 昼時に組まれる試合には注目度が高いものや、あるいは人気、あるいは会議の進行を考慮して組まれる試合が多数ある。今回は昼休憩を考え、レーベンスタインやディオーレの試合が組まれていた。

 相手もここまで勝ち上がってきただけあって手練れではあったが、やはり彼らの強さに及ぶべくはなかった。レーベンスタインは盤石の勝ちを。ディオーレは堅実な勝ちを。そしてロッハは速度で翻弄し圧倒的な勝ちを見せていた。この辺りは非常に順当な勝利と言えた。

 ここまでで天覧試合に進出した者は八名。アルフィリース、フラウ、バネッサ、ドロシー、セイト、レーベンスタイン、ディオーレ、ロッハである。残り八名がこれから決定する。

 そしてこの次の対戦は、ある意味では最も注目されるべき試合だった。


――剣帝ティタニアvs格闘家バスケス――


 昨夕のアルネリア包囲網の中で何が起きたかを知る者、ティタニアの正体を知る者、そしてバスケスの暴虐を苦々しく思う者までが集結していた。


「どっちが勝つと思う?」

「そりゃあバスケスだろう。なんたって勇者ゼムスの仲間だからな」

「俺は断然ティタニアだな。あの美しさ、あの強さ。ここまで得物を選ばずに勝ち抜いてきている。本物だぜ」

「馬鹿、本物のわけねぇだろうが。いつの時代の伝説だと思っていやがる?」

「強さが本物ってことだよ!」


 観客は口々に己の想像を盛り立てているが、実際のところは賭け率ではバスケスが有利だった。もちろん真実を知っている者はティタニアの勝利を疑っていない。

 だが現実はどうだったのか。


「(最悪の状態ですね)」


 ティタニアは控室でどっかりと座り、木の大剣を足の間に立てるようにして瞑想していた。一見すると戦いに向けて自信と余裕をもって構えているように見えるが、その内心は真逆だ。

 昨夕の傷は癒えず、まだじわじわと血がにじんでいた。先ほども厠で包帯を巻きなおしたくらいの深手。半刻おきに包帯を変えないと、服にまで血が沁みてくる始末なのだ。


「(圧倒的に血が足りませんね。大分補充はしましたが、それでもたかが知れている。そこの抜けた桶に水を貯めるようなものだ。

 通常なら負けることはない相手でしょうが、長期戦はいただけない。呼吸は正常な状態が保てるとして、300数える間――いや、180もてば良い方でしょうか。

 今日だけは短期決戦ですね)」


 ティタニアはふぅー、と長く息を吐くと、名前を呼ばれるにしたがって剣に体重を預け、ゆっくりと立ち上がった。それは決して余裕があるからではなく、少しでも体力を温存したいという心情の現れだった。

 一方バスケスはといえば、控室で戦いが近づくにしたがって殺気が押さえられ、逆に静かになっていた。同じ控室の競技者たちはその様子を不気味に感じていたが、こちらは試合で呼ばれると口の端を歪めて立ち上がっていた。


「ク、カカ・・・クカカカ」


 その歪んだ笑いを聞いた者は思わず一歩後ずさったが、バスケスが何を考えているのかまでは知り様もなかったし、そして知りたくもなかった。

 そしてバスケスはゆっくりと会場に向かっていた。そこには既にティタニアが立っていたが、その様子を確かめながらゆっくりと歩いていく。バスケスはティタニアの発する気を見て、どのような状態かをおよそ察した。


「(普段から万全の気を発してやがったはずが、微かに揺らいでやがる。確かに体調が悪そうだが、さて)」


 バスケスは段上に登ると、いつものように審判のチェックを受ける。今回の審判はブランディオ。バスケスはこの審判が巡礼であることは知らないが、ごまかしがきかないだけの実力を備えていることは知っている。

 そのうえで、諸注意を受ける最中にわざとバスケスはティタニアに殴りかかった。よそ見をしながらの予備動作のない素早い一撃。だがその拳を受け止めるティタニア。その表情がやや曇る。


「陳腐な一撃だな」

「そうだろうよ。だがわかったこともあるぜ? 左脇だな?」

「・・・」

「両者もう少し離れてもらおか。バスケス、減点2だ」


 バスケスの不意打ちに会場がざわつくが、ティタニアは冷静に対処し、バスケスは減点で風船を二つ割った。だが割られた風船以上にバスケスには収穫があった。

 そしてブランディオに言い放つ。


「お前らもえげつねぇなぁ。教義は慈愛だっけ? 闇討ちに仕込みまでしといて、何が慈愛なんだか」

「何を言っとんのかさっぱりわからんわ。これ以上余計な言葉をくっちゃべったら失格にするで?」

「あいよぉ。まったく、とんだ横暴な教会だ。お前もそう思うだろぉ、ティタニア?」

「横暴が服を着て歩くようなお前にだけは言われたくない」


 ティタニアが応じたが、その瞳には怒りが渦巻いていることをバスケスは見て取った。そして都合がよいと、ほくそ笑んだのだ。


「(怒っている相手程わかりやすいものはないからなぁ。これで攻撃も読みやすくなるってもんだ)」


 バスケスは既に、暴走強化オーバーブーストの魔術を使用された状態である。というか、昨晩からずっとのこの状態が解除されないのだ。寝ずとも絶好調の状態だし、疲れ知らずどころかますます研ぎ澄まされていく感じがする。ミランダ相手にへこまされたのはその通りだが、この力で相手を好きなように蹂躙できると考え直せば、お釣りがくるだろう。今なら矢の雨の中すら悠然と歩いて抜ける自信がある。

 いかに剣帝の攻撃が凄まじかろうと、全て叩き落として悲鳴を上げさせてやる。バスケスがその確信を得た瞬間に、試合開始の宣告がなされた。



続く

次回投稿は、4/27(土)16:00です。

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