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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第一章~平穏が終わる時~
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それぞれの選択、その1~再会~

 サブタイトルが変わりましたが、場面はそのままです。このまま第一幕ラストまで連日投稿で行きます。


***


 アルフィリースがルージュを天に還してからほぼ一日後。無事に沼地の北端についたミランダ達。


「おいフェア。本当にアルフィリースは無事なんだろうね?」

「使い魔からの連絡じゃね。焦るんじゃないよ、餓鬼じゃあるまいし」

「うるさいよ!」

「来ました、サーペントです」


 リサがいち早く察知する。サーペントも自分の姿を隠す霧のブレスは使っていないので、リサのセンサーもいち早く察することができた。

 どうやら頭の上にアルフィリースが座っているようだが、なぜかその姿は元気がなさそうだった。


「あれがそう?」

「元気がなさそうだな」

「それよりも、真竜の頭の上に乗ってますね・・・」

「なんて罰当たりな娘だい」


 フェアトゥーセをはじめとする一行が呆れた頃、アルフィリースもまた悩んでいた。


「ねぇ、サーペント。どうしよう?」

「ここまで来てその話か。来る途中で何度も話したではないか」

「でもやっぱりまだ気まずいよう。最初に何を話していいか、作戦はない?」

「知らんな。自分で何とかしろ」

「ケチ―!」

「ここまで真竜の我にさせておいて、何がケチか!」


 一日中ずっとこんな調子だった。だが頭の上ですやすやとアルフィリースが寝てしまう当たり、図太いやらなんやらで、サーペントは呆れたり感心したりを繰り返していた。


「(全く、ここまで誰かと会話をするのはいつ以来か。感情の浮き沈みも含めて、人間は本当に退屈せんよ)」


 そしてミランダ達の目の前に来ると、サーペントは頭を低くしてアルフィリースをおろしてやる。アルフィリースは身軽に飛び降りたものの、目線は下に向けたままで、ミランダ達とは目を合わせない。気まずい雰囲気が流れる中、ミランダがつかつかとアルフィリースの傍に近寄る。


「アルフィ」

「ミランダ、あの、その・・・」

「心配ばっかりかけて!」

「ひ! ご、ごめんなさ・・・あれ?」


 気がつくと、ミランダがアルフィリースを抱きしめて泣いていた。


「本当に心配したのよ・・・無事でよかったわ。もうどこも痛いところはない?」

「う、うん」

「それならいいの。・・・アタシはアルフィがどこかに行っちゃうんじゃないかって、ずっと心配してたのよ!?」

「あ・・・」

「アルフィがいなくなった後、ミランダは半狂乱になっていましたからね。沼地を全部さらってでもアルフィリースを探し出すんだって、大変だったんですよ?」

「まったくだ。止める方も命がけだった」


 リサとエアリアルがうんうんと頷く。


「まあそれはともかくとしてですね」


 ばん! とリサがアルフィリースの尻を蹴りあげた。


「いったい! 何するの、リサ!」

「リサを心配させた罰です。ですが、これで勘弁してあげましょう。もしチビ共が同じことをしていたら、尻を出して百叩きの刑なのですが」


 そう言ってリサもアルフィリースに抱きついてくる。


「私達は友人でしょう? 私は貴方に付いてくるために、アルネリア教会に可愛いチビ達を預けてまで行動を共にしているのですから。もっと頼ってください」

「そっか・・・ごめんね、リサ」

「アルフィ、我もだ」


 エアリアルが悲しそうな顔をしている。


「アルフィは我を妹みたいだと言ってくれた。我もアルフィを姉のように慕っている。姉妹とは助け合うものではないのか?」

「エアリー・・・」

「もっと我を頼って欲しい。それに我は決心したんだが、我は大草原を出ようと思う」


 その言葉に全員がエアリアルを見た。


「え、でもそれじゃあ・・・」

「もう決めたんだ。ウィンティアに言われてからずっと考えていた。我が本当に守りたいものはなんだろうと。大草原は守るべきものであって、守りたいものではない。我が本当に守りたいものは友人だ。それに父上にも言われたしな、心の赴くままに生きよと」


 エアリアルの表情は真剣そのものであり、同時に晴れやかでもある。ずっと悩んでいた問題に、答えが出たのだろう。固い決意がその瞳に感じられる。


「だから我はアルフィリースに付いて行くよ。これからもずっとな」

「エアリー」


 今度はアルフィリースの方がエアリアルを抱きしめていた。


「私、頼りないよ?」

「ふふふ、知っている」

「迷惑かけちゃうよ?」

「いいさ、そのくらいの方が支え甲斐がある」

「まああんまり迷惑かけるようなら、ひんむちゃえばいいのよ!」


 ユーティが言った一言に、全員がユーティを白い目で見る。


「な、なによぉ」

「まったく・・・空気の読めない鍋の妖精です」

「だって、空気が重いからここはひとつ、私が盛り上げようとしてだなぁ」

「余計なおせっかいですよ。だいたい空気が重いのは、ユーティが湿気させているからではないのですか?」

「アタシはどんな水の妖精だ!?」


 ユーティがわめき始めたのを見て、全員が目を見合わせてくすりと笑う。それは久しぶりの全員の笑顔だったかも知れない。


「私も加えてくれよ」

「ニア! もう体はいいの?」

「ああ。すっかり元通りとはいかないが、あらかたな。一カ月もすれば完調になるだろう」

「フェアトゥーセ、ありがとう!!」


 アルフィリースがフェアトゥーセに手を振る。


「ほら、楓もこっちに来な!」

「は、しかし私は」

「いいんだよ、細かいことは!! それともアタシの命令が聞けないってのかい?」

「はあ・・・わかりました」


 楓も加わり、全員で輪を作ってきゃあきゃあと話しあっている。その様子をサーペントとフェアトゥーセが、子どもたちを見守るような目つきで見守っていた。

 そしてひとしきり話し終えると、ミランダが思い出したようにアルフィリースに提案する。


「あ! そうだ」

「どうしたの?」

「ラーナのことさ」


 いきさつをミランダがアルフィリースに話す。


「ラーナ、こっちにきな!」


 呼ばれてしずしずとやってくるラーナ。


「アルフィの意見を聞きたくてね。どうしようか?」

「私は全然構わないし、むしろ歓迎なんだけど・・・えいっ!」

「きゃあっ!」


 アルフィリースが突然ラーナのフードを引っぺがしたので、驚いてラーナが悲鳴を上げた。


「あ・・・」

「って、ラーナ話せるのかい!?」


 しまったという感じで、ラーナが慌ててフードを元に戻して、フェアトゥーセの後ろに隠れた。太陽の元で見るラーナの容姿はやはり不気味だったが、アルフィリースは平気な顔をしている。


「旅のお供はいいけどね、その顔を元に戻してあげたら?」

「ふう、やっぱりおじょうちゃんは騙せないか」

「? どういうこと?」


 ミランダ達がよくわからないといった顔で、アルフィリースとフェアトゥーセのやりとりを聞いている。


「どうもこうも、ラーナって子の顔は作りものよ。理由は知らないけどね」

「「「えええ!?」」」」


 驚く一同を尻目に、全く悪びれもしないフェアトゥーセ。


「こうでもしておかないと、沼人の求婚が鬱陶しくてねぇ。まあ奴らにはこの外見すらも関係なかったけどさ。ちょっとおじょうちゃんがどんな反応をするか試してみたかったのさ。なにせこちとら手塩にかけた、娘の様な子を預けるんだからね。もっとも取り越し苦労だったみたいだけどね。ちょっと待ってな」


 フェアトゥーセがなにやら懐から瓶を取り出し、ラーナの顔に塗っていく。そしてしばらくすると、ラーナの顔を毛の生え際から丁寧に剥いでいく。するとどうだろうか、下からは可憐な顔の娘が出てきたではないか。


「ふう・・・」

「ラーナ、ごめんよ。この子たちが来てからはずっとこの顔だったから、さぞ苦しかったろうね」

「いえ、フェアトゥーセ様。このくらいのことは、何というほどのこともありません」


 少女がにこりと微笑む。フードを取ったラーナは茶色の瞳に黒い髪。髪は後ろでみつあみにし、さらに小さなみつあみを頭の横に垂らす。まだあどけなさを残す少女だが、どこか妙に艶めかしい。その可憐で可愛らしい容貌に、全員が思わずため息をもらした。


「改めて皆様にご挨拶を申し上げます。ラーナと申します」


 少女がローブの裾をつまんで、ちょこんと挨拶をする。その仕草もまた可愛らしい。


「いつから気づいたのさ、アルフィ」

「最初から。だって、あれだけ顔が無茶苦茶なのに、髪は大丈夫みたいだったし、だいたい首とかは何ともなさそうだったじゃない? まあどうやって変装しているのかはわからなかったけど」

「なるほどねぇ、こりゃ私の変装もまだまだだねぇ」

「そうかしら?」


 アルフィリースが意味深な目でフェアトゥーセをじっと見る。だがフェアトゥーセは気づかないふりをした。


「まあともかくだ、くれぐれもラーナのことをお願いしたいね。私の大切な娘みたいなものなんだからさ!」

「大丈夫よ、悪い様にはしないわ」

「では行って参ります、フェアトゥーセ様」

「ああ、達者でね。じゃあお前達、ここにある魔法陣に乗りな!」


 フェアトゥーセが呪文を唱えると、大きな岩がずれて下から魔法陣が現れた。その魔法陣の上に移動するアルフィリース達。もう一度フェアトゥーセとラーナが握手をすると、転移の魔術をフェアトゥーセが起動させていく。


「じゃあな、フェア。世話になった」

「礼なんざいいよ。それより今度は上手い酒を持ってきな」

「ははは、そうする」

「また会うこともあるだろうよ。それまで達者にな」

「フェアこそくたばるなよ?」

「ふん! 馬鹿をお言いでないよ!」


 だが最後の言葉が聞こえたものかどうか。既にアルフィリース達は転移を完了していた。その光景を見届けると、サーペントが人の姿になり、ゆっくりと声をかけてくる。


「フェアトゥーセ、話がある」

「ああ、あたしも話があるんだよ。ちょっと付き合いな」


 そして2人は沼地へと戻っていくのだった。その光景を見つめる目が、さらに2つ。


***


「奴ら来ませんね、ライフレス様」

「いや・・・先ほど沼地から出てきた。使い魔が確認したよ。だが転移を使ったようだな」

「え? それでは追撃は厳しいのでは?」

「・・・そうでもない。どうやら長距離と言うほどの転移ではないな。せいぜい3日程度の距離だ。北街道近くの、フェブランの近くに転移した。これも今、使い魔が確認した」

「そこまでの範囲に使い魔を?」

「言ったろう、今度の俺は本気だから油断はないと。沼地の周囲全域は五万の使い魔を放ち、現在俺の観察範囲内だ。しかも今回は休息十分だ。行くぞ、ドルトムント。戦いだ!」

「は! そのお言葉を待っておりました!」


 そう言ってドルトムントがライフレスの元に膝まずき、ライフレスが巨大な鳥を何匹か召喚する。そして魔王達と共に全員で分割して乗りこむと、あとには一陣の風が吹くのみだった。



続く


次回投稿は4/14(木)15:00です。感想・評価・ブクマありがとうございます。

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