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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その333~大陸平和会議九日目、昼③~

「!」


 一瞬レイヤーは面喰ったが、すぐさまその正体に気付いた。そして丹田に力を集め、それを一気に放出することで対処した。すると刃が一斉に消えたではないか。周囲の人々は一瞬風が通り抜けたことを感じたのか全員がきょろきょろと周囲を見ていたが、風は実際には吹いていなかったのだ。

 レイヤーは殺気の正体を掴むと、正確にその元を辿った。そしてある酒場の入り口に行くと、そこにもたれて話しかけた。


「二度目――いや、三度目かな?」

「――さて、どうだろうな」


 背後にいるのは剣の風。そのことをレイヤーは知りつつ、あえて背中を晒した。もし剣の風が本気だったら、先ほどの刃の形をした殺気は本当の刃に変わっていたはずだ。それをしなかったということは、剣の風からのメッセージであると理解していた。


「何か話がある?」

「貴様のことは非常に腹立たしく思っている。だが、今はこれ以上目立つわけにもいかぬ。そこで取引だ。私はこれ以上暴れはしないし、お前の傭兵団にも迷惑をかけないと誓おう。何なら、お前の傭兵団の危機にはか駆けつけてもいい。

 だからこれ以上私のことを詮索するな。お前ももしかすると想像はついているかもしれないが、もう少しだけ俺たちには時間が欲しい。そしてそれはイェーガーにとっても悪い話ではないはずだ」

「イェーガーにとって益があるかどうかは、僕が決めることじゃない。だけど一つ聞いておきたい。お前達の刃は『制御』ができているのか?」


 レイヤーの言葉は正鵠を射ていた。どうしてここまでこの少年は物事を正確に見通すことができるのだろうと、剣の風は恐ろしい気分になっていた。

 だがここで戦いたくないのは剣の風も同様である。


「俺たちは制御ができている、少なくとも今は。制御ができていないのは他の連中だろう」

「それは誰?」

「そこまで教える義理があるのか?」

「少しは譲歩しなよ。僕の勘は悪くないところを突いているはずだよ? それともあることないこと吹聴した方がいいのかな?」


 レイヤーの言葉に内心で舌打ちをする剣の風だったが、確かに『ある』こと『ない』ことを吹聴されるのはまずかった。そのうちのいくつかが真実に到達すれば、そこから斬り込んでこれるだけの逸材が揃っている場所だからだ。

 剣の風は、譲歩という言葉を今初めて覚えていた。


「・・・アレクサンドリアだ。奴らの動きは我々でもつかめない時がある。注意するとしたらそこだろう」

「そうか。気をつけるとするよ」

「あとはドゥームもだが・・・これだけ様々な要素が絡むと、誰一人その結末を予測できない可能性がある。そしてもっとも信用ならないのはある意味ではアルネリアだ。覚えておくがいい」

「そうか。やっぱり君たちはおしゃべりだね。沈黙の名を冠するのは辞めたら?」

「おい、待て。貴様はどこでそれを――」


 だが剣の風がレイヤーの姿を捉えようとして、今度はレイヤーの姿がないことに気付いた。剣の風が話に気をとられた一瞬でレイヤーは姿を消していたのだ。

 呆気にとられる剣の風。追おうとして近くに既にレイヤーがいないことに気付く。そしていつ、自分たちが『そう』だと気付いたのか。情報は与えていないはずだ、与えるような状況もなかったはず。剣の風は内心でレイヤーのことを脅威になりうると考えていたが、それが今はっきりと確信に変わった。


「小僧・・・ここではないどこかで殺すぞ。必ずな」


 剣の風は一つの決意と共にその場を去っていった。

 一方でレイヤーはその場を去りながら、やはり冷や汗をかいていた。剣の風の正体をつかもうとしたが、薄壁一枚向こうにいる相手の正体を掴むことがどうしてもできない。だが明らかにその形で人間であることは掴んだ。そして背丈も体格も、おそらくは標準的な人間のそれだった。


「だけどわからないことが多いな・・・どうやって普段は暮らして、どこにいるんだ? 生活の手段はあるはずなのに、そこまで上手く人間の生活に溶け込めるものなのか?

 それにサイレンスと同じ仲間のはずなのに、今までの人形と違ってまた判別のつかない個体だった・・・何種類も個体の種類があるとしたら、他の個体を見てもリサでも区別がつかないかもしれない。より精巧な感じを受けたし、とても厄介だね。できればシェーンセレノとやらも一目見たいけど、見ても区別がつかないかもしれない。

 さて、それより今はアレクサンドリアか。このまま行くか、それとも――?」


 夜に忍び込むのと、今動くべきかどうか。レイヤーはしばし考えて夕方がよさそうだなと考えた。

 そして一つの重要案件を思い出したのだ。


「あ、まずい。エルシアの試合を見に行く約束をしたんだった。まだ間に合うかな・・・走ろう」


 そして風を巻いて走るレイヤーがそこにいた。まさか剣の風も自分をまくほどの速度で走ったレイヤーが、女との約束でいなくなったとは露ほどにも思わなかった。



続く

次回投稿は、4/25(木)17:00です。連日投稿になります。

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