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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その328~大陸平和会議九日目、午前②~

「(アレクサンドリアと、シェーンセレノの間諜が一人も見当たらない、か。ただ優秀なだけでは片付けられない問題なのだということ。彼らの動向に気を配らねばなるまい。アルフィリースがいない時、万一レイファンに何かあれば責任問題では済まない)」

「ルナティカ」


 レイファンの声でルナティカが集中力を今に戻す。目の前にはドライアンとミューゼがいた。

 二人は神妙な面持ちでレイファンに話しかけてきた。


「レイファン王女、少しよろしいでしょうか」

「もちろん」

「個室を確保しています。そちらへ」


 ミューゼの計らいで個室へと移動する三人とルナティカ。個室には他にも諸国の代表がいた。

 レイファンが問う。


「彼らは?」

「彼らは今回の会議で我々と意見を共にする方々です」

「俺は共にしていないがな」


 ふん、とドライアンが鼻を鳴らす。この会議で基本的にミューゼはアルネリアを非難する立場をとってきた。

 魔王が各地に出没するも、そのことに関する神殿騎士団や周辺騎士団の対応の遅さ。紛争地帯への支援の乏しさ。大陸西部との協調路線。各地で起こった火災や地震への調査や保障がが遅れていることも指摘していた。そして魔術協会との連携の悪さも。

 ミューゼのこれらの意見に同調する者は多く、諸国からミランダやミリアザール扮する聖女はやり玉に挙げられ、返答に追われていた。ミューゼとしてはアルネリアが独占する権益を明らかにし、その一部でも自分たちや諸国に割譲する狙いがあった。事実、アルネリア単独で対応するには社会の構造は複雑になりすぎていて、不便になっていたのだ。それに諸国のアルネリアへの依存も脱却させたいという考えもある。何事をやるにしてもアルネリア頼りでは、いつまでたっても自立は望めない。

 果たして多くの国がアルネリアへの要望を口にしたが、それらが妥当かどうかはさておき、思いのほか反響があった。こういう不満は質ではなく数だとミューゼは考える。アルネリアに不満を抱く国が多いほどに、アルネリアの優位性は失われていくだろうと考えていた。

 だが、誤算が起きた。平和会議開催中の、現場での殺人である。ミューゼはアルネリアの優位性を揺るがし、権益を削りたいと考えていたが、何もアルネリアそのものを転覆させたいと考えているわけではない。アルネリアが仮に今なくなってしまえば、経済や防衛で依存している国々はその形を保てない。

 ミューゼには懸念がある。それはシェーンセレノのやり方である。ミューゼがアルネリアについて指摘し、その風潮を押すようにさらに証拠を挙げてきたが、そのどれもがミューゼよりも詳しかった。そして時にはやり過ぎではないかと疑うほど、追及が厳しかった。聖女はともかく、大司教のミランダが閉口するほどのまくしたて方だったのだ。

 やや諸侯も唖然とする中、シェーンセレノの弁論が続く場面が度々あった。ドライアンが渋い顔をし、ディオーレが呆れたような顔をする中で、アルフィリース一人が平然とその成り行きを見守っていた。何をアルフィリースは知っているのか。自分でさえシェーンセレノを調べようとして、『失敗』したというのに、アルフィリースが何かシェーンセレノの弱みを知っているのかと、気になってしょうがないのだった。

 だからレイファンをここに召喚した。そこにアルフィリースがいないのは予想外だったが、仕方がない。恐れるのは、ここからアルネリアの立場がさらに悪くなることである。少なくとも信頼できる諸侯と共に、ここからはアルネリアの擁護に動く必要がありそうだった。そこにレイファンとドライアンも引き込んでおく必要があると考えたのだ。

 ミューゼが席に着くと、やや強い口調で話し始めた。


「皆さま、お揃いのようですね。集まっていただいたのは他でもありません、ここで皆さんの意志と足並みをそろえておく必要があると感じたからです」

「足並みとは、いかような?」

「ここからのアルネリアに対する態度です」


 ミューゼは自分の考えを話した。ここまではアルネリアを批判する立場をとってきたが、今はどうやらそのような場面ではないこと。おそらくはアルネリアは責任を追及されるだろうが、これ以上アルネリアを責め立てても誰にも益がないどころか共倒れになる可能性があること。

 諸侯はミューゼの発現に頷いていたが、ドライアンは憮然として座り続け、レイファンもまだ静かに黙って聞いているだけだった。


「・・・以上により、我々は少なくともアルネリアを非難する立場を取らない方が賢明かと考えます。賛成いただける人は挙手をお願いします」


 ミューゼの発現に、多くの諸侯が手を上げた。だがドライアンとレイファンを含め、数名が手を上げない。

 ミューゼはため息をつきながら問いかけた。


「獣王様には賛成いただけないのでしょうか?」

「そうは言わぬ。だが物事の強弱だけを考え、一貫した主義主張がない者たちと歩調を合わせるのも、どうかと思うのだがな」


 ドライアンがじろりと睨むと、手を上げた者はばつが悪そうに眼を背けた。そして次にレイファンが発言する。


「ミューゼ殿下にいくつか質問があります」

「どうぞ」

「まず一つ、アルネリアをこの期に及んで責め立てる勢力があるかということ。この会議で主な勢力は我々と、シェーンセレノ。あとはローマンズランド、討魔協会もありますが、残りは中立を保つ個人主義の国々。シェーンセレノがアルネリアを責めない限り、その他の者は流されることでしょう。

 そして一つ。この期に及んで大事なことはアルネリアの責任追及ではなく、どこの愚か者が諸侯を手にかけたのかということ。シェーンセレノは聡明です。そちらの追及の方が先であることは誰の目にも明らかだと思いますが、何かご存じなのですか?」


 レイファンの質問にミューゼは即答しなかった。そう、ミューゼはシェーンセレノのことをある程度調べている。シェーンセレノがこの後どう動くか、ある程度の確信もある。多大な資金と人的損失を賭けて調べたのだ。シェーンセレノがどう動いて、そしてどう利用すべきか――賭けではあるが、策があるのだ。

 その前に立ちはだかろうとするレイファン。まだ確証はないのだろうが、やはり邪魔となるのはこの小娘かと、ミューゼは内心で賛辞と呪いを同時に送っていた。



続く

次回投稿は、4/15(月)17:00です。

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