表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
1791/2685

戦争と平和、その329~大陸平和会議九日目、午前③~

「何もないとは言いません。ですが確証もないまま、相手のことを誹謗中傷する気もありません。おわかりいただけますか、レイファン小女王」

「ええ、わかりますともミューゼ殿下。ですがここにいる者が信頼できるとおっしゃるのなら、せめて疑惑のことだけでもお伝えいただければ幸いですが」


 レイファンの眼光が鋭さを帯びる。ここでミューゼが疑惑を口にすれば、「誰が最初に発言したか」が明確になってしまう。疑惑をばらまくことはよいのだが、ミューゼが自分の口から発するのは避けたかった。

 もちろんレイファンはそれもわかったうえでの発言である。ミューゼの信頼を将来的に損なわせるために、わざと促している。為政者としては牽制の一打として当然ともいえる発言だが、今はそんな場合ではないことくらいわからないのかとミューゼは腹立たしく思った。

 だがそれも致し方ないことか、あるいはもし自分がシェーンセレノと真っ向から対立することになったとしても、それはそれで問題ないのではないかとふとミューゼは思い立つ。これも賭けの内――そうミューゼが考えて、レイファンの言動に乗った。


「――では述べますが、予めこれはまだ疑惑の範疇を出ない話であることを皆さんは肝に命じてください。今回の殺人の犯人が、シェーンセレノの一派である可能性が高いのです」


 この発言に流石に部屋がどよめいた。諸侯を片手を挙げて制するミューゼ。


「お静かに――残念ながらいまだ動機は不明です。それに証拠もない――ですが、かなりの確率で彼女が犯人だという確信が私にはあります。その理由はお話できませんが、私を信じていただける方はシェーンセレノの身辺を探っていただきたいのです」

「しかし、そういった行為はアルネリアの役目では?」


 諸侯の質問にミューゼは反対する。


「アルネリアが最後までこの会議の主導権を握っていれば、それもよいでしょう。ですがアルネリアが会議の盟主から引きずり落とされる可能性もあるのです。その主導権がまだ我々ならよいですが、仮にシェーンセレノだった場合、彼女を非難できる材料がないとそのまま専横が始まります。そうなれば――」

「戦争一直線ということですね」

「そういうことです」

「私は賛成です」


 頷きかける諸侯に先んじて、先ほどまで批判していたはずのレイファンがいち早く同意した。そして今度はレイファンが席を立ち、話始めた。


「そもそも平和会議で戦争の話をするのがおかしいのです。シェーンセレノの動機? 簡単でしょう、アルネリアの信用を失墜させて会議と大陸の主導権を奪うことです。

 いつの間にか会議では戦争があった場合どの陣営により近いところにいるか、が諸侯の注目点になっていますが、我々は少なくとも開戦反対の意志を持った諸侯の集まりでしょう。自国の経済にも戦力にも余裕がなく、資源や製鉄など戦争で旨味を吸えるだけの産業もない。戦争をしても国が痩せ細るばかりの、言ってしまえば力を持たぬ国家。

 ならば最後まで戦争をしない主張を貫き通すべきです。ローマンズランドの魔物討伐など、勝手にやらせておけばよろしい。

 ここは一つ、皆でミューゼ殿下の考えに同意しようではありませんか」


 レイファンの話に皆が頷いていた。ミューゼはレイファンの話し方に含むところがないではなかった。成功すれば無論ミューゼの手柄となるだろうが、失敗すれば責任を覆いかぶせられるどころか、ミューゼが声をかけた諸侯がそのままレイファンになびくことになるだろう。

 そのことがわかりながら、ミューゼは決断を下したのだ。


「(ふん、せいぜい私の失敗を祈っておくがいいでしょう。私とて伊達にここまで準備をしてきたわけではないのですから。それにシェーンセレノが行動を起こさないというのなら、どのみち私が起こしていたわけですし)」


 ミューゼはそんな危険なことを考えながらその場にいる全員に話をしていたが、ドライアンだけは憮然としたまま賛成するでなく反対するでなく、終始無言で通していた。その様子をミューゼもレイファンも慎重に見守っていたが、ついにドライアンは一言も発することなくその場を皆と共に立ち上がり去っていった。

 そしてレイファンは部屋を出ると、さらに自分が用意した個室に入り人払いの上ルナティカに質問する。


「で、ルナティカ。あの場所に裏切り者が何人いたのかしら?」


 ルナティカはセンサーではないが、人が嘘をつく時に特徴が出るのは知っている。心音や汗のかき方と合わせて、嘘つきであろう者は見繕っていた。


「最低疑わしいのが三人。それぞれ尾行を付けたから、今日の夜には結論がでる」


 レイファンは当然、この集まりにも裏切り者が混じっていることを想定している。シェーンセレノに唯一対抗しうる勢力だ、当然味方のふりをした者をシェーンセレノが送り込んでいることは考えられる。レイファンとて、シェーンセレノには間諜を送り込んでいるのだ。

 ミューゼとてそれはわかっているはずだが、それでもここで動くことがそこまで重要だろうかとレイファンは考えた。


「(少し強引に過ぎる――それとも焦っていらっしゃる? だけど本当に証拠がないだけで、確信がミューゼ殿下にはおありなのだわ。私としては個人的には何かすべきかしら。それとも――)」

「レイファン、一ついいか? 嘘つきといえば、一番の嘘つきはシェーンセレノだ」

「え? それはどういうこと?」


 レイファンが予想もしない発言に、ルナティカが指を一本上げた。



続く

次回投稿は、4/17(水)17:00です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ